今回は、金属材料の疲労破壊について解説します。
金属材料は繰り返し荷重を受けると強度が徐々に低下し、かなり低い荷重でも亀裂が発生して破壊にいたる性質があり、これを疲労破壊といいます。その特徴は使用開始後直ちに破壊が起こらず、ある回数使ってから破壊することで、しかも通常の引張試験で壊れる荷重よりもはるかに低い荷重で壊れることが特徴です。
疲労破壊が原因で起きた大事故としては、ヨーロッパが開発したジェット旅客機コメット号機体の疲労破壊による空中分解や1985年、JAL123便の圧力隔壁の修理不良から発生した疲労破壊によって尾翼が吹き飛ばされ、30分以上迷走した後、御巣鷹山に墜落して520人の命を失った大惨事があります。
また、2007年には大阪エキスポランドのジェットコースターの車軸が金属疲労で折損し、死者を出してしまいました。疲労破壊は小さなネジ1本から飛行機のような複雑な構造物まで、繰返しの力が掛る物体には全てに起こる現象です。鉄鋼関連の工場で危険性のある例として、Cフックやクレーンなどの吊具(つりぐ)があります。
図1.鋼材の疲労特性
一例として上図の疲労特性を持つ鋼材で吊具を作った場合、最大荷重時の応力が "X" のレベルになるような設計をすると、この吊具は交点の回数 "Y" 回近くで疲労破壊する危険が出てきます。下図と写真がこの例に相当します。
図2.クレーンフックの疲労破壊の例
時々刻々低下してゆく実機の強度を測定することはできないので、破壊の危険を前提にして吊具を使用するのは非常に危険です。対策としては、発生する応力が疲労限度以下になるような構造のものに更新しておくと、疲労後でも破損せず使い続けることができます。
1. 疲労限度
鋼材の場合、繰り返し荷重...
図3.疲労限度と繰り返し数、引張強さ(TS)と疲労限度
2. 疲労破壊のメカニズム
疲労破壊は構造物の応力が集中する結晶内の原子の並びがすべり始めるところから始まります。下図に示すように、初めは表面の結晶単位のミクロレベルのズレから始まりますが、繰返し荷重が加わるに連れて、徐々に内部に累積し、第2段階から板厚の反対側まで進行した時点で、最終的な破壊に至ります。
図4. 疲労破壊のメカニズム
3. 疲労破壊面の特徴
疲労破壊は材質と応力の組み合わせで色々な破断面になりますが、典型的な例が下左の写真です。これはボルトの場合ですが、“0” から亀裂が発生し、疲労破壊が矢印の方向“1”に貝殻模様 (ビーチマーク) を呈(てい)しながら進行し、最終的に“2” の部分で剪断(せんだん)分離破断に至ります。しかしながら同じ疲労破壊でも、下右の写真のように凹凸が大きく、ビーチマークが見えない場合もあり、マクロな外観だけでは、原因の究明は難しいのが実態です。
【写真説明】疲労破壊面
この破面を走査電子顕微鏡 (Scanning Electron Microscope) 通称 ”SEM” と呼ばれる機械で数百倍~数万倍に拡大していくと、ビーチマーク上やビーチマーク間に、より細かな縞(しま)模様が観察される事があります。 これをストライエーション(striation)といいます。亀裂の進展に伴って、1回の繰返し応力が作用する毎(ごと)に亀裂がわずかに進み、その跡が縞模様となって残ったものでビーチマークとは異なり、繰返し応力が作用したことを示す模様です。この様なストライエーションは破面上に形成された非常に僅(わず)かな凹凸であることから、走査電子顕微鏡で初めて観察できるものです。
図5. 走査型電子顕微鏡で見た破面の画像㊧とストライエーション
4. 疲労破壊の原因と対策
① 設計上の問題
使用する材料の強度の選択と、構造設計時に疲労限度を考慮して設計する必要があります。また、部品の一部に切り欠き部や不連続な構造から応力が集中するような部分があると、そこから疲労破壊に至る場合があるので、設計時にこれらに対する構造上の検討が必要です。さらに、下記④の「溶接部が疲労に与える影響」で示すように、応力が高くなる部位の近傍(きんぼう)は溶接部とならないような設計が必要です。
② 加工上の問題
加工時に表面に入る傷や加工時の溶接などによる残留歪(ひずみ)があると疲労源となり得ますので、表面の仕上げと歪取り焼鈍※(しょうどん)による残留歪の除去が必要です。また表面粗度が粗いと疲労が進むことも分かっています。
※焼鈍:焼きなましのこと。
③ 材料選択の問題
素性不明の疲労限度が低い材料が使われると疲労破壊に至る危険があります。また、鋼材内部に欠陥があると、そこを起点とした疲労破壊も起きやすくなります。信頼のおけるメーカーから、規格通りの成分や熱処理を行った正規材料であることをうたった鋼材証明書を入手しておくべきです。
④ 溶接部が疲労に与える影響
溶接により疲労は急速に進み、疲労限度も大幅に低下します。高い応力が発生する近傍には溶接部がこないような設計をすると同時に、必要な溶接は正しい方法で行い、溶接後の残留歪取り焼鈍やバリ取りなどを適切に行う必要があります。
【出典】有限会社 NS Fellows HPより、筆者のご承諾により編集して掲載。