物流改善の考え方と優先度

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1. 工場内物流の効率化とその影響

 皆さんは物流改善というとどのようなイメージを持ちますでしょうか。多くの人が物流はコストだという認識があります。物流=コスト、この考えは間違っているわけではありません。物流費を外払いしている場合、それを減らせばその分会社の利益になります。ですから物流コスト改善は必ずやらなければならない行為であることは間違いではありません。しかし、問題はその優先度と内容です。何が言いたいかというと物流コスト改善を優先的に取り組むことで、他に悪影響が出るケースがあること、これを知っていただきたいのです。
 
 これは外払いの物流に限りません。社内物流でも同様です。たとえば、工場内物流などはこの優先度について最も気を付けなければならない業務なのです。それは何故でしょうか。次のケースで考えてみたいと思います。工場内物流はサプライヤーから納入された部品を生産工程に運びます。この作業のことを供給作業と呼びます。
 
 工場内物流はどのようにしたら効率化できるでしょうか。物流の原理原則ですが、まとめて運ぶことは物流自体の効率化の鉄則です。では、この原則に基づき工場内物流が「まとめ供給」を実施したとするとどのようなことが起きるでしょうか。工場内物流の部署は今まで小刻みに運んでいた作業をまとめ作業化できますので、時間を省くことができます。その時間で他の仕事に取り組むことができるでしょう。
 
 では、生産工程ではどのようなことが発生するのでしょうか。まとめて運搬された「今使わない部品」の在庫がたまります。それによってラインサイドが狭くなり、今必要な部品を取り出す時に探したり、歩行したりすることになるでしょう。 結果的にものづくりの生産性が低下します。これは何を示しているのでしょうか。それは物流改善の優先度とやり方を間違えたといわざるを得ません。物流が自分たちの効率化というわがままを実行して生産工程にしわ寄せるという、絶対にやってはならないことを行ってしまったのです。
 

2. 間違った混載輸送

 前述のような事象は起こりうる話です。物流をコストとしてとらえるあまり、早くそれを縮めたいと考えた結果、他へ悪影響を及ぼすことを行ってしまったのです。私たちがどうしても考えておかなければならないことは「物流はサービス業」だということです。単なるコストではありません。
 
 物流という業務を通して、物流サービスを受けることでよりよく仕事ができることがあるのです。工場内の物流は、生産工程をサポートするサービス部隊です。物流というコストをかけてでも、部品を小出ししたり、順番通り並べて供給したりすることで、生産工程の効率は格段に向上します。物流でコストがかかったとしても、工場では圧倒的に生産工程の人員の方が多いわけですから大抵の場合十分にペイします。
 
 物流を細らせてはなりません。少なくとも生産工程への供給が十分なレベルに達していないとするならば、この供給サービスをきっちりと実施してから物流自体の効率化に取り組むことは問題ありません。低品質、低サービスのまま効率化に取り組むことは、工場にとって害である行為といわざるを得ません。
 
 トラック輸送でも考え方は同様です。物流の原理原則ではトラックを満載にして運ぶことで効率化に寄与します。では「今不要のモノ」まで運ぶことはどうでしょうか。来週の分まで混載すればトラックが満載になる、だからこのようなまとめ輸送を実行しようと考えたとしたら、ちょっと待ってくださいということになります。
 
 受け側は、その行為でどのような影響を受けるでしょうか。在庫の山ができ、保管場所を探して右往左往し、「今必要なモノ」を探す行為が発生し、多くの工数を要することになるでしょう。これも物流だけしか見ない改善というより改悪行為です。物流のプロであれば、同じものを混載するのではなく、「今必要な」他の部品等を探して混載することでしょう。単に簡単だからと先のような混載(先行輸送)を行うことは決して褒められたものではありません。やり方が稚拙です。もっと考え、努力し、人に迷惑をかけずに物流効率化は実施しなければなりません。
 
  SCM
 

3. 物流自体を優先するケース

 目の前のトラックの荷台を見て隙間があるからもっと積み込め、こういうことを上司から言われたことがある人もいることでしょう。たしかに、トラックは荷台をいっぱいにし、その保有する能力を目いっぱい活用することで物流効率化に寄与します。この考え方が間違ってるわけではありません。しかし、もし多頻度輸送を行うことでその後工程が効率化できるのであれば、必ずしもトラックの荷台をいっぱいにすることが正しい方策であるとはいえないでしょう。
 
 もちろん、他の荷物があってそれが今必要なものであるならば、それらの荷物も混載すればよいのです。しかし、後工程を犠牲にする物流はよくありません。むしろ物流でコストをかけてでも効率化を図らなければならない工程もあるはずです。このあたりの優先度を考える必要があります。
 
 もし、優先すべき工程がその会社の本業であるならば、ほぼ解は見えています。そうです。物流でロスがあったとしても原則として後工程を優先します。後...

1. 工場内物流の効率化とその影響

 皆さんは物流改善というとどのようなイメージを持ちますでしょうか。多くの人が物流はコストだという認識があります。物流=コスト、この考えは間違っているわけではありません。物流費を外払いしている場合、それを減らせばその分会社の利益になります。ですから物流コスト改善は必ずやらなければならない行為であることは間違いではありません。しかし、問題はその優先度と内容です。何が言いたいかというと物流コスト改善を優先的に取り組むことで、他に悪影響が出るケースがあること、これを知っていただきたいのです。
 
 これは外払いの物流に限りません。社内物流でも同様です。たとえば、工場内物流などはこの優先度について最も気を付けなければならない業務なのです。それは何故でしょうか。次のケースで考えてみたいと思います。工場内物流はサプライヤーから納入された部品を生産工程に運びます。この作業のことを供給作業と呼びます。
 
 工場内物流はどのようにしたら効率化できるでしょうか。物流の原理原則ですが、まとめて運ぶことは物流自体の効率化の鉄則です。では、この原則に基づき工場内物流が「まとめ供給」を実施したとするとどのようなことが起きるでしょうか。工場内物流の部署は今まで小刻みに運んでいた作業をまとめ作業化できますので、時間を省くことができます。その時間で他の仕事に取り組むことができるでしょう。
 
 では、生産工程ではどのようなことが発生するのでしょうか。まとめて運搬された「今使わない部品」の在庫がたまります。それによってラインサイドが狭くなり、今必要な部品を取り出す時に探したり、歩行したりすることになるでしょう。 結果的にものづくりの生産性が低下します。これは何を示しているのでしょうか。それは物流改善の優先度とやり方を間違えたといわざるを得ません。物流が自分たちの効率化というわがままを実行して生産工程にしわ寄せるという、絶対にやってはならないことを行ってしまったのです。
 

2. 間違った混載輸送

 前述のような事象は起こりうる話です。物流をコストとしてとらえるあまり、早くそれを縮めたいと考えた結果、他へ悪影響を及ぼすことを行ってしまったのです。私たちがどうしても考えておかなければならないことは「物流はサービス業」だということです。単なるコストではありません。
 
 物流という業務を通して、物流サービスを受けることでよりよく仕事ができることがあるのです。工場内の物流は、生産工程をサポートするサービス部隊です。物流というコストをかけてでも、部品を小出ししたり、順番通り並べて供給したりすることで、生産工程の効率は格段に向上します。物流でコストがかかったとしても、工場では圧倒的に生産工程の人員の方が多いわけですから大抵の場合十分にペイします。
 
 物流を細らせてはなりません。少なくとも生産工程への供給が十分なレベルに達していないとするならば、この供給サービスをきっちりと実施してから物流自体の効率化に取り組むことは問題ありません。低品質、低サービスのまま効率化に取り組むことは、工場にとって害である行為といわざるを得ません。
 
 トラック輸送でも考え方は同様です。物流の原理原則ではトラックを満載にして運ぶことで効率化に寄与します。では「今不要のモノ」まで運ぶことはどうでしょうか。来週の分まで混載すればトラックが満載になる、だからこのようなまとめ輸送を実行しようと考えたとしたら、ちょっと待ってくださいということになります。
 
 受け側は、その行為でどのような影響を受けるでしょうか。在庫の山ができ、保管場所を探して右往左往し、「今必要なモノ」を探す行為が発生し、多くの工数を要することになるでしょう。これも物流だけしか見ない改善というより改悪行為です。物流のプロであれば、同じものを混載するのではなく、「今必要な」他の部品等を探して混載することでしょう。単に簡単だからと先のような混載(先行輸送)を行うことは決して褒められたものではありません。やり方が稚拙です。もっと考え、努力し、人に迷惑をかけずに物流効率化は実施しなければなりません。
 
  SCM
 

3. 物流自体を優先するケース

 目の前のトラックの荷台を見て隙間があるからもっと積み込め、こういうことを上司から言われたことがある人もいることでしょう。たしかに、トラックは荷台をいっぱいにし、その保有する能力を目いっぱい活用することで物流効率化に寄与します。この考え方が間違ってるわけではありません。しかし、もし多頻度輸送を行うことでその後工程が効率化できるのであれば、必ずしもトラックの荷台をいっぱいにすることが正しい方策であるとはいえないでしょう。
 
 もちろん、他の荷物があってそれが今必要なものであるならば、それらの荷物も混載すればよいのです。しかし、後工程を犠牲にする物流はよくありません。むしろ物流でコストをかけてでも効率化を図らなければならない工程もあるはずです。このあたりの優先度を考える必要があります。
 
 もし、優先すべき工程がその会社の本業であるならば、ほぼ解は見えています。そうです。物流でロスがあったとしても原則として後工程を優先します。後工程を効率化するためにお金をかけていると考えればよいでしょう。物流改善として優先されるべき項目は「在庫削減」です。これを阻害するような要因は避けなければなりません。
 
 海上輸送も物流自体を優先させるべき項目だと考えられます。つまり、海外からモノを調達するのであれば、コンテナ単位で調達することになります。では普段継続的に調達している部品について、箱単位に購入するのか、端数購入も認めるのか、これはどのように考えたらよいでしょう。
 
 たとえば箱の入り数(SNP)が12個だったとしましょう。ユーザーは12個の倍数で購入することが一般的かもしれません。でも、生産計画が20台であるならば24個ではなく、20個ちょうどを買いたいと思うかもしれません。このようなケースです。もし、翌日にも生産する予定があるのであれば24個の調達でもよいかもしれません。しかし、次回の生産が翌月になってしまうのであれば、12個入りの箱と8個入りの端数の箱での購入も致し方ないかもしれません。
 
 このように物流を効率化するためには他とのバランスを考える必要がありそうです。あくまでも、物流とは第一義的には他部署をサポートする機能です。物流自体の効率化を前面に出して他へ悪影響を与えることは慎まなければなりません。
 

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この記事の著者

仙石 惠一

物流改革請負人の仙石惠一です。日本屈指の自動車サプライチェーン構築に長年に亘って携わって参りました。サプライチェーン効率化、物流管理技術導入、生産・物流人材育成ならばお任せ下さい!

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