意匠と商標、ボタンの掛け違い
2018-01-19
商標法での保護対象に「立体」が加わったとき、意匠法の牙城が崩壊し始めました。立体的な造形を絶対権として保護するのは唯一つ「意匠法」という意匠法の立場が浸食されたのです。そして、「部分立体商標」ともいうべき「位置商標」というものが保護対象となり、意匠法の存在意義が問われています。
「位置商標」というのは、特定の物品の特定の位置に「特定の形状・図形・色彩等」が存在し、それが「商品取引の目印」になる場合はそれを保護しよう、というものです。その典型例は、自動車BMWの「キドニーグリル」の形状です。
自動車をを指定商品として、キドニーグリルの輪郭線を表した「位置の商標」を出願すれば、おそらく登録されると思います。意匠登録には「新規性」という要件があり、新規性のない「キドニーグリル」の形態は意匠登録は難しかったのです。
他方、商標の保護には「新規性」は必要なく、逆に「広く知られている」が要求されます。登録の要件は真逆です。
次に考えるべきことは、新しいタイプの商標の登録開始によって意匠登録の価値が下がるのか、ということです。その結論は、下がらない。むしろ重要になるのではないでしょうか。この点を少し詳細に説明します。
新しい商標の登録保護開始は、ブランド創り、ブランド保護のためのツールが増えた、ということです。すなわち、従前以上に、色彩や「商品の部分の形態」がブランド創りのツールとしてマーケティング部門、ブランド管理部門でも意識されるということです。
とはいうものの、「色彩」(位置を特定した色彩を含む)や部分の形態が識別力あるものとして、容易に商標登録されるとは考えにくいことです。斬新であっても識別力はない、とは立体商標でしばしばいわれているところ。すなわち、同じ色彩、同じ形態を使い続けなければならないのです。しかも「独占的に」。不競法2条1項1号よりもハードルは高いでしょう。不競法のような一時の紛争解決ではなく、半永久的な絶対権ですから。
特定の色彩、形態を「独占的」に使用するために、唯一の手段が「意匠登録」です。
例えば、部分の色彩を特定した「部分意匠」、部分の形態を特定した「部分意匠」等による保護を受けつつ、長年独占的に使用して、商標としての「識別性」を獲得することが必要になろうと思います。
すなわち、「新規性」があるうちに意匠登録し、それによって「識別力」を獲得し、それに基づいて「商標登録」という流れになるのではないか、と考えています。
そもそもは、意匠とは何か、商標とは何か、ということとは別のところで、ある創作物を保護したい、どうしたらいいか。ブランド(を表す図形や色)を保護したい、どうしたらいいか。という「保護したい」という希望が意匠と商標の違いを分からなくしてしまっているのです。
企業にとっては、どんな法律を使っても、「保護できればいい」ということです。それは正しい判断だと思います。ある法律は全部使う。そして、「立体商標」は、意匠保護の保護期間を無限にすることができるツールであり、「位置商標」は立体形状の「部分」を対象として無限に保護できるツールということになります。
しかし、意匠...
としての保護と商標としての保護とは、根っこが異なるのです。意匠と商標は近づいた、という人がいますが、これは大きな誤解であって、たまたま同じ対象が「意匠」と「商標」の双方で登録の対象となるというだけの話です。意匠法の創作保護法としての立ち位置になんの影響もないのです。
商標が「識別標識」であるということは維持されていると思うので、「立体商標」や「位置商標」としての登録は、識別標識として不競法2条1項1号の「商品等表示」であるとの確認を受けたというものだと思います。