『価値づくり』の研究開発マネジメント (その11)
2016-09-30
今回は、オープンイノベーションを経済学のキーワードから「競争原理」について、解説します。
競争原理の意味を調べると、「個人または集団が、必要とするものを獲得するために他者と競い合い、勝者が獲得できるとする、優勝劣敗の競争を受容する考え方。誰でも平等に競争に参加できる自由競争を市場や経済活動などの基本とする考え方で、資本主義の基本原理の一つとされる。」(デジタル大辞泉)という説明があります。
つまり、競争原理に基づき生産した製品やサービスは、最良のアウトプットとなるという原理です。もちろん社会にとって最良のものかは、議論が分かれるところかもしれませんが、競争原理は基本的には、社会にとっては良いものとして考えることができるでしょう。
通常市場では企業は、表面的には製品というレベルで「競争原理」に基づき競争をしているわけですが、実際はそれを実現する自社内のバリューチェーン、さらには、その前後のサプライチェーン全体を構成する自社の「一連の機能」で、競争していることになります。
しかし、自社の「一連の機能」すべてで他社に秀でるということは、現実には(非オープンイノベーション環境においては)なかなか難しいものです。例えば、自社のこの技術は世界でベストだが、生産は他社にもっと強いところが沢山あるといったように。したがって、ほとんど全ての場合、自社の「一連の機能」の中には他社に比べ弱い機能が包含されていて、本来的にはベストな製品を生み出しているとは言えません。
オープンイノベーション(協創)で世界中から「競争原理」に基づき、企業同志の切磋琢磨により実現されたベストな「単一機能」だけを集め、それにより「一連の機能」を実現したらどうでしょうか。
それは「一連の最強機能」であり、アウトプットのレベルはずっと高くなり、理論的には現状では世界ベストな製品を実現することができることになります。ただし、オープンイノベーションには、一方で「取引コスト」という追加コストを発生します。
ここまでの解説からわかるように、オープンイノベーションに参加する前提には、一連のバリューチェーンを構成するいずれかの機能において、世界でベストである必要があるわけです。つまりオープンイノベーションにおいては、常に「協創」の前には「競争」があるのです。オープンイノベーションは、決して仲良しクラブでは実現できません。むしろ、自社が「強み」と...
決めた機能では、従来の製品レベルでの競争以上の厳しい競争を戦っていかなければなりません。
この点を見誤ると、オープンイノベーションの果実を得ることは絶対にできません。 この点について、多くのオープンイノベーションを推進している日本企業が、その本質を理解していないように思えます。つまり、単に、「自社の既存の機能を前提として」、他社や大学をうまく利用しようという姿勢では、オープンイノベーションはうまくはいかないということです。