4.ステージゲートプロセスにおける不確実性の対処の工夫
前回のその2に続いて解説します。革新性(イノベーション)と表裏一体の関係にある不確実性にうまく対処するために、ステージゲートプロセスには以下の合計10の工夫が組み込まれています。前回のその2に続いて、以下にそれら工夫を順番に説明したいと思います。
4.3 不確実性に起因する「誤りに対処」するための3つの工夫
以上のような活動を行っても、誤って本来前に進めるべきテーマを途中で中止してしまうということは起こるものです。そのため、この問題への対処もステージゲートプロセスに組み込んでおきます。
(8) 中止になっても継続の自由を与える
「中止になっても継続の自由を与える」のでは、意思決定したことにならないと思われるのではないかと思います。しかし、ここでは公式にはそのプロジェクトを中止するが、チーム側が本当にやりたいと思っているのであれば、メンバーの本業外の時間を使ってという前提で、「非公式」にそのプロジェクトを継続しても良いという仕組みです。3Mには15%ルールといって、自分の時間の15%程度を、あくまで仕事に関係することですが、好きな事に使って良いというルールがありますが、そのような活動によるものです。
(9) 中止テーマに別予算を与える
自分達の時間を使ってそのテーマを非公式に継続していても、プロジェクトが進展すれば、その内実験装置を買うなどの投資が必要になります。しかし、本プロジェクトは非公式に進められているのですから、予算はありません。そのような場合に向けて、別予算を用意するということをします。
(10) 中止になっても金庫に保存
ゲートで仮にそのテーマが中止となっても、そのテーマは新たなテーマに進化する、もしくは環境が変われば、事業成功の見込みが出てきて復活するなどの可能性もあります。そのため、中止テーマを捨て去るのではなく「金庫の保存」し、定期的に技術企画などが中心となりそのテーマ(それまでの成果)を見直ししたり、社内にテーマの成果を公開するということをします。
5.ステージゲートプロセスによる自由と管理のメリハリの実現
ステージゲートプロセスは、研究開発のテーマ・マネジメントにおいて、自由度と管理をバランス良く行うためのプロセスとも言えます。各ステージは研究者に日々の活動は基本的に任せておいて良い。しかし、ゲートでは、各テーマ・プロジェクトを徹底して事業の成功の視点から評価(管理)します。その評価の中で、プロジェクトの魅力度が低いと判断されたテーマは厳格に中止します。
5.1 「管理」ポイントとしての「ゲート」
各ゲートでは、テーマの評価項目があらかじめ用意されており、それに基づき各テーマはゲートキーパーと呼ばれる通常複数の評価者により評価され、次のステージに進むかどうかの意思決定がなされます。つまりゲートは「管理」ポイントと言うことができます。
5.2 「自由」な活動の場としての「ステージ」
ゲートで予め決められた評価項目により評価をする仕組みは、言い換えると、研究開発チームはそれさえ押さえておけば、後は自由に活動して良いということになります。特にテーマ創出段階では、この指針の存在は大変有効で、企業が求めるテーマの定義が既にゲートでの具体的な評価項目として示されていますので、研究者は、それに合致すれさえすれば、後は自由にテーマを選ぶことができます。「面白いテーマを探せ」だけでは、企業にとって面白いテーマは生まれません。なぜなら、面白いにはいろいろな視点があり、何に面白いと感じるかは、
立場によっても、個人によっても変わってくるからです。ステージゲートプロセスの評価項目では、この点を明らかにしておきます。
6.ステージゲートプロセスは管理のツールではない
上記では「管理」という言葉を使いましたが、それは「自由」の対比として...
「管理」という言葉を敢えて使ったもので、ステージゲートプロセスは、その本来的な意味において決して管理のためのツールではありません。まさに上で議論したように、イノベーションを継続的に生み出すためのマネジメント体系です。ステージゲートプロセスは、イノベーション創出に向けたプロセスで、その効果は世界中の多くの企業で実証されています。その証拠に、1980年代に開発された本プロセスは現在も、世界中で利用されています。是非本稿の読者の皆様の企業においても、ステージゲートプロセスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献
1) ロバート・クーパー著・浪江一公訳「ステージゲート法 製造業のためのイノベーション・マネジメント」、英治出版、 P.141