クレーム対応の実態 クレーム対応とは(その6)

 

1.顧客が腹を立てている

(3) クレーム対応:火に油を注いだ一流企業の対応

 前回のその5に続いて解説します。
 
 メーカーへの直し要求が、延々繰り返されて、話を受け止めてもらえる部署と連絡が取れたのは、6回目の電話でした。つまり、私は被害を受けた企業へのコンタクトで、テープレコーダーのように6回も同じ話をさせられたことになるのです。言うまでもなく6回の電話は、すべて私か電話代金を支払い、自分の貴重な時間と手間をかけてしたものです。
 
 このメーカーは東京に本社を構えており、私の仕事の拠点も東京にあるので、電話代といってもたいした負担にはならないのですが、もし地方の顧客であれば6回の電話代金と手間を「負担させられる」ことが腹立たしいと感じるでしょう。さて、3度目の正直ならぬ6度目の正直でやっと担当部署に行き当たった私は、テープレコーダーのように昨夜の非常事態を説明しました。
 
 担当者は、私の話を聞き終わると、吐き捨てるかのように言ったのです。「それで、いったいどうすりゃいいんですか」どうすりやいいんだ。これが一流メーカーの応対です。担当者の話しぶりは、挑発的で、無礼至極でした。
 
 ここで怒り心頭に発して、怒鳴りまくったり、相手に金品などを要求しようものなら、即座に恐喝容疑で警察に通報しようという魂胆が見えてきました。たらい回しにされて6回も電話をかけた私は、このメーカーにとって恐喝目的で執拗に電話をかけてきた犯罪者と認識されていたのです。相手の思惑が見えてきた私は、電話をかけた理由を再度、丁寧に伝えました。
 
 「私は何台ものテレビを所有しているので、別にこの一台がなくても仕事や生活に支障は感じない。ただし、手元にはお客さまからお預かりした重要な資料がたくさんあるので、もし焼失でもしたら、とんでもないご迷惑をかけてしまう。ですから、ぜひ発煙の原因を究明してもらいたいのです」原因究明を望む。それが、私の偽らざる本心でした。しかし、担当者は最初から聞く耳を持っていなかったのです。「難癖をつけて、何かを要求するに違いない」と先入観に凝り固まった担当者に、私の本心は伝わりませんでした。それは、担当者の一言で確信できました。
 
 「ですから、修理をすればいいんですね」修理をすればいいんだろ。そうならそうとはっきり言ってくれ。そんな口ぶりで、担当者は修理を申し出ました。「いや、私は修理をしてくれと言っているんじやないんですよ。先ほどから、原因を追究してほしいと言ってるじやないですか」繰り返し、私は本心を伝えました。
 
 だが担当者は最後に一言、「では、修理品を預かりに行かせますので」と高圧的に言うと、電話を一方的に切ってしまいました。どうして被害者である私が、このような心外な扱いを受けなければならないのか。いったい、修理品を受け取りに来るとはどういうことなのか。そんなことを考え続けていると数時間後、「修理品を受け取りに来ました」と言って、二人の男が訪ねてきました。
 
 私はどうしても納得がいかなかったので、「私かお願いしたのは修理ではなく、原因追究なんですよ」と説明して、お引き取り願うことにしました。中途半端な事態になってしまいましたが、次にどのような対応がなされるのか待っていると再びメーカーの担当者がやってきました。「故障した商品を預かりに来ました」言葉のニュアンスは、修理品から故障した商品へ、微妙に変化していました。ようやく私の真意が理解できたのかどうかはわからないのですが、故障を認めたことだけでも、状況は前に進んだように思えました。
 
 だが、このときの私は、「この辺で次の展開を見よう」という気持ちが強く、「それなら、どうぞ持っていって原因追究をし...
てください」と、目の前のテレビを持っていってもらうことにしました。引き取りの担当者が書き込んだ預かり伝票を見ると、「テレビ一台」とだけ書かれていました。
 
 それを見て私は、やっぱりわかっていないのかと感じたのです。伝票には、故障商品を預かるに至ったプロセスや、故障状況などはまったく触れられていません。もし、私か要求する発煙の原因究明を行う姿勢が少しでもあれば、突然煙が出た状況や、事故時の処置などを詳しく聞き取って、原因追究の重要資料にするでしょう。だがメーカーの「誠意」は、被害者に「テレビ一台」の預かり伝票を手渡すことだけでした。私は、直感的に「これでは原因追究はまったく期待できない」と予感したのです。
 
 次回に続きます。
 
【出典】武田哲男 著 クレーム対応、ここがポイント  ダイヤモンド社発行
          筆者のご承諾により、抜粋を連載 
 

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