SCMの適切な評価指標 SCM最前線 (その11)
2017-07-11
自社のSCMがどのレベルにあるのかは、興味深い問題でしょう。競合する企業のSCMレベルが自社に対してどのレベルにあるのか、劣っているのか、進んでいるのか、経営への貢献度はどうなのか、など、今後のSCM構築方針を決める上で最も重要な情報です。自社のSCMレベルを評価するために、例えば他社事例を聞いて、『そんなことやっているのか』『スゴいな』『ウチも頑張らないと』『実際聞いてみるとたいしたことないな』『ウチの方が進んでいるよ』など、何となく直感的に感じ取っておられるというのが実情ではないでしょうか。
また、SCMの完成度を評価するのに、評価基準に対して5段階評価し業界の先進事例と比較したものをレーダーチャートで示すことなどよく行われます。これは、自社とベンチマーク企業とを当該SCM評価基準で優劣を評価したものです。しかし、それを実際に実行すべきなのか、実行してどの程度経営にインパクトがあるのか、について答えてくれるわけではありません。この評価自体を決して否定するものではありませんが、実際に経営として実行すべきかどうかかは、この評価の外側にあるということです。
結局、自社のSCMが良いのか、悪いのかを明確に、特に定量的には把握しきれていないというのが実情でしょう。しかし、「そんなことが、そもそもできるのか、そんな空論を振り回す前にウチでは、まだまだやらなければならないことが山のようにあって、そんなことを考えている暇はない」 という読者の皆様の声が聞こえてきそうです。そう言われるのもムリはないとも思いますが、ただ自社の悪さ加減を本質的かつ定量的に理解しない限り問題点を絞りきれず、本来取り組むべきSCM改革の方向性を定義できないはずです。そのことが今日のSCMの発展を阻害している最大の課題だと筆者は考えるからこそ、今回このテーマを選択しています。今回は、SCMを評価する適切な指標、KPIがない事を示し、製造業にどのような問題を引き起こしているかを解説します。
SCMには適切な評価指標がないのでしょうか。下図は、金融業界における投資とリターンの考え方を示したものです。
現在100万円の資金を持っている場合、その投資効率は投資期間全体に対する複利で評価し投資先を決定するでしょう。一方、製造業における投資に対するリターンの評価は、現在どのように行われているでしょうか。
それは基本的には売上高営業利益率評価を中心に行われており、金融業界では常識である投資期間に対する評価はほとんど行われていないのが実情です。つまり、『どれだけの資源が、どれだけの時間投入された結果の利益なのか評価できていな...
い』のです。金融では常識である時間軸での投資効率の考えが、製造業ではきわめて希薄であり、「儲けの効率・スピード」の視点を含めた適切なSCM評価指標は存在しないというのが実情です。サプライチェーンのグローバル化が進展し投入資源が長期滞留する近年の経済環境下では、SCMへの時間軸評価の重要性はますます高まっていると言えるでしょう。
次回もSCMの適切な評価指標について解説を進めます。