検討範囲欠落防止機能 新QC七つ道具: マトリックス図法の使い方(その2)
2019-01-28
前回のその1に続いて解説します。
まず、前述の二見良治氏(大阪電気通信大学)から、N7研で説明を受けた「マトリックス図法が、N7の1つとして採用された経緯」が興味深く、手法活用上も参考になると思われるのでその概要を下記に紹介します。
「1972年2月のQC手法開発部会に、同氏がある不良原因解明に貢献した、不良現象/原因、と原因/製造工程、という2つの2元表(L型マトリックス図)を紹介したところ、納谷部会長から、双方の原因軸を共通にして3元表(T型マトリックス図)にするというヒントが出されるとともに、現象と原因などの要素を組み合わせた“マトリックス図”をつくることによって問題解決の着眼点を得る、いわゆる“マトリックス思考法”をN7の1つとしてまとめるよう指示があった」(筆者要約)
以上がN7に採用された経緯の概略ですが、N7開発の基幹である「用途開発」の真髄を見る逸話として強く印象に残っており、手法活用時の姿勢としても示唆に富む話といえます。
ところで、マトリックス図法は、先述の定義でも分かるように、物事の検討、分析、発想といったプロセスにおいて、かなり普遍的に行われる思考形態であり、日科技連主催の品質管理大会でも、すでに、当時最もポピュラーであった品質機能展開における「品質表」を筆頭に、種々の2元表の事例が多数報告されていました。
また、当時紹介された二見氏の調査結果によると、1960年代のアメリカにおいて、意思決定、研究開発システム、発想法、といった分野でかなり手法として確立されたものが多くみられており、これぞオリジナル、と特定するものを探すのは難しいようです。
ただ、今回執筆に当たり詳しく調査してみたところ、「技術予測入門」牧野昇(日刊工業新聞社、P.139)にある「マトリックス手法」というのが、3元マトリックス(T型マトリックス) にも言及しており、オリジナル手法といってもよさそうです。
しかし、いずれも、ある限定された目的への適用であり、それらを理解することによって生まれるマトリックス図法活用上の有益性は、限定されたものとならざるを得ないのです。むしろ、ここで注目すべきは、多種多様な限定的使用目的であったオリジナルを、「マトリックス図法」としてN7に加え、T(3元表)型を皮切りに、種々のタイプを開発したことにより、飛躍的な用途開発を促し、問題解決手法として大きく貢献したことです。そういった意味で、連関図法の持つオリジナリティーとは、若干ニュアンスは違うものの、用途開発主体のN7の中にあって、手法そのもののオリジナリティーも高いN7といえるでしょう。
マトリックス図法の効用は、もちろん定義にあるように“交点から「着想のポイント」を得て問題解決を効果的に進めることができる”ことです。ただ、これだけだと、「マトリックス図を描くと、だれにでも分かるようにはなるが、着想のポイントを得るだけだったら、何もマトリックスを描くまでもないのではないか」ということになりかねません。
しかし、「その着眼点に漏れはないのか」ということになると、周囲の者はいうに及ばず、本人でさえも、自信をもって“ない”とはいい切れないのではないだろうか(後述する事例3において、完成したマトリックス図を見ての実験係長の嘆息は、その典型といえよう)。
その点、マトリックス図を描くと、本人はもちろん、周囲のものもはっきりと確認することができるわけ...
で、この「検討範囲欠落防止機能」こそ、マトリックス図法の“余法をもって代え難い効用”といえます。
もちろん、定義の中の「2元的な配置の中から」の一文に従えば、当然その効用は手に入るわけですが、後述する“事例3”のように、一つ間違うと、せっかくの効用を見失う可能性もあるので、意識しての活用を強調する次第です。
次回は、マトリックス図法の効用を、代表的な3つの事例により具体的に紹介します。