DNA 見えてきた、2030年の技術社会 (その5)

 

【見えてきた、2030年の技術社会 連載目次】

◆ DNAが設計図になる

1. 「2050年の技術」英エコノミスト誌編集部

 英エコノミスト誌の編集部がまとめた未来予測で「2050年の技術」という本があります。[1]自動運転やAI、エネルギー、バイオ、農業、医療など幅広い分野で将来の技術を予測しています。


 この本が優れているところは、最新技術の難しいテーマを我々の普段の生活にあてはめて解説しようとしているところです。それでも、ある程度の技術的な知識やバックグラウンドを持っていなければ、本当の内容を理解するのは難しいと思います。たとえば私の場合だと、自動運転やエネルギーについては、自分で記事を書く程度の知識はあるので、とても分かりやすかったです。一方、バイオやDNAなど、これまであまり関わってこなかった分野については、文面に書いてあることは分かっても、自分ではイメージができない部分が多かったのも事実です。

 つまり、この本は奥が深いということです。読む人の知識のレベルによって、理解の深さが変わります。最初に読んだ時と、新しい知識を得て読む2度目とでは、イメージできる世界がまるで違うということが起こります。

 私が理解できたもの、できなかったものを含めて、本の中で印象に残っているテーマをいくつか書き出してみましょう。

 その中で私が理解できてなかったDNAについて、新しい経験を基にこの本を読み返してみると、なるほど良く解ります。今回は、このDNAの活用について解説します。

2. DNA活用はここまで進んでいる

 昨年、たまたま仕事でDNA技術の最先端のベンチャー企業を訪問する機会があり、現状を知ることができたので、ここで概要を紹介します。

 MITからのスピンアウトでボストンにあるその会社は、DNAシーケンシングのプロセスをほぼ自動化しています。毎日大量のDNAシーケンシングをして、その情報を自社のデータベースに蓄積しています。

 彼らのビジネスは、客先からの要望に基づいて、タンパク質やバクテリアに特定の性質を持たせるための設計をすることです。DNAの塩基配列をデータ化して、その配列と自然界での特性を対応させたデータベースから、目的の特性を得るための塩基配列を探し出します。その配列をもったDNAを合成して、それを客先に提供するのです。そのDNAを使って合成したタンパク質が、たとえば洗剤の臭いビーズの原料になります。また、バクテリアの性質を改変するDNA操作をして、それを客先に提供します。それを培養して増やせば、例えばプラスチックを分解するバクテリア製品になったりするのです。

3. バイオが石油に代わる

 一方、タンパク質を構造材料に使うための研究も多く、有名なのはスパイダーシルク、つまり“蜘蛛の糸”です。くもの糸は機械的強度が強いことで知られています。これを人工的に作ることができれば、たとえば防弾スーツや航空機の機体に応用できます。すでに世界でいくつかのベンチャー企業が開発をしており、大きく2つのアプローチがあます。一つは、DNAを操作した蚕に“くもの糸”を作らせる方法。もう一つはDNAを設計してタンパク質を合成するアプローチです。いずれも実用...

化には至っていませんが、試作品はできています。

 もう一つのキーワードは発酵です。みそや醤油、ビールにワイン、チーズなど発酵で作られる食品は世界中にあります。この発酵プロセスが、将来のSustainable(持続可能)で分散型の生産プロセスのプラットフォームになると期待されています。DNAを操作した細菌を使って、発酵によって目的の物質を作り出すのです。必要なのは温度管理と酸素や一酸化炭素などの環境管理だけで、大掛かりな装置や大量の電力は必要ありません。いま石油を原料にして作っているほとんどのものが、自然由来の発酵プロセスで作り出される可能性があるのです。

 今回で、見えてきた、2030年の技術社会、連載を終わります。

【参考文献】
[1]2050年の技術 英『エコノミスト』誌は予測する、英『エコノミスト』編集部、2017年04月発行

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者