「おもてなしの神髄」 CS経営(その54)

 
  
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

15. 革新的6次産業の発展:三ヶ日町農業協同組合

 前回の(2)に続いて解説します。
 

(3) 次なる一手は「オフィスみかん」

 三ヶ日町農業協同組合は、みかんを通じた新規市場、新規需要、新規顧客の開拓に力を注ぎ続けています。その試みの中核を担っているのが「オフィスみかん」です。みかんを食べる新たなシチュエーション、販売チャネルの創造、新規需要、新規顧客の開拓、潜在消費の掘り起こしを日々行なっています。
 
 たとえば、シチュエーションの創造においては、「会社・オフィスにみかんを置く」という戦略を手掛けています。すでに、オフィスに菓子を置き、食べた分だけ集金する仕組みは民間企業の間で広がっています。その市場に目をつけたのです。
 
 では、みかんをオフィスで食べることのメリットは何でしょうか。わざわざ買いに行く手間が省ける、果物のほうが菓子よりも健康にいいイメージがある、温めたり、冷やしたり、料理したりする必要がない、風邪防止、健康・美容にビタミン摂取が効果的、などです。その結果はどうだったでしょうか。
 
 従業員の健康増進に寄与する食生活改善プログラムを提案し、秀品Mサイズが入ったオフィスみかん専用の箱(3000円)を準備したところ、16力所の事業所の社員食堂で採用があり、3日間で約100kgmのみかんが出荷されることになったのです。
 
 三ヶ日町農業協同組合の取り組みはこれだけでありません。次は、「氷美柑」を紹介します。これは、特殊技術で旨みを凝縮した冷凍みかんで、「夏にもおいしい三ヶ日みかんが食べたい」というニーズに応えるプレミアムみかんです。光センサーで確認した糖度の高いみかん、添加物を一切使用していないカロリー表示のあるみかんを使用しているところがプレミアムの所以です。
 
 しかも外側の皮がむいてあるため、簡単に食べられます。食感はシャーベットのようであり、好みに合った硬さで解凍ができます。さらに、バッケージはまるで和菓子のような高級感漂うデザインで、海外への輸出も視野に入れています。
 

(4) 次代を担う農業従事者

 農業と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。「衰退」「農業人口の減少」「輸入品」などなど、否定的なイメージが浮かぶ人も多いでしょう。しかし、嘆いてばかりはいられないのです。農業従事者の減少は、国土の荒廃、あるいは自給率の低下に結びつくからです。
 
 ではどのような対策が必要か。農業の株式会社化、大規模化も一案ですが、そもそも、農業に魅力を感じる若者を増やさないことには何も始まらないと私は考えます。農業に希望を見いだせるなら、楽しいと思えるだろう。その楽しさは、「食」を通じて消費と結びつくのです。
 
 そこには「顧客を大切にする気持ち」があり、「顧客を大切に思い、そのために顧客に接近し、顧客の心の底に潜んでいる要望を理解し、これを実際の形にして顧客の支持を得る」という農業分野だけでなく、「すべての仕事」に共通する好循環が存在するはずです。
 
 そこで求められるのが、ES(従業員満足)です。三ヶ日農協では、選果場の設備を刷新することで、組合員の負担を大幅に削減したり、画期的なマッピングシステム(地図上に情報を載せる技術)を導入することで戦略を描きやすくしたりと、ES向上のために、さまざまな取り組みを実施しています。
 

◆東洋一と言われる三ヶ日農協の柑橘選果場

 

◆情報や行動を戦略に活かすためのマッピングシステム(地図上に情報を載せる技術)

  • 園地の地図情報(園地流動化の推進)
  • 作業受託・委託の推進 
  •             

    (5) 6次産業と革新的展開

     6次産業とは「第1次産業(農業など)」「第2次産業(製造業など)」「第3次産業(小売・サービス業など)」の3つを足したものです。三ヶ日町農業協同組合はこの6次産業化の顕著な成功例です。「みかんを栽培する」だけにとどまらず、新しい発想で消費者をつかむため、新たな製品を創造し、個人消費者だけでなく、地域住民、販売店、業務用ユーザーなど、さまざまステークホルダーが喜ぶ関係を構築しています。これはもはやWin‐Winを超えた展開です。個と全体がしっかりと結びつくことで、顧客満足、従業員満足、取引先満足、地域の満足、農協の満足という付加価値を創造しているのです。
     
     次回は、16.顧客のためにここまでするか:中央タクシー株式会社から解説を続けます。
     
     【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
          筆者のご承諾により、抜粋を連載
     

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