品質について考える クリーン化について(その10)

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品質

 

♦ 品質は人の質、人の質は心の質

 これまでクリーン化の4つの目的を説明してきました。その中で「品質って何だろう?」と記しました。今回は、その品質について考えてみます。

 もう50年以上も前の話です。私が入社後に配属されたのは高級腕時計の組み立て工場でした。当時、課長が時間外に品質管理の勉強会を定期的に開いてくれていました。最初の話で、いまだに印象深く残っているのが「FMカーは買うな」という言葉です。

 これは、この話を聞いた時よりさらに昔の米国の自動車工場での話です。

 米国では、金曜日には、明日はもう休暇だとソワソワする。また月曜日には、遊び疲れて、どちらにしても仕事には集中できない。このため、F(金曜日)とM(月曜日)に作った車はネジがしっかり締めてないとか、部品がきちんと取り付けてないかも知れない。つまり品質が確保されていないかもしれないという例え話です。

 課長がこれを最初の話題に選んだのは、ものづくりでの品質の作り込みが如何(いか)に重要なことかを伝えたかったのでしょう。インパクトがありました。恐らく最初に印象深い話をして、聞く耳を持ってもらうとか、品質のことを考えたり興味を持ってもらいたいという課長なりの思いがあったのだと思います。

 

 私が実際に遭遇した事例を紹介しながら、品質に対する私の考えを記します。

 高級腕時計の組み立てラインで作業する女性作業者の話です。当時は10人ほどの作業者が、流れ作業で順次後送りしながら組み立てを行っていました。腕時計は地板と呼ばれる基になる部品があり、そこに歯車をはじめ様々な部品を組込んでいきます。地板やその他の部品には赤い石(人工ルビー)がはめ込んであります。この石の数が25あれば、25石と呼んでいました。

 この丸い石の中心に穴が開けてあり、歯車の軸を差し込みますが、摩耗を低減させるためにその穴の周辺に油を付けています。ある女性作業者は、前工程から送られてきたものに、いくつかの歯車を組み込む工程を担当していました。

 ある日、作業中に油の位置が中心から少しずれているものが見付かりました。それを見た上司が「これは規格内だからOK」と言ったところ、その女性は「規格に入っていればそれでいいのですか。私は満足しません」と言い、その油を丁寧に拭き取り、自分でやり直していました。この言葉は、私の心に今も鮮明に残っています。

 当時は「心を込めて品質を作り込む」ことが合言葉になっていました。

 買っていただくお客さまの喜ぶ顔を想像しながら、思いを込めることですね。そしてそれにふさわしい作業を心掛けていたので、自分の仕事に自信と愛着を持っていたのです。プロ意識を持ち、妥協せず絶えず高い技術、技能を追求し、磨くことを心掛け成長していく、自己を高める努力の継続です。標準書に書かれていない、心の品質です。

 

 最近、クリーン化のセミナーや講演会などで、品質問題やクレームをなくすにはどうすればいいのかと、質問されたり話題になります。

 この質問に正解はないと思いますが、私は「ものづくりの根底には、自社製品に愛着を持ち、自分の仕事に誇りを持って品質の作り込みをする。そして満足できる製品を市場に送り出していくということが、すごく大切なこととして存在する」と考えています。

 もちろん、その環境も綺麗(きれい)でなくてはいけません。ゴミだらけの中で、良い品質の製品を作り込むには無理があります。この際、例え標準通りの作業をしていても、心を込めて自分が満足できる品質の作り込みをしているかを自問自答して下さい。

 いい加減にやった仕事には気まずさが残ります。そしてこの程度で良いと思えばその程度の品質になってしまいます。そうして作ったものを自信を持って市場に送り出していけるでしょうか。もしかしたら、それを自分が買うことになるのかも知れません。『人は、これではいけないと思ったら行動する動物』です。相手の立場、お客様を思う気持ちを大切にして、満足の行く品質の作り込みをしたいものです。

 私は、「品質は人の質、人の質は心の質」だと考えています。

 

 日本のものづくり品質の良さ、強さは、(1) 工程で品質を作り込む(2) 作業者の品質意識が高い、ことだといわれてきました。ここが他国との違いなのだと考えます。

 プロ意識、誇りを持って仕事をする。つまり『心の品質レベルを高める』ことで品質問題やクレームは減るのではないでしょうか。『心の品質レベルを高める』とは『見えない付加価値をつける』と言い換えても良いかも知れません。

 

 最近は国内産業の空洞化に伴い...

品質

 

♦ 品質は人の質、人の質は心の質

 これまでクリーン化の4つの目的を説明してきました。その中で「品質って何だろう?」と記しました。今回は、その品質について考えてみます。

 もう50年以上も前の話です。私が入社後に配属されたのは高級腕時計の組み立て工場でした。当時、課長が時間外に品質管理の勉強会を定期的に開いてくれていました。最初の話で、いまだに印象深く残っているのが「FMカーは買うな」という言葉です。

 これは、この話を聞いた時よりさらに昔の米国の自動車工場での話です。

 米国では、金曜日には、明日はもう休暇だとソワソワする。また月曜日には、遊び疲れて、どちらにしても仕事には集中できない。このため、F(金曜日)とM(月曜日)に作った車はネジがしっかり締めてないとか、部品がきちんと取り付けてないかも知れない。つまり品質が確保されていないかもしれないという例え話です。

 課長がこれを最初の話題に選んだのは、ものづくりでの品質の作り込みが如何(いか)に重要なことかを伝えたかったのでしょう。インパクトがありました。恐らく最初に印象深い話をして、聞く耳を持ってもらうとか、品質のことを考えたり興味を持ってもらいたいという課長なりの思いがあったのだと思います。

 

 私が実際に遭遇した事例を紹介しながら、品質に対する私の考えを記します。

 高級腕時計の組み立てラインで作業する女性作業者の話です。当時は10人ほどの作業者が、流れ作業で順次後送りしながら組み立てを行っていました。腕時計は地板と呼ばれる基になる部品があり、そこに歯車をはじめ様々な部品を組込んでいきます。地板やその他の部品には赤い石(人工ルビー)がはめ込んであります。この石の数が25あれば、25石と呼んでいました。

 この丸い石の中心に穴が開けてあり、歯車の軸を差し込みますが、摩耗を低減させるためにその穴の周辺に油を付けています。ある女性作業者は、前工程から送られてきたものに、いくつかの歯車を組み込む工程を担当していました。

 ある日、作業中に油の位置が中心から少しずれているものが見付かりました。それを見た上司が「これは規格内だからOK」と言ったところ、その女性は「規格に入っていればそれでいいのですか。私は満足しません」と言い、その油を丁寧に拭き取り、自分でやり直していました。この言葉は、私の心に今も鮮明に残っています。

 当時は「心を込めて品質を作り込む」ことが合言葉になっていました。

 買っていただくお客さまの喜ぶ顔を想像しながら、思いを込めることですね。そしてそれにふさわしい作業を心掛けていたので、自分の仕事に自信と愛着を持っていたのです。プロ意識を持ち、妥協せず絶えず高い技術、技能を追求し、磨くことを心掛け成長していく、自己を高める努力の継続です。標準書に書かれていない、心の品質です。

 

 最近、クリーン化のセミナーや講演会などで、品質問題やクレームをなくすにはどうすればいいのかと、質問されたり話題になります。

 この質問に正解はないと思いますが、私は「ものづくりの根底には、自社製品に愛着を持ち、自分の仕事に誇りを持って品質の作り込みをする。そして満足できる製品を市場に送り出していくということが、すごく大切なこととして存在する」と考えています。

 もちろん、その環境も綺麗(きれい)でなくてはいけません。ゴミだらけの中で、良い品質の製品を作り込むには無理があります。この際、例え標準通りの作業をしていても、心を込めて自分が満足できる品質の作り込みをしているかを自問自答して下さい。

 いい加減にやった仕事には気まずさが残ります。そしてこの程度で良いと思えばその程度の品質になってしまいます。そうして作ったものを自信を持って市場に送り出していけるでしょうか。もしかしたら、それを自分が買うことになるのかも知れません。『人は、これではいけないと思ったら行動する動物』です。相手の立場、お客様を思う気持ちを大切にして、満足の行く品質の作り込みをしたいものです。

 私は、「品質は人の質、人の質は心の質」だと考えています。

 

 日本のものづくり品質の良さ、強さは、(1) 工程で品質を作り込む(2) 作業者の品質意識が高い、ことだといわれてきました。ここが他国との違いなのだと考えます。

 プロ意識、誇りを持って仕事をする。つまり『心の品質レベルを高める』ことで品質問題やクレームは減るのではないでしょうか。『心の品質レベルを高める』とは『見えない付加価値をつける』と言い換えても良いかも知れません。

 

 最近は国内産業の空洞化に伴い、様々な技術が海外に出て行っています。

 いろいろなものが出て行くと、あとは何が残るのでしょうか。もうコストメリットも薄れています。強みは何かと時々考えてしまいます。国内のものづくりにはこのような『心で品質を作り込む』ことしか残らないのではないかというところに辿(たど)り着きます。あるいは、これが海外と比較しての唯一の差別化の部分のようにも思います。

 そういうものが失われ、心の空洞化が拡大、浸透してきて、やがて置き換わってしまうのかも知れないとさえ思います。そして日本のものづくり基盤が軟弱になって行くことに繋がるのではないでしょうか。

 

 会社に行って標準通りに仕事をして、給料をもらっての繰り返しではなく、心の付加価値を考えることも大切だと考えます。

 刀工は、日本刀を作る時、刀に魂を入れるなどといわれます。私たちも心を込めたものづくりを探求し、品質向上、クレーム撲滅に貢献したいですね。そしてものづくり基盤の体質を強くしたいものです。

 

◆関連解説『環境マネジメント』

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この記事の著者

清水 英範

在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め多面的、総合的なアドバイス。クリーンルームの有無に限らず現場中心に体質改善、強化のお手伝いをいたします。

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