TOC(Theory of Constraints:制約理論)を一躍有名にした「ザ・ゴール」からレビューしますと、主人公は、ボーイスカウトのハイキングに同行して、その行進の様子から統計的変動を持つ製造現場との類似性を発見します。そして試行錯誤の結果、最も足の遅いハービーに太鼓を持たせ、彼の前には一定の間隔を確保し、先頭者と彼をロープで一定間隔に結ぶというアイデアに至ります。この3つの施策をドラムバッファロープ(DBR)と名づけ、ボトルネックが存在する製造プロセスに応用することで、短い納期と少ない在庫を同時に実現します。今回は、TOCとは?【マネジメント理論】意味や手順、事例を解説します。
※この記事は、専門家 村上 悟氏の記述に、ものづくりドットコム事務局が補足したものです。事務局の記載部分はグレー背景色で表示しています。
1. TOCとは何か
TOCとは、自然科学の因果関係を人が絡む組織の課題解決に適用し、自然科学における再現性のある科学を社会科学の領域に持ち込んだ制約理論で、イスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラットが開発したマネジメント理論です。
(1)「制約条件」とは?
「制約条件」とは、システム内で生産性や効率性を制限する要因や要素のことを指します。これらの制約条件は、システム全体のパフォーマンスに影響を与えるため、重要な要素となります。
制約条件を特定し、それに対処することで、システム全体の効率性や生産性を向上させることがTheory of Constraintsの目的です。制約条件を取り除くことで、全体のパフォーマンスを最適化し、目標達成に向けた取り組みを支援します。
制約条件は、生産ラインの特定の工程、資源の制約、市場の需要など、さまざまな要素に影響を及ぼすことがあります。それぞれの制約条件を正確に把握し、適切な対策を講じることが重要です。
(2)TOCとトヨタ生産方式の違い
TOCは、ボトルネックを特定し、そのボトルネックを取り除くことで全体の生産性を向上させる手法です。一方、トヨタ生産方式は、無駄を排除し、効率的な生産ラインを構築することで、生産性と品質を向上させる方法論です。
具体的には、TOCは、生産プロセス全体を見渡して、最も生産性に影響を与える制約を特定し、その制約を取り除くことで全体の生産性を向上させます。一方、トヨタ生産方式は、ジャストインタイム生産やカイゼンなどの手法を活用して、無駄を排除し、生産プロセスを改善していきます。
つまり、TOCはボトルネックを取り除くことに焦点を当てていますが、トヨタ生産方式は全体の生産プロセスを改善することに焦点を当てています。どちらも効率性を向上させるための手法ですが、アプローチに違いがあります。
2. TOC思考プロセスの手順
組織が目的達成に向けて活動するうえでの本質的な制約や課題を発見し、組織的に解決していくプロセスを提供します。つまり、組織の目的達成を阻害する悪しき方針や評価基準をあぶりだし、それを解決した"あるべき姿"を描き、それを活用・実現するためのプランを策定する体系的に問題を解決するアプローチ方法です。TOC思考プロセスは、図1の3つのステップで問題解決を進めます。
3. TOC思考プロセス 1:何を変えるか
4. TOC思考プロセス 2:何に変えるか
5. TOC思考プロセス 3:どのように変えるか
6. TOC思考プロセス 4:組織変革に対する抵抗を打破する
(2) ソリューションの方向性に合意しない
(3) ソリューションが問題を解決できると思わない
(4) ソリューションを実行するとマイナスの影響が生じる
(5) ソリューションの実行を妨げる障害がある
(6) その結果起こる未知のことへの恐怖
7. TOC思考プロセス 5:5つのツリー
(1) 現状構造ツリー
(2)対立解消図
(3) 未来構造ツリー
(4) 前提条件ツリー
(5) 移行ツリー
8. TOCの導入事例
(1)自動車製造業
ある自動車メーカーでは、製造ラインのボトルネックが生産性向上の障害となっていました。TOCを導入し、ボトルネックの特定と最適化を行うことで、生産性が向上しました。これにより、製品の生産量が増加し、納期遅れが減少しました。
(2)医療機関
ある病院では手術室の稼働率が低く、手術待ちリストが長くなっていました。TOCを導入し、手術室の効率化と手術スケジュールの最適化を行った結果、手術待ち時間が短縮され、患者の満足度が向上しました。
(3)小売業
ある小売店では在庫管理が課題となっていました。TOCを導入し、在庫の最適化と売れ筋商品の追跡を行うことで、在庫コストが削減され、売上が向上しました。また、在庫の回転率も改善され、商品の滞留が減少しました。
これらの事例は、TOCの導入により、生産性や効率性の向上、コスト削減、顧客満足度の向上など、さまざまな効果が得られたことを示しています。
9. まとめ
TOC思考プロセスは、論理に基づく、問題解決のフレームワークです。ここで言う論理とは因果関係のことで、因果関係の図式化に基づく分析手法が、問題解決のステップごとに用意されています。図解に基づく思考法に共通する課題として、図が大きく複雑になることがあります。模造紙と付箋紙では実用的な問題の取り扱いが非常に難しくなるので、専用のソフトウェアを用いることも検討の余地があるでしょう。ただし、TOC思考プロセスを学ぶことに加えて、ソフトウェアにも習熟が必要になるという難点があります。当事者意識を醸成するには利害関係者自身が分析を行うことが好ましいので、初期の分析には紙を用い、ファシリテーターがソフトウェアを使って整理するなど、適材適所で道具を使い分けるのが好ましいでしょう。