【パテント・ポートフォリオの構築方法、連載目次】
(3)-1.競争力分析マップの利用
出願人と課題、出願人と解決手段、出願人と用途に関する分析マップから、他社が取り組んでいるにも関わらず、自社が取り組んでいない課題、解決手段、用途を特定することがでます。それらは自社の戦略とは無関係であるから放置して良いと決め付けるのは早計であり、少なくとも机上におけるケース・スタデイは必要です。その上で、放置するか、探索的な検討を進めるか、あるいは開発テーマとして取り上げるかを判断すべきです。特に、化学品、材料、部品等の中間材料が対象である場合には、用途は重要な切り口であり、空白地帯を放置することは許されません。
特定の市場においてライバルとの間で市場競争を繰り広げている場合にはさらに精緻な検討が必要になりますが、そのためには以下に述べる「競争力分析シート」(図6)を作成し、活用することが望ましいでしょう。「競争力分析シート」は、注目する市場において競争優位性を持つ競合他社との間で特許出願及び特許保有状況の比較を行うものです。比較を行なう他社としては、例えば、市場シェアの高い数社を選択します。このような企業を選択して対比を行なうのは、競争力において自社に先行する他社へのキャッチアップ戦略を立案するためであり、もし自社がトップである場合には、自社の競争優位性をさらに確固としたものにするためです。
図6.競争力分析シート
図6において縦軸には、「戦略データ・ベース」に付加した情報の中から目的に適合するキーワードを選択して配置します。横軸には自社及び競合他社の特許出願、登録特許を配置するが、自社の場合には、ノウハウを配置することもできます。縦軸の課題、解決手段、用途等に対する自他社の出願状況の分析から、自社がどこで優位であり、どこで劣位にあるかを読み取ることができます。優位性をさらに伸ばしていくのか、それとも劣位を補っていくのかを戦略的に判断することによって、具体的な研究開発課題、特許出願課題の検討へと展開させていくことができます。
(3)-2.技術分析マップの利用
その5で解説の図5.課題-解決手段マップにおいては有機ELに関して顕在化している課題と解決手段が全て網羅されており、どのような課題に対して、どのような解決手段が検討されてきたか把握することができます。このマップ上で、課題-解決手段の新しい組み合わせを探ることによって、代替技術、競合技術の可能性を検討し、新しい研究課題、特許出願課題を探索することができます。このような網羅的な検討で重要なことはあくまで新しい可能性を見落とさないことであって、安易な思いつきで手を広げれば、経営資源の浪費を招くだけです。課題-用途マップ、解決手段-用途マップの場合も、同様な検討を行うことによって代替技術、競合技術の可能性を発見することができます。これらの作業をより効率的に進めるための手法として、課題-解決手段系統図(図7)があります。課題-解決手段系統図は下記のような手順で作成されます。
図7.課題-解決手段系統図の作成
① 課題-解決手段マップにおいて自社の注目する特許群を引き出し、それらの特許群を、因果関係(課
題-解決手段の関係)で整理すると、マップ1ができあがります。
② この系統図において、課題の上位概念あるいは解決手段の上位概念を抽出する。これがマップ2です
。
③ この上位概念の課題、解決手段について、強制発想で新たな課題、解決手段を創出する(マップ
3)
この流れを具体例で説明したものが図8です。
図8.中空糸型透析器の性能向上
ここでは、「中空糸型透析器の性能向上」と言う課題に対する「解決手段」として...
、「中空糸の薄膜化」、「中空糸の孔径アップ」、と言う特許出願が行われている状況を想定しています。上位概念化及び強制発想の筋道を辿ってみて頂きたい。こうした作業は、技術者、特許担当者、特許情報担当者が協力して実施することによって高い効果を得ることができます。強制発想の段階でNM法、TRIZ法等の発想法を利用することも可能です。
このような検討の結果を踏まえ、代替技術、競合技術領域に関する検討を行った後、自社の研究開発の方向性を見直すことが研究開発及び事業化を成功に導くための不可欠の作業と言えるでしょう。またこうした検討の過程を通して、特許群の構築及びパテント・ポートフォリオとしての最適化を進めていくことができます。
次回は、パテント・ポートフォリオの見える化を解説します。