◆ データ活用やAIで「効率化」すべきか、今までの「やり方」を変えるべきか。
IT化は、効率化のためだけでなく、やり方を変えるべきだ。このように従来から言われています。ペプシ工場の清掃係から、米国の陸軍大将に上り詰め、その後ブッシュ政権下で国務長官にまでなったコリン・パウエル氏も……「ハードウェアが変わるたびに、考え方を変えろ」……と、著作の中で述べています。
AI化とは、データをフル回転に活用したIT化に他ありません。AI化とまでいかなくても、単なるデータ活用も、効率化のためだけでなく、考え方を変えやり方そのものを根本的に変えなければ、その効用を得ることはできません。効率化以上のデータ活用もしくはAI化の効用を得るためには、何が必要でしょうか。
1. データ分析:現状を知ることから始めよう
データを使って、ビジネスに良いインパクトをもたらそうと考えたとき、一番やりやすいのが効率化です。要するに、3ムダラリ(ムダ・ムラ・ムリ)と言われている改善活動を、データを上手く活用することで、実際に効率化することができます。しかし、上手くいかない企業も多いようです。原因は、色々あります。私は、現状把握が非常に甘いと感じています。データ活用の真剣さが低いとも言えます。
実業務レベルの状況把握が必要なのに、現場のマネジャーレベルのヒアリングや現状調査止まりのケースも多々あります。その業務に精通した人ではなく、その業務を現在実施している人に、ヒアリングする必要があります。
2. データ分析:業務プロセスレベルまで把握する
ある企業で、その業務の責任者の方にヒアリングしました。一部業務のAI化による効率化のためです。その業務は、セキュリティーシステムから送られてくる大量のアラート(データ)を、脅威レベル別に分類する業務でした。システムは異常値を検知しアラートを送ってきます。その異常値が、問題のある異常値なのか、問題のない異常値なのか、問題がある場合どの程度の問題(脅威)なのか、までは分かりません。
要するに、ヤバいかもしれない可能性のあるデータが大量に送られ、その大量のデータを人の目で見て確認し、先ず「問題なし・問題あり」に分類し、その後、問題ありのデータを脅威レベル別に分類する、という業務です。
最初、その分野のエキスパートであるマネジャーに、どのようなことをしているのかをヒアリングしました。そのヒアリング内容をもとに、AI化による効率化を進めても問題ないかもしれません。
しかし、大きな落とし穴が待ち構えています。その落とし穴とは、そのAI化は、一般化されていない可能性が高い。現場の人のやり方が異なれば、使い物にならないAI。
そこで、末端の実業務をしている人にもヒアリングをしました。案の定、人によって業務の進め方ややり方が異なっていました。末端の実業務をしている人からヒアリングすることで、本当の業務プロセスを知ることができます。その上長やその分野の高度なプロから見た業務プロセスは、現実と少しずれている可能性があったり、半分理想論が混ざっていたりします。
3. データ分析:効率化できそうなポイントが見えてくる
通常、人によって業務の進め方ややり方が異なります。しかし、共通した事項も見えてきます。手早く効率化を目指すなら、その共通事項の中だけでAI化できそうなことを探し、実現すればよいでしょう。
さらに、末端の実業務をしている人にもヒアリングしていたことで、自分たちの意見が反映されたAI化という意識が芽生えています。要するに、AI化という名のものとのデータ活用を、現場で実施してくれるということです。
データ活用やAIだけでなく、IT全般でも同じことでしょう。ある一部の人の考えをヒアリングして実現したIT化は、現場の人からかけ離れているかもしれない。
4. データ分析:そもそも、その業務は必要か?
業務プロセスを洗い出すと、次のような疑問が湧いてきます。
「その業務、効率化云々の前に、そもそも必要か?」
業務プロセスを洗い出したときの効用として、全体のプロセスを眺めたとき、どの業務にも大して影響を及ぼさない無駄な業務が、赤裸々に浮かび上がることがあります。末端の実業務をしている人にもヒアリングをした後、共通事項を探すだけでなく、各人の業務プロセスの中に、削っても問題ない業務を探すとよいでしょう。その人の業務プロセスが見える化されていることで、なぜその業務が不必要なのかが一目瞭然になり、本人も納得しやすいことでしょう。さらに、共通事項の中に不必要な業務を見つけることができれば、業務全体にとって大きな効率化になります。
5. データ分析: 削除・統合・追加
末端の実業務をしている人にもヒアリングをすることで、各人の業務プロセスが洗い出されます。各人の業務プロセスを、できるだけ一つの統一化されたプロセスへと標準化すると、今まで以上に効率化できることでしょう。
先ほど述べました通り、先ずは不要な業務の削除から始めます。
その次にするのは、統合です。すべての業務プロセスを包含するような、冗長な業務プロセスを作ります。そこには、現場の色々な人の知恵が反映されることでしょう。つまり、無駄と知恵が雑居している壮大な業務プロセスです。
その壮大な業務プロセスから、次に無駄を省くことで冗長さをできるだけなくします。文字の説明だけでは分かり難いかもしれませんが、一度大ぶろしきを広げ、徐々にスマートにしていく感じです。
徐々にスマートにしていくとき、幾つかの業務を一つに統合出来たり、新たに追加する必要のある業務が出てきます。
例えば、ある一連の業務を自動化できたとしましょう。その自動化する内容は従来の業務ですが、その自動化のためのシステム操作は、新たな業務になります。つまり、自動化された業務が、人からAI(人工知能)などのシステムに移行し、そのシステムを操作する業務が新たに発生するということです。
このとき、新たな業務の方が従来業務よりも工数が増えてしまっては、意味はありません。工数が増えてしまうと、それはIT化によって業務が非効率化したということになります。削除・統合・追加を通して出来上がった業務プロセスは、もはや誰の業務プロセスとも異なります。新たな業務プロセスです。多くの人にとって、やり方が大きく異なることでしょう。
しかし、大丈夫です。末端の実業務をしている人にもヒアリングしていることで、各人の業務プロセスが洗い出されているため、各人にとって新たな業務プロセスとの差異が明白です。何がどう変わったのかが分かります。
逆に、末端の実業務の調査をしていなかったら、新たなやり方を上から押し付けられるだけで、やる気は半減することでしょう。場合によっては、従来のやり方をほとんど変えず、よくわからないシステムの操作工数だけが増え、IT化により業務不効率が生じることでしょう。
6. 効率化されていないとき、業務プロセスを洗い出すこと
今回は、「データ活用やAI(人工知能)で、効率化すべきか?、それとも、やり方を変えるべきか?」というお話しをしました。
デー...
手始めは「効率化」であっても、その先の「やり方そのものを変える」というところをターゲットに、データ活用やAI(人工知能)化をすべきです。そのためには、現状を知ることから始める必要があります。現状も、末端の業務プロセスレベルまで把握する必要があります。データ活用やAI(人工知能)のインパクトをもたらすのが、その末端の業務だからです。
したがって、現状把握のために、その部署の部課長やマネジャーだけでなく、末端の実業務をしている人にもヒアリングし、本当の現状を把握する必要があります。往々にして、マネジャー層と実業務層で、業務プロセスが異なるケースが多いです。マネジャー層からヒアリングすると、「昔自分が現場でやっていたころのやり方+理想論」となっているケースが多いです。
社内で認められ、出世するぐらいなので、マネジャーが現場でやっていたやり方は非常に参考になります。しかし、それだけでは現場を変えることはできません。現場の不効率なやり方や、ある人だけが実施している効率的なやり方を、できるだけ把握する必要があります。業務プロセスを洗い出すという作業は、それほど難しくはありませんが、非常に根気がいります。
どうも、データ活用やAI(人工知能)化だけでなくIT化全般で、どうも効率化されていない、上手くいっているように感じないとお思いでしたら、業務プロセスを洗い出すことをお勧めします。きっと、効率化できそうなことが見つかると思います。