【目次】
第5章 マトリックス・データ(MD)解析法の使い方←今回
第6章 マトリックス図法の使い方
第7章 系統図法の使い方
第8章 アロー・ダイヤグラム法の使い方
第5章 マトリックス・データ(MD)解析法の使い方
5.3 MD解析法について
5.3.1 MD解析法、使用上の注意点、基本ステップ
本節、5.3では、MD解析法について、使用上の注意点を含めて、基本ステップとその意味を説明し、次節においてMD解析法を用いた解決事例の説明を通じ具体的な使い方の詳細説明につなげます。
ところで、前節で説明した無手勝流の取り組み過程で、合計点による評価が逆転しなかったり、2次元評価の検証結果が納得できるものであったりした場合、おそらくMD解析法は、筆者にとり、未だに遠い存在で、特に後者の場合、得意満面になって評価基準として採用していたかと思うと空恐ろしい気がします。
なぜなら、問題解決に自力で取り組む姿勢と意気込みは、問題解決のための必須条件ですが、優れた先人の経験が凝縮されている“手法”の存在を知らなかったり、今回のように、知っていてもその本質を理解できていないために、取り組みが非効率ならまだしも、間違った判断をする危険と隣り合わせだったわけで、こういった意味の勉強の大切さを再認識した次第です。
5.3.2 MD解析法は両刃の剣
いま一つ肝に銘じておかなくてはならないのは、ふさわしい手法を手に入れたからといって安心してはならないということです。確かに、MD解析法を用いることにより、無手勝流では手に負えなかったマトリックス・データから、厳密な数理統計分析を経て、明快な結論を手に入れることができるし、最近のコンピューターソフトでは、解析結果を2次元座標軸上にビジブルな形で表示までしてくれ重宝です。
しかし、MD解析法が対象とする事象は「代表特性は機能せず、要素還元法の適用もできない、多種多様な特性からなる複雑な事象」です。それを明快に解き明かすわけなので、要素還元法の比ではない前提条件があってはじめて成り立つことを銘記すべきです。
したがって、MD解析法活用に当たっては、計算そのものはブラックボックス任せでよいし、計算式を深く追求する必要はないのですが、各ステップの意味を理解し、アウトプットに対するチェックと正しい理解と判断ができる最低限の知識がなければならないことになります。
これは、手法全般にいえることでですが、特にMD解析法の場合は、最終のアウトプットがビジブルな明快さによる強い説得力があるだけに、解釈を誤ると大変な間違いを犯す危険性があることを肝に銘じておく必要があります。
5.3.3 活用対象の限定
MD解析法は、多変量解析法の中で、重回帰分析法に次いでポピュラーであり、その活用対象も多種多様です。したがって、MD解析法を理解することによって、問題解決能力は飛躍的に向上することになりますが、本書が目指す細部のノウハウについては、活用対象の種類、背景などにより、微妙に、時には大きく違ってくることがあり、誤解、誤用に至る心配を禁じ得ません。
そういった事態を避けるため、ここでいま一度、本書が対象とする事象を明確にし、諸説明は、あくまでその対象事象に限定したものであるということを確認しておきましょう。
ここで対象とする事象は、第1章において定義したスタッフワークにおける“混沌C”すなわち、“環境変化に伴い求められる総合評価基準が変化したために起こる混沌”であり、次の2種類が存在します。
- 評価対象母集団の変化が起因
- 評価サイドの変化が起因
前者は、ここで取り上げる事例の範疇であり、既存の評価基準や対処規定が通用しなくなり、代替の見通しがつかないケースです。
後者は、あるところで好評の製品が他のところでは受け入れられないケースや、突然変異的売上好調(不調)製品の好評(不評)理由がつかめないケースです。
いずれも、解析対象の評価要因が多く、要因それぞれについては把握できていますが、直接的な総合評価指標がつかみきれておらず、問題に対しては、試行錯誤的な経験...
則や取り扱い標準といった2次的な対応策で済ませていたところへの環境変化ゆえ、いわゆる混沌と表される状況に至るものです。
したがって、対応策としては、解析対象の本質を総合的な面から的確に把握し、今後の変化に対する対応も可能な状態にする必要があります。そういった観点に立った問題解決の起点である“解析対象の本質を総合的な面から的確に把握する手段”としては、MD解析法は“余法をもって代え難い”ところです。
次回に続きます。