技術企業の高収益化: 微差に気づき、微差で大差を生む

 

◆ 「技術営業はこんなもの」と決めつけていないか?

 B to BメーカーであるA社の会議室で、A社長と私が話をしていました。「以前よりもいい情報が入るようになりました」。A社長はこう話し始め、同社の状況を私に説明してくれました。

 「技術カタログというのは、最初は懐疑的だったんですが、営業にやらせてみると『以前とは違う報告書が上がってくる』と営業部長が言うようになりました。私も日報を見てみると、以前あったような商談の進捗だけじゃなくて、確かにお客さんの課題も書いてあるんですよ。それで開発会議で開発部門にもフィードバックがかかるようになったようです」。

 「イノベーションのサイクルが回り始めたということですか?」と私が聞くと、

 「そうですね。まあそこまで美しいものじゃないと思いますが」とA社長は笑われました。世間で取り上げるほど美しい話ではないとご謙遜されているようでしたが、その表情は単なる謙遜ではなく、どことなく自信が感じられるものでした。というのは、一般的に経営者はこうした会社内の情報の生成・流通にすごく配慮をするものですし、A社長もそうだったからです。

 

 営業部長の『以前とは違う報告書が上がってくる』という言葉は、有用情報が会社内で生成されるという意味です。会社として取り組んで意味があることが何か。示唆を与えてくれる情報があるという意味です。

 また「開発会議で開発部門にもフィードバックがかかるようになった」というのは、会社として情報の流通が出来ているという意味です。開発の人的・金銭的資源を投入しても取り組む価値がありそうな情報を入手して、それに取り組んでいるのですから良いことでしょう。

 私が関与する以前にも、A社では営業日報は業務でしたし、営業部門と開発部門との間の会議が行われていました。要約すると、会社としてやるべきことはやっていた、ともいえそうでした。

 

 しかし「以前よりもいい情報が入るようになった」という社長は明らかに手応えを掴(つか)んでいるようでした。ビフォー・アフターで何が違うかは、本当に小さな差なのですが、この微差に気付けるかが極めて・極めて重要なことなので今回は、それをお伝えしたいと思います。

 

1、微差に気付けるか

 A社は、産業用の B to Bメーカーです。セットメーカーを顧客として、部品を製造する会社で、加工技術が保有技術になります。材料は支給品の場合もありますし、自社で仕入れる場合もあります。

 このように「部品・部材が商品で保有技術は加工技術」、という会社は読者の中にも少なくないでしょう。そうしたA社でのビフォーアフターは皆様にも役立つと思います。

 ここでA社での事例を説明したいのですが、実例をご紹介する訳にもいかないので、分かりやすい例を挙げたいと思います。それは部屋を掃除する時に使う掃除機です。

 

 掃除機メーカーであれば、掃除機のカタログを持っていると思います。商品カタログには普通、こんなことを書きます。「従来よりも軽い」とか「吸引力が優れている」など技術開発の成果です。

 営業・マーケティング担当者は家電量販店に行き、販売員や消費者の声を聞き、売り場の改善を行うと共に、商品の改善のため開発部門にフィードバックします。そうして、商品は改良されていきます。

 A社でも同じように、最終製品や商品の特徴を示したカタログは作成していました。顧客であるセットメーカーにはそのカタログを送付したり見せたりして、ご要望の形状や材料について開発打診を受けるというフローも確立されていました( B to B メーカーにはよくあるものです)。

 掃除機メーカーの話に戻りますが「従来よりも軽い」とか「吸引力が優れている」と言ったところで、それが他の誰もが言っていることであれば、お客さんは良いとは思ってくれません。既存の軸で勝負しても駄目です。既存の軸で勝負しないというのは基本路線なのですが、その軸を見つけるのは大変苦労する話なのです。そこで、ヒントとなるのがカタログです。

 掃除機メーカーのカタログに例えば、次のようなことが書いてあったとしたら、かなり目を引くものになるでしょう。

 

2、勝負のポイントとなる微差を分解してみよう

 以上は2019年末時点での個人的な推定ですので、保証するものではありませんが、比較してみましょう。

 

 この違いは大きな差を生みます。あなたはこの微差に気づけますか?

 ビフォーにある「軽い」というのは、掃除機の基本性能というものであり、他社も謳(うた)っていることです。したがって、言ったとしても意味がないこととなります。

 アフターにある「届きにくいところ」は、掃除機で掃除をする人の悩みや課題に焦点を当てています。そして「カンタンに」と書いてある。ここまで書いてあると、お客さんはこう思うのではないかな、と思います。

 「届きにくいところをカンタンに? なんだなんだ? どうやるんだ?」と。

 家電量販店の店頭にお客さんがいたとしましょう。「どうやるんだ?」と思って、カタログを開いてみます。そして、店頭にある商品を使ってみるのです。良いと思うお客様もいるでしょう。それは営業になるから良いことです。

 ただし今回お伝えしたいのは、良いと思わない場合です。お客さんは販売員に声を掛けます。「これじゃあ、うちの家具には対応できないのよね。惜しい」。と言ってくださるかもしれません。そうして有用情報が入るというわけです。

 上記は掃除機・B to C の事例を説明していますが、B to B でも同じです。

 

3、微差に気づき、微差で大差を生む

 掃除機の事例で明らかだったように、A社のビフォーアフターも、やっていることや表現は本当に微差でした。カタログの表現を変えただけです。しかしこの微差が大差を生むのです。

 冒頭のA社長のコメントは、お客様の変化を表しています。掃除機でお客さんが「惜しい」と言ってくれたように、A社のお客様もA社営業担当者に課題を言ってくれるようになったのです。

 ビフォーでは、商品を「買うか買わないか」だった商談が明らかに変わりました。アフターでは「買う、買わない」の話だけでなく、こちらが提示したカタログに対して「現状こうなっている」という情報をくれるようになったのです。

 「現状こうなっている」が分かるとしめたもので...

す。開発とすれば、現状についての情報が最も有用な情報だからです。問題は、自社でできるかできないかの判断をするだけで、付加価値のついた商品開発に繋(つな)げられます。

 

 「ソリューションが大事」というのはメーカー経営では言われ尽くしています。ある意味で当然のことです。しかし、その実践ができている会社はかなり少ないというのが実感です。A社もその一つでした。

 A社長でなくても、社員でさえも「ソリューションが大事」というのは当たり前のこと。頭では分かっている状態でした。しかしそれでも実践できていなかったのは、カタログの微差に気づいていなかったためともいえるでしょう。

 A社での現状は、冒頭に述べたA社長の言葉に集約されると思います。「以前よりもいい情報が入るようになりました。」こう言えれば、いい情報を解決する技術開発を行う次のステップに進めるということです。従来はお客様の要望価格・要望性能通り「できるかできないか」の話だったのが「どうすれば顧客課題を解決できるか」という視点で議論するようになったのです。

 

 さて、あなたが経営者なら、今回、説明した「微差」や「微差が大差を生むこと」に気づいているでしょうか?言うまでもないことですが、当たり前のことを知るだけで終わらせてはなりません。やれるようになって初めて大差がつくのですから。あなたは、微差に気づき、微差で大差を生むように努力していますか?

◆関連解説『事業戦略とは』

 

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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