VOC:最終回 顧客の声から顧客の価値へ(その10)

【顧客の声から顧客の価値へ、連載記事へのリンク】

  1.  ボイス・オブ・カスタマー
  2.  目的やゴールを達成するためのプロセス
  3.  顧客フィードバックの重みとは
  4.  顧客満足度と顧客ロイヤルティ
  5.  「顧客満足度」の調査
  6.  顧客満足度を高めるためのアクション
  7.  VOCについて、Q&Aの形式で
  8.  VOCの第三段階、市場における企業価値の向上
  9.  品質ギャップ分析とは
  10. パワー・ブランドによる市場の独占

 

 これまで「顧客の声から顧客の価値へ」と題して、VOC(ボイス・オブ・カスタマー)の基本的な内容について解説してきましたが、如何でしたか。この連載を書き始めてから改めて気付いたことは、VOCの範囲は膨大で、しかも時代やテクノロジーと共に常に変化しているため「書いていてきりがない!」ということです。そこで今回は取り敢えず、これまでに書き残したいくつかの点に触れて、この連載の最後にしたいと思います。

【パワー・ブランドによる市場の独占】

 「VOCの究極の目的は何か」と尋ねられれば、「パワー・ブランドを構築し、市場セグメントを独占すること」と答えるでしょう。どの市場セグメントにもパワー・ブランドが存在し、その企業は競合他社よりも高い利益率を誇っています。そのようなパワー・ブランドを持つことが企業の究極の目的であり、VOCはそのための入り口だからです。

 パワー・ブランドは高い顧客満足度、高い品質、そして高い顧客価値を提供する製品やサービスの名称です。

 もし顧客があるブランド名を聞いて、高い顧客満足度、高い品質、そして高い価値を連想することができたら、その製品やサービスを提供する企業は高い顧客ロイヤルティ、プレミアム価格、高いリピート率、自然と口コミで伝わる広告、高い利益率を勝ち取るでしょう。

 一方、もし顧客があるブランド名を聞いて、低い顧客満足度、低い品質、そして低い価値を連想したとしたら、たとえ有名な企業が提供する製品やサービスであっても、すぐに顧客は離れてしまうでしょう。

 市場が認めるパワー・ブランドを作り上げて、それを維持管理するための情報を与えてくれる道具がVOCなのです(下図の緑色の部分)。

パワー・ブランドの作り方

【パワー・ブランド構築に失敗した例】

 パワー・ブランドを作ることは簡単ではありません。事実パワー・ブランドを構築しようとして失敗した事例の方が遥かに多いと思います。以下は典型的な失敗パターンです。

1. 有名ブランドの買収

 いくらある企業が他社が所有する有名なブランドを買ったとしても、そのブランドに優れた品質と顧客価値がなければ、そのブランドが持つ市場でのパワーは数年で失われてしまいます。例えば経営が傾いた企業からブランドを買収したとしても(例えば電気業界とか自動車業界など)、なかなか成功しない理由はこのためです。

2. コスト削減で品質も低下

 いくらパワー・ブランドであっても、コスト削減を理由に品質を落としてしまった場合は、数年でブランドが持つ市場でのパワーは失われてしまいます。さらなる利益を確保するために、企業はコスト削減を理由に製品やサービスの品質や機能を切り落としたりします(たとえば食品業界など)。それにより短期的な利益を獲得したとしても、長期的に見れば、そのブランドは失速していきます。

3. スピードが遅い場合

 いくらパワー・ブランドであっても、品質を継続的に高める努力が競合他社よりも遅い場合は、そのブランドの相対的な価値が下がり続け、やはり数年でそのブランドが持つ市場でのパワーは失われてしまいます。これまで市場では多くのメインプレーヤーが変わってきましたが(例えばコンピュータ業界など)、後退した企業は決して品質が下がったわけではなく、むしろ品質は上がり続けていました。しかし競合他社の品質がそれを上回るスピードで向上していたために相対的に品質が下がり、パワー・ブランドの地位を失ってしまったのです。

【正しいパワーブランドの作り方】

 一方、正しいパワー・ブランドの作り方は以下のようになります。

 中でも最も難しいことは、競争に勝てる(勝ちたいと思う)市場や顧客の選択かもしれません。つまり企業の規模を問わず、ナンバーワンになれる市場を見つけて、そのポジションを獲得するまで全力を尽くすということです。これはとても難しいことのように思えますが、Profit Impact of Market Strategy (PIMS)データベースによれば、主要なパワーブランドは皆これらを達成しているようです。この最も難しい選択の判断材料を与えてくれる道具がVOCです(図:パワー・ブランドの作り方の緑色の部分)。

【広告とマーケット・コミュニケーション】

 上図の緑色の部分がVOCとすると、青色の部分は製品やサービスの開発や改善となります。しかしパワー・ブランドを構築するためにはそれだけでは足りません。なぜなら競合他社よりも高い品質を達成したからと言って、市場(顧客)がそれを知覚してくれるとは限らないからです。企業にはその高い品質を顧客に伝えるための努力が必要です(上図の黄色の部分)。

 PIMSデータベースによれば、広告を出せば出すほどほど、市場(顧客)が価値を知覚する割合が高くなります。そして市場(顧客)が価値を知覚する割合が向上すればするほど市場シャアが増え、さらに相対的価格も上がります(プレミアム価格を付けられる)。

 PIMSデータベースによれば 、ある市場で広告を多く出す企業の利益率は32パーセントで、広告の少ない企業の利益率はたった17パーセントしかありませんでした。高い品質とその広告は、セットで 市場(顧客) に訴求する必要があります。どちらが欠けてもパワー・ブランドは構築できません。

広告とマーケット・コミュニケーション

顧客は相対的に価値の高いものを選ぶ

【顧客とのリレーションシップ・マーケティング】

 パワー・ブランドを構築する上でもう一つ重要な部分が、上図の黄色い部分「顧客とのリレーションシップ・マーケティング」です。特にBtoBビジネスでは重要になってきます。なぜならBtoBビジネスでは顧客との関与の度合いによって、ビジネスの成功率が左右されるからです。

【顧客関与の度合いによる顧客の分類】

 BoBビジネスでは顧客関与の度合いによって、新製品や新サービスの成功率だけでなく、ビジネス上のリスクや利益率なども変わってきます。それらの違いを理解するために、BoBビジネスでは顧客関与の度合いによって、顧客を次ぎの3種類に分類します。

【単純取引関係の顧客】

 定義と特徴

 単純取引関係は、製品やサービスを通じて、顧客企業も自社企業もそれぞれのビジネスを継続するために取引を行う顧客関与の関係です。単純取引関係には次のような特徴があります。

 良い点と悪い点

 単純取引関係の良い点は次のようなものです。

 一方、単純取引関係の悪い点は次のようなものです。

 【チーム関係の顧客】

 定義と特徴

 チーム関係は、顧客企業または自社企業のどちらかで、複数のチームメンバーが一体となってビジネスを遂行する顧客関与の関係です。チーム関係には次のような特徴があります。

 良い点と悪い点

 チーム関係の良い点は次のようなものです。

 一方、チーム関係の悪い点は次のようなものです。

 【パートナーシップ関係の顧客】

 定義と特徴

 パートナーシップ関係は、顧客企業側と自社企業側で複数の人が同じビジネスに携わり、ビジネス上の利益やリスクを共有し、それぞれの人が責任を持った仲介者・代理人となるような顧客関与の関係です。パートナーシップ関係には次のような特徴があります。

適な人材が割り当てられる
  • 高い協力関係 •非常に高いビジネスリスクと利益
  • 高い製品やサービスの差別化
  •  良い点と悪い点

     パートナーシップ関係の良い点は次のようなものです。

    • 製品やサービスの差別化レベルが高い
    • ビジネス上のリスクを共有できる
    • 革新的な製品やサービスが生まれる可能性がある
    • いち早く新製品や新サービスを市場に投入できる
    • デファクトスタンダードを確立できる可能性がある
    • 顧客の声を直接聞ける
    • ビジネスの成功確率が高い

     一方、パートナーシップ関係の悪い点は次のようなものです。

    • ビジネス上の利益を共有しなくてはならない
    • 良くない顧客企業とパートナーシップを築いてしまうリスクがある
    • 市場全体向けの製品やサービスを柔軟に開発できない
    • ビジネスリスクが高い •情報の共有度合いが高すぎる

     それぞれの顧客タイプにはそれぞれ良い点や悪い点がありますので、一概にどの顧客タイプが良いとは言えません。自社の規模や市場でのポジションなどを考慮し、最適な顧客との関与を構築するべきです。

    BtoBビジネスにおける顧客との関与

     
     
     

    【VOC:これまでのまとめ】

     これまで10回に渡り、色々とVOCについて書いてきましたが、VOC全体からは、この連載に書いてきたことはほんの一部に過ぎません。無数にあるリーンシックスシグマ関連の書籍の第一章は必ずVOCから始まり、著者の数だけ異なったVOCのアプローチがあります。またマーケティングの世界ではVOCは日進月歩で進んでおり、そのテクニックも限り無くたくさんあります。さらに最近ではウェブ・マーケティングと人工知能や機械学習を組み合わせたVOCが主流になりつつあります。VOCだけでなく、その情報源である顧客側も昔とはずいぶん変わりました。

     しかし、顧客がモノではなく、価値(つまり対価に対する品質や機能)を買うという点は、昔も今も変わっていないと思います。また企業が競争に勝つためには、使うVOCテクニックに関わらず、競合他社よりもそれを早く回すという「スピード」が重要な点も変わっていないと思います。その意味においては、これまで連載に書いてきたことは今後も広い範囲で使えるのではないかと思っています。

     

    ◆関連解説:サービスマネジメント

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