高張力鋼板:ハイテンとは

 

 今回は、ハイテン(高張力鋼板、HSLA:High Strength Low Alloy Steel)について解説します。

1. 鋼材の強度

 鋼材を短冊型に切り出して引張力を加えてゆくと、下図の様に次第に伸びて行き最後に破断します。下図、3)のネッキング[1]が発生すると、その部分の断面積が減少するため、その後の変形がこの部分に集中して、少ない力で破断に進んでしまいます。ネッキングが発生する直前の力を「抗張力」(TS:Tensile Strength)といい、「鋼板の強度」では一般にこの値を意味します。自動車などを設計する場合、鋼材の強度はこの「抗張力」をベースに、ある安全率を掛けて設計します。

図1. 引張におけるネッキングの進行例

 

2. ハイテン

 ハイテンはこの抗張力を普通鋼より高くし、強度を強めた鋼で、正式には高抗張力鋼板(High Tensile Strength Steel)ですが、略してハイテンまたは高張力鋼板といいます。上図で3)のネッキングを起こす必要な力(抗張力)が高い鋼材を意味します。

 自動車車体などには高抗張力で、なおかつプレス加工性が必要になりますが、それには添加する元素の量には、おのずから限界があり低合金に抑える必要があるため、世界ではHigh Strength Low Alloy Steel (HSLA)という名前で呼ばれています。なお「高張力」と「抗張力」とは異なる意味ですので、使い分ける必要があります。

 

3. ハイテンの製法

 鋼材の抗張力を高くする最も簡単で安価な方法は、鋼中の炭素の含有量を増やす方法ですが、この方法では硬いけれど、もろい鋳物(いもの)になってしまい、加工性が著しく劣ります。最近、自動車メーカーが自動車軽量化のために盛んに採用しているハイテンは車体用で、かなりの絞り加工ができなければなりません。

 このため抗張力は高く、かつ加工性も高い鋼材が必要とされますが、日本の鉄鋼メーカーがこの30年くらいの間に、世界に先駆けて加工性の優れたハイテンを開発しました。

 高加工性を保ちながら抗張力を高める方法と原理は下表のとおりですが、かなり専門的な話になりますので詳細は省略します。

表1. 高加工性を保ち、かつ抗張力を高める方法と原理

 

4. ハイテンの特性

 下図から分かるように、各方法で得られる抗張力の範囲が異なるため、単なる比較ではあまり意味がありませんが、変態強化型は高い抗張力であるながら、高い伸びのある材質も得られる点で優れたハイテンといえます。

図2. 伸び特性の比較

 

5. 特殊ハイテン

 上記の標準的なハイテンのほか、客先での加工後に、塗装焼付けを行うことで強度が上昇するハイテンとして、...

焼付け硬化性ハイテン(BH:Bake hardenning)があります。これは焼き付ける温度(170℃×20分程度)で鋼中に溶けていた元素が析出して強度を上げるものです。

 

6. 自動車車体へのハイテン適用例

 最後に、下図に自動車の車体への適用を示します。

 

図3. 自動車車体への適用例

 

 【出典】有限会社 NS Fellows HPより、筆者のご承諾により編集して掲載。

 【用語解説ネッキング:材料に引張力を加えることで、局部的に板厚減少が起き、くびれが発生する状態。

 

↓ 続きを読むには・・・

新規会員登録


この記事の著者