1. ブルウィップ効果を取りあげる理由
前回の連載『最先端のSCMテーマS&OP』では、その実現のためには「SCMオペレーションの精度向上」が重要である事を申し上げました。今回さらにこのテーマを取り上げるのは、「数量の精度」を高める努力を怠ったままS&OPの取り組みを始めても、より高い「金額の精度」が求められる経営判断の役には立たないことが明白だからです。早期にS&OPに取り組みながらも効果を出し切れず苦労している企業では、その根本原因が「数量」の精度であることが多いのです。数量精度に影響を与える大きな要素としては、以下が考えられます。
(1) 需要予測モデル・ITを活用した狭義の需要予測
(2) 販売見込みの「読み」を含めたフォーキャスト決定の運用・組織
(3) (1)(2)を除くその他のSCMの仕組み全体
(1)(3)については一般書籍、論文など、多くの報告がなされていますが、(2)は一概に論理で割り切れない人間系の根深い問題に根ざしており、まとまった書籍、論文等も少ないようです。そこで今回は、特に(2)についての解説を中心に進めます。しかし、『ブルウィップ効果』が、SCM最前線でしょうか。と読者の皆様よりきつい突っ込みを入れられそうですが、「うちの会社はブルウィップ効果を完全に克服できている」と胸を張って言える企業はそれほど多くはないでしょう。
2. ブルウィップ効果とは
一般的に『ブルウィップ効果』とは、需要情報が上流に伝わるにつれて、その変動が増幅される事と定義されています。
つまり、供給側では欠品や過剰在庫を恐れるために、実需の変動に対して過剰に反応し、上流に伝搬するにつれて変動が増幅され過剰在庫や欠品が発生する現象を指しています。通常、サプライチェーン上で需要家の最終需要を最初に予測・決定しているのは、顧客と直接営業活動を行う担当営業でしょう。供給が潤沢でない場合、営業は担当顧客への供給を確保しようとして、実際の需要以上の発注を上流に対して行う、いわゆる『サバ読み』を行います。これは、担当営業自身、あるいは所属営業部門における自分の身を守る行動であり、通常の環境では誰しもが行う行動でしょう。
上流の供給部門でも日常のオペレーションの中で、これが『サバ読み』であることが分かってくるので、下流の「需要」を逆に割り引いて生産するようになります。これが繰り返されると一体本当の「需要」が何なのか、さっぱり分からなくなってしまいます。ブルウィップ効果は、サプライチェーンの各ステークホルダーが提示する需要量・供給量への精度不信に対する『サバ読み』がその原因です。
この様な現象は製造業ではごく普通に発生していると想定され、これが本来全く別テーマであるはずの狭義の『需要予測精度』とごっちゃに議論され、SCMの基本中の基本である「実需」が捉えられないと...
いう問題を引き起こしています。
前回お伝えしたように「S&OP」をうまく実現・運用し実効を上げられている企業では、このブルウィップ効果克服そのものをテーマとする活動にしっかりと取り組み、精度の高い「実需」に基づいたSCMオペレーションを実現しています。回り道のようでも結局はそれがS&OPを実現する早道なのです。
次回は、ブルウィップ克服の方向性から解説を進めます。