暗黙知の形式知化 新QC七つ道具: マトリックス図法の使い方(その6)
2019-02-04
前回のその5に続いて解説します。
本事例に見る「マトリックス図法の効用」この事例は、マトリックス図法活用の“効果”としては上記説明の通りなのですが、“効用”という観点からレビューしてみると、本章の課題「挑戦計画策定」にとり示唆に富む効用といえ、それぞれに対する説明と、効果・効用についてのまとめを次に解説します。
3つの項目(評価項目・試験方法・試験設備)が関係する「評価体制」の現状把握を、あらゆる可能性を網羅したT型マトリックス図の交点(マス目)上で行うことにより、現体制を漏れなく把握するとともに、新たな視点(参考評価項目)の発掘にも成功しています。
この“新視点(参考評価項目)の発掘”というのは、とりもなおさず“ベテラン運転者の「暗黙知」の「形式知」化”といえます。このことは、将来的に他を凌駕できる高い目標達成のための「挑戦計画」における要実施事項を、関係要因を列と行に置いたマトリックス図の交点(マス目)上で把握することにより、要実施事項の欠落が防止できるだけでなく、新たな視点を通じた“「暗黙知」の「形式知」化”につながり、社内の隠れた“コアコンピタンス”を盛り込んだ実施事項の充実が期待できることを示唆しているといえます。
ただし、その場合は、行と列の内容がほぼ決っているこの事例とは違い、行と列に何を配置するか、また、要因をどこまで展開するかがポイントであり、その良し悪しが、戦略立案の死命を制することになるでしょう。
いま一つ、本事例で感じられるのは、「思考の発展性」であり、前回の図6-1の右上に示す、“設備チェック計画”がその典型です。
というのは、このブロックは、設備保全担当技術者がマトリックス図を見ていて、「今までの設備チェックは、設備保全の観点が主体でしたが、これを見ていると、評価体制全体のリスクマネジメントの観点も反映する必要性を感じたので、ここのスペースを使って設備チェック計画をリンクさせたい」といってできたものです。
これは、現在の評価体制をこのような形で把握すことにより、設備に対する負荷の軽重、代替性の有無、が一目瞭然に分かるところから生まれた発想です。すなわち、マトリックス図法の“一目瞭然性”が生む“思考の発展性”であり、ある意味【説明事例2】もこの範疇といえます。
このことは、本章の課題である、挑戦計画立案における「検討範囲欠落防止」に対するマトリックス図法の活用は、その一目瞭然性が生む“思考の発展”により、挑戦計画そのものの充実やレベルアップが期待できることを示唆しており、マトリックス図法の貴重な効用の一つとして意識的に活用すべきです。
以上3つの事例に共通していえることは、問題解決にマトリックス図法を適用し、定義にある基本機能を忠実に遂行してマトリックス図を完成させたときに痛感する効用は、マトリックス図の持つ「網羅性」と「一目瞭然性」による“検討範囲(または事項)の欠落防止”と“発想・着想の発展”です。
しかも、ここでいう“発想・着想の発展”は、定義に謳われているマトリックス図の交点に関わるものだけでなく、問題解決のスケールとレベルに関わるものも含んでの話であり、N7を“管理者・スタッフの”と付して提唱された真意をここに見る思いです。
したがって、マトリックス図法を活用する際は、この2点、“検討範囲(または事項)の欠落防止”と“発想・着想の発展”を強く意識することにより、より効果的な活用が期待できるのではないでしょうか。
挑戦管理の起点におけるポイントである「検討範囲の欠落防止手段」としての観点からマトリックス図法について論じてきましたが、最後に、今回あらためてマトリックス図法と真っ向から対峙してみて、本手法をN7の1つとして紹介されたときからずっと抱きつづけていた疑念が吹っ切れた点について触れておきます。というのは、第2項でも述べたように、マトリックス思考は当時すでに、かなり普遍的な思考方法であり、際立った成果のあったケースは、手法として確立されていたので、あらためてN7の1つの手法として取り上げることに抵抗感があったのです。
ところが、今回、持論である「オリジナルの理解がN7の的確な活用に必須」という観点から、手法として確立したものも含めて諸事例をレビューして至った結論は、それらの諸事例は前述した通り「有効性は限定的であり、必須とはいえない」だったのです。
そして、その過程で得た結論は、「普遍的であるがゆえに、限定的な目的への思いつき的な使用に終始していたものを、“マトリックス図法”としてN7に加え、T型を皮切りに、種々のタイプを開発したことこそ評価されるべきで、それによって飛躍的な用途開発が促され、企業内の諸問題解決に大きく貢献したことの意義は深い」とい...
うもので、疑念が吹っ切れたのです。
いま一つは、そのような観点からすると、先述した「技術予測入門」において提案されている「マトリックス手法」は、そのいわんとするところは、この「マトリックス図法」とさほど変わらないのですが、「N7の1つ」という位置づけがあったからこそ、現在のような発展をみることができたわけで、「新QC七つ道具」という提唱の仕方の卓越性をみる思いです。
次回は、第7章 系統図法の使い方に移ります。