前回のその1に続いて解説します。
4. 撥水性コーティングによる防汚効果と撥水コーティング剤
撥水性コーティングは、水に濡れにくく水をはじく性質のあるコーティングを指します。屋外や水が存在する環境では、撥水性表面を水滴が流れ落ちていく際に汚れも一緒に流れていくことで、汚れを付着しにくくする効果があると言われています。但し、撥水性は水性の汚れのみに有効で油性の汚れに対してはその効果が低くなります。主な撥水性コーティング剤を表3に示しました。
代表的な撥水コーティングとして、フッ素樹脂系のコーティングが挙げられます。フッ素樹脂は表面自由エネルギーが低く、撥水性だけではなく、撥油性もあります。フッ素樹脂は、分子間に働く引力が非常に小さく、フッ素樹脂表面と汚れ物質との間に働く引力も小さくなります。このため汚れを付着しにくく、付着しても簡単に落としやすい性質を持っています。
代表的なフッ素樹脂として、4フッ化系樹脂であるPTFE(Polytetrafluoroethylene)があります。一般にフッ素樹脂は、加工温度が高く、樹脂等耐熱性の乏しい材料へのコーティングは難しくなります。屋外での施行が必要な場合や耐熱性の乏しい材料への加工を必要とする用途には、常温で硬化する反応型のフッ素樹脂塗料が用いられています。
フッ素樹脂と並んで撥水コーティングに用いられる材料として、シリコーン(Silicone)系の材料があります。シリコーンは、有機ケイ素化合物のことで、シリコーンゴムやシリコーン樹脂として様々な分野で利用されています。通常の有機化合物の主鎖が-C-C-であるのに対し、シリコーンは主鎖が無機のシロキサン結合-Si-O-Si-で側鎖に有機基を持つ特殊な構造をしています。
ちなみにシリコーンのことをシリコン(Silicon)と呼ばれることがありますが、シリコンはケイ素のことでゴムや樹脂等の有機化合物を指す場合にはシリコーンが正しい表現になります。シリコーンは分子骨格が無機の-Si-O-Si-を持つため、優れた耐熱性、耐候性を発揮します。また、側鎖の有機基にメチル基を持つ場合には、メチル基が表面に出て表面自由エネルギーが低くなり、優れた撥水性を示します。(図3)
尚、表3でシリコーン系コーティング材料としてシリコーンレジンとシリコーンオリゴマーを併記していますが、シリコーンオリゴマーは比較的低分子量のシリコーンレジンのことを指します。
図3.シリコーン皮膜
フッ素樹脂やシリコーンは低い表面自由エネルギーを持ちますが、これら表面に対する水の接触角は超撥水と呼ばれる状態からはかけ離れています。特に表面自由エネルギーが低い4フッ化系のフッ素樹脂でも平滑面における水の接触角は110°~115°程度です。
したがって、表3に示したコーティング剤いずれついても材料特性だけで超撥水性を達成するのは困難です。撥水性を少しでも向上させるために表面形状を制御する様々な工夫が成されていますが、撥水効果の持続という点では大きな課題が残されています。また、先にも述べましたが、撥水性は水性汚れに対してのみ有効で、油性汚れに対しては材料の表面自由エネルギーを小さくして汚れに対する結合力を小さくすることが重要です。
ハイブリッドタイプとして、フッ素変性シラン系のコーティング剤があります。この化合物は分子中にパーフルオロポリエーテル基とアルコキシシリル基を持っています。パーフルオロポリエーテル基は表面自由エネルギーが低く、高い撥水・撥油性を発揮します。また、アルコキシシリル基は空気中の水分で加水分解し、被塗物表面の水酸基と縮合して接着します。金属やガラスのように表面に水酸基を持つ材料は、このタイプのコーティング剤に適しており、タッチパネルやガラス等の指紋付着防止用途で用いられています。
5. 防汚性の持続という課題
今回の解説では、酸化チタン系、フッ素系、シリコーン系、ガラス系のコーティング剤を中心に説明しましたが、市場に出回っているコーティング剤はこれらのものをブ...
レンドしたり、複層化したり、粗さ制御材や帯電防止剤を添加したりと様々なものがあります。しかし、どの防汚コーティングも防汚性の持続という点で課題を抱えており、性能向上を目指してこれからも開発が進んでいくと考えられます。
【参考文献】
1)信越化学工業編:シリコーン大全 日刊工業新聞社
2)中島章:撥水性固体表面の科学と技術 表面技術 Vol.60, No.1(2009)
3)井本克彦:親水性コーティング 日本接着学会誌Vol46 No.5(2010)
4)唯岡英介、岩井満:ガラスコーティング技術による表面機能化 NEW GLASS Vol24 No.3(2009)
5)吉本哲夫:光触媒の固定化法 表面技術 Vol. 50, No.3(1999)