物流コンプライアンスとは

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1. トラック運転者の労働時間

 最近では労働時間に関する規制が厳しくなりました。長時間労働による健康障害の発生を防ぐためですが、これは物流業に限らずすべての産業にいえることです。日本は労働時間が長い国だと言われています。確かに世界の水準と比べても平均よりは長い方に該当します。一方で時間をかける割にはアウトプットが大きくないため、世界水準から見てかなり生産性が低い国が日本だと言えるでしょう。
 
 このような環境下で物流の中でも運輸業は労働時間が長い作業に分類されます。そうかといって給料が良いわけではないため、人が集まりづらい状況にあります。運輸業では厚生労働省からトラック運転者の労働時間等の改善基準のポイントが示されています。その中で特に注目したのが、トラック運転者の一日の拘束時間です。
 
 それは原則として13時間以内とされています。もちろん例外として延長することもできるのですが、それは16時間が限度とされています。運輸業の方は当たり前にこのルールを知っていますが、輸送を発注する荷主やモノを受け取る着荷主も知っておく必要があります。なぜなら、長距離輸送を1人の運転者で行う場合には距離的な限界があるからです。途中で宿泊しながら行かないと、このルールから外れてしまうことがあります。
 
 このルールの遵守責任は運輸業の事業者にありますが、発注する側もルールを知っておくことで無理なオーダーをしなくなるという歯止めがかかります。ちなみにトラック運転者の1か月の拘束時間は原則として293時間が限度とされています。また拘束時間とは始業時刻から終業時刻までの時間で、労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間と理解しておくとよいでしょう。
 
 もう一つ知っておいていただきたいのが運転時間の限度です。1日の運転時間は2日(始業時刻から48時間をいいます。以下同じ)平均で9時間が限度となっています。つまり当日10時間運転した場合には、翌日は8時間までしか運転できないことになるのです。拘束時間は13時間が上限ですから、待機時間があればその分だけ運転時間が減ることになります。構内でトラックを待たせている会社はこのことを知っておけば、待機時間解消に向けての改善が進むものと思います。
 
SCM
 

2. 物流特殊指定

  製造業や小売業などの物流自体を生業としていない業種と物流事業者の間では下請代金支払遅延防止法(通称:下請法)は原則として適用されません。かといって荷主が強い立場を振りかざして物流事業者を締め付けることに問題があることは当然です。そこで国は下請法と類似した網をかけているのです。それが独占禁止法における物流特殊指定です。物流特殊指定に違反するおそれのある行為事例は次の通りとなります。
 
 支払遅延、減額、買いたたき、購入・利用強制、割引困難な手形の交付、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更及びやり直し、要求拒否に対する報復措置です。いかがでしょうか。下請法とそっくりですよね。つまり荷主である事業者が発注先である物流事業者に対して上記のような行為を行うと違法といわれるわけです。運送を例にとって考えてみましょう。
 
 運送とはトラックなどを使って地点から地点でモノを運搬する行為を指します。その際に積み込みや荷降ろしなどの端末作業が当然のごとく発生します。これらの積み込み・荷降ろしを荷主側で行う場合もあれば、トラックドライバーにやってもらうケースもあります。荷主が積み込み・荷降ろしを行っている間、トラックドライバーは手待ちになるため、その時間を使って積み込み・荷降ろしをやってもらうことを自主荷役と呼びます。
 
 この荷役行為をトラックドライバーにやらせること自体が問題ではありません。問題となるのはその料金を払わないことにあります。荷降ろし先で荷降ろしをしながら棚入れ作業を行わせる事例もあります。これもきちんと対価を払って行わせなければならないことは当然です。何となく物流端末行為は無償のサービスで行うという誤解がありますが、この点はビジネスですからきちんとする必要があると思います。
 
 もし、無償で強要した場合、不当な経済上の利益の提供要請と判断される可能性があるのです。いったん建物の中に入ったらそこで行う作業は構内請負作業です。運送業務とは異なるという認識に立つ必要がありそうです。
 

3. 下請法とコンプライアンス違反倒産

 物流を生業としている事業者がその仕事を下請けに出すと下請法の規制を受けることになります。運送を行っている会社が運送を下請けに発注するイメージです。下請法は皆さんなじみがあると思いますので詳説は避けますが、親会社に4つの義務と11の禁止事項を課しています。特に公正取引委員会の勧告を受けることが多い事例は「下請代金の減額」です。いったん決めた取引金額を後日一方的に引き下げることを指します。
 
 よくあるパターンとして荷主からのコストダウン要請を受けて、それと同率で一方的に取引金額を引き下げることがあります。軽微なものとしては発注書面を交付しないで電話だけで発注をすることや、発注書面を交付はしたものの記載...
 

1. トラック運転者の労働時間

 最近では労働時間に関する規制が厳しくなりました。長時間労働による健康障害の発生を防ぐためですが、これは物流業に限らずすべての産業にいえることです。日本は労働時間が長い国だと言われています。確かに世界の水準と比べても平均よりは長い方に該当します。一方で時間をかける割にはアウトプットが大きくないため、世界水準から見てかなり生産性が低い国が日本だと言えるでしょう。
 
 このような環境下で物流の中でも運輸業は労働時間が長い作業に分類されます。そうかといって給料が良いわけではないため、人が集まりづらい状況にあります。運輸業では厚生労働省からトラック運転者の労働時間等の改善基準のポイントが示されています。その中で特に注目したのが、トラック運転者の一日の拘束時間です。
 
 それは原則として13時間以内とされています。もちろん例外として延長することもできるのですが、それは16時間が限度とされています。運輸業の方は当たり前にこのルールを知っていますが、輸送を発注する荷主やモノを受け取る着荷主も知っておく必要があります。なぜなら、長距離輸送を1人の運転者で行う場合には距離的な限界があるからです。途中で宿泊しながら行かないと、このルールから外れてしまうことがあります。
 
 このルールの遵守責任は運輸業の事業者にありますが、発注する側もルールを知っておくことで無理なオーダーをしなくなるという歯止めがかかります。ちなみにトラック運転者の1か月の拘束時間は原則として293時間が限度とされています。また拘束時間とは始業時刻から終業時刻までの時間で、労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間と理解しておくとよいでしょう。
 
 もう一つ知っておいていただきたいのが運転時間の限度です。1日の運転時間は2日(始業時刻から48時間をいいます。以下同じ)平均で9時間が限度となっています。つまり当日10時間運転した場合には、翌日は8時間までしか運転できないことになるのです。拘束時間は13時間が上限ですから、待機時間があればその分だけ運転時間が減ることになります。構内でトラックを待たせている会社はこのことを知っておけば、待機時間解消に向けての改善が進むものと思います。
 
SCM
 

2. 物流特殊指定

  製造業や小売業などの物流自体を生業としていない業種と物流事業者の間では下請代金支払遅延防止法(通称:下請法)は原則として適用されません。かといって荷主が強い立場を振りかざして物流事業者を締め付けることに問題があることは当然です。そこで国は下請法と類似した網をかけているのです。それが独占禁止法における物流特殊指定です。物流特殊指定に違反するおそれのある行為事例は次の通りとなります。
 
 支払遅延、減額、買いたたき、購入・利用強制、割引困難な手形の交付、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更及びやり直し、要求拒否に対する報復措置です。いかがでしょうか。下請法とそっくりですよね。つまり荷主である事業者が発注先である物流事業者に対して上記のような行為を行うと違法といわれるわけです。運送を例にとって考えてみましょう。
 
 運送とはトラックなどを使って地点から地点でモノを運搬する行為を指します。その際に積み込みや荷降ろしなどの端末作業が当然のごとく発生します。これらの積み込み・荷降ろしを荷主側で行う場合もあれば、トラックドライバーにやってもらうケースもあります。荷主が積み込み・荷降ろしを行っている間、トラックドライバーは手待ちになるため、その時間を使って積み込み・荷降ろしをやってもらうことを自主荷役と呼びます。
 
 この荷役行為をトラックドライバーにやらせること自体が問題ではありません。問題となるのはその料金を払わないことにあります。荷降ろし先で荷降ろしをしながら棚入れ作業を行わせる事例もあります。これもきちんと対価を払って行わせなければならないことは当然です。何となく物流端末行為は無償のサービスで行うという誤解がありますが、この点はビジネスですからきちんとする必要があると思います。
 
 もし、無償で強要した場合、不当な経済上の利益の提供要請と判断される可能性があるのです。いったん建物の中に入ったらそこで行う作業は構内請負作業です。運送業務とは異なるという認識に立つ必要がありそうです。
 

3. 下請法とコンプライアンス違反倒産

 物流を生業としている事業者がその仕事を下請けに出すと下請法の規制を受けることになります。運送を行っている会社が運送を下請けに発注するイメージです。下請法は皆さんなじみがあると思いますので詳説は避けますが、親会社に4つの義務と11の禁止事項を課しています。特に公正取引委員会の勧告を受けることが多い事例は「下請代金の減額」です。いったん決めた取引金額を後日一方的に引き下げることを指します。
 
 よくあるパターンとして荷主からのコストダウン要請を受けて、それと同率で一方的に取引金額を引き下げることがあります。軽微なものとしては発注書面を交付しないで電話だけで発注をすることや、発注書面を交付はしたものの記載事項に不備があるようなことが挙げられます。決められた期日に下請代金を支払わないことも時々あるようですから注意が必要です。
 
 ビジネスを行う上でのルールが法令です。運送では私たちに身近な道路交通法があります。急いでいる場合のスピード違反もコンプライアンス違反ということになります。小さい会社の社長がよく口にする言葉ですが、「法令なんかを守っていたら会社はつぶれる」というものがあります。これは逆の視点から見るとルールを守れないプレーヤーが市場にいること自体が問題だといえるでしょう。
 
 企業倒産の中に「コンプライアンス違反倒産」というものがあります。法令違反を行っていた会社に役所の監査が入り、それがきっかけとなって倒産に至るケースです。この会社を可哀そうだと考えるのではなく、ルールを守れない者は市場から退場すべしと考えるべきではないでしょうか。誰でも社会のルールを守って行動をしているわけです。人も法人も同じです。最低限の社会のルールを守ってビジネスは行っていきたいものです。
 
 物流は下請法や道路交通法以外に数多くの法令が関わっています。念のために一度関連法令に触れてみてはいかがでしょうか。もしかしたら思わぬ勘違いをしていることに気づくことがあるかもしれません。
  

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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