【目次】
第4章 親和図法の使い方 ←今回
第5章 マトリックス・データ(MD)解析法の使い方
第6章 マトリックス図法の使い方
第7章 系統図法の使い方
第8章 アロー・ダイヤグラム法の使い方
第9章 PDPC法の使い方
第10章 PDCA-TC法の使い方
新QC七つ道具:第4章 親和図法の使い方
4.3 事例に見る親和図法による混沌解明のノウハウ
4.3.1 親和図法活用上のノウハウと勘どころの説明へ
前節において、スタッフワークレベルの混沌解明に対する親和図法の使い方を、14のステップに従って詳細に説明しましたが、どうしても文章だけでは伝えきれないものが残ります。その点を補い得るのが事例紹介ですが、スタッフワークレベルのテーマの場合、内容の核心が企業秘密に属するので、全貌の紹介には至らず、隔靴掻痒の感が否めないのが普通です。したがって、今回開示済みの実用事例を取り上げ、それをベースに同じデータで再挑戦した結果も活用し、筆者なりの“親和図法活用上のノウハウと勘どころ”を具体的に説明します。
4.3.2 活用事例の概要
(1) 事例A、事例Bの違い
ここで活用する事例は、1N7研の親和図法研修課題“これからのQAはどうなるか”に対して提出したものです。ただ、この事例は、筆者がはじめて取り組んだものなので、前節で説明した、その後の諸経験を反映した14ステップすべては踏めていないので説明用事例とはなりません。そこで、同じデータを使い、今回あらためて14ステップを忠実に踏んだものを準備し、前者(1N7研での研修結果オリジナル)を事例A、後者(今回同じデータを再分析したもの)を事例Bとして、双方を比較しながら各ステップの勘どころを説明することにしました。
(2) 事例A(オリジナル)の説明
この事例は、筆者が参加した1N7研で、親和図法の課題“これからのQAはどうなるか”に対して提出したもので、今回パソコン上に再現したA型図解(含むB型文章化)を図4-5に示します。これは、筆者がはじめて親和図法に挑戦した事例であり、1N7研指導講師の懇切丁寧な指導あってのものです。
図4-5 親和図法A型図解の例 【クリック拡大】
ただ、このテーマは、当時筆者が抱えていた実務課題“新しい品質保証体系図の設計”と深く関わっていたので、単なる研修課題にとどめず、実務課題を念頭に研修後も引き続き解析を続け完成させたものです。提出期限ギリギリまで頑張った甲斐あって、それまでモヤモヤとしてつかみどころがなかった再設計に反映すべきことが、明確な方針という形で把握することができ、その解析結果をもとに、当時としてはかなり先進的なQA体系図を設計することができたのです。このように、最初の挑戦で、親和図法の“余法をもって代え難い効用”を実感できたことは、筆者にとり非常に幸運でした。
(3) 事例B(再分析結果)の説明
当初は、事例Aを使って説明するつもりでしが、前節で説明した“14のステップ”には、事例A以降、実務への活用経験を通じて手に入れた筆者なりのノウハウが多く含まれており、事例Aだけでは、十分説明しきれないことに気づいたのです。かといって、14ステップを踏んだ他の事例の最終結果は、前述したように全貌を開示するわけにはいかないのです。そこで思いついたのが、事例Aと同じデータを使って、今回14ステップを忠実に踏んで再分析したものを使うというもので、その再挑戦結果をまとめたものが、図4-6(B型文章化及び事例Aとの差に対する考察を含む)です。当初、14ステップの説明用事例作成のみを目的とした再分析でしたが、結果的に、KJ法を勉強しなおした内容の検証と確認にもなったので、その内容をステップの説明に反映しました。
図4-6 親和図法A型図解の例 【クリック拡大】
(4) 事例として特筆すべき点
親和図法を活用して結論を得ることに対する筆者の関心事は次の2点でした。
- 同じテーマに違った解析者が取り組んだらどうなるか
- 同じデータに違った解析者が取り組んだらどうなるか
前者については、筆者の個人的興味の域を出ないので、ここでは取り上げませんが、N7提唱の書に、本事例と同じテーマに対する1N7研の他班のA型図解が2例掲載されていますので、関心のある方は事例Aとの比較により感じをつかんでいただきたいと思います。
後者は、本題と深く関わる点が多いので、事例A、Bを比較を交え勘どころを詳細に説明します。ただ、この場合、事例AもBも、解析者が同じ筆者なので、比較の意味がないのではないかとの疑問が生じるのは当然です。しかし、今回実際に再挑戦してみての実感は、同じ筆者でも、最初の挑戦であった事例A当時と、23年の経験に加え、KJ法を勉強しなおした現在では別人といえる、ということです。その点につき、両者の比較説明の中で、どんな違いが、結論にどう影響したかに言及します。
いま一つ興味深いのは、川喜田氏が言語データの記録の大切さに触れ、日本語の曖昧さに言及した上で“時がたてば、自分も第二の他人となってしまう”としている点です。実際に再挑戦してみての感想は、データは筆者らが採取したものであるにもかかわらず、新鮮そのもので、同じ人間であっても23年も経てば別人そのものといえそうです。
(5) 親和図法による結論の多様性
言語データを直接解析する手法に“連関図法”と“親和図法”があります。連関図法の場合は、データ間の連関追求が“論理的(左脳主体)”になされるので、データ間の連関追求の熟成度さえ十分であれば、SQC手法のような厳密さは望むべくもないにしても、結論がある程度収れんすることは想像に難くないのです。しかし、データに対する取り組みが、「“情念(右脳主体)”による“発想(拡散的)”」が基本の親和図法の場合は、その結論が、十人十色になるのではないかとの懸念は拭えません。この点については、“空間配置”に関する同様の疑問に対する川喜田氏の次の答えがそのまま回答になるでしょう。
「一見すると十人十色で、万事空間配置をする人の主観次第のように見えるが、それなりによくできた空間配置はよくみると共通...
する部分が多く、十人二三色が最も普通である。素材に素直である限りはそう勝手な空間配置はできないのである」(筆者要約)
これが、そのまま親和図法の結論に対する懸念への回答になります、というのは、“空間配置”は、“B型文章化”すなわち“(親和図法を活用して得る)結論”の骨格だからです。特に、関係者の共通認識度が高いスタッフワークの場合はなおさらです。ただ、傍点をふっておいたが、前提である“それなりによくできた空間配置”というところがミソで、そこに一歩でも近づこうと筆者なりに努力した結晶が、前章でご紹介したStep13の「B型図解」というわけです。
次回 4.3.3 活用事例の詳細説明