1.MTシステムの役割
(1)無言の計測値にものを言わせる
温度、圧力、回転数、振動などの計測値は、そのままでは“無言”の数値です。何を言っているかの情報を引き出す必要があります。
(2)「次の手」を提示する
何を言っているかが分かったら、「次にどんな手を打つべきか」を分かる形で提示する必要があります。製品がおかしいのであれば、次の工程に流さない。工程がズレはじめているのであれば、おかしい箇所を見つけて修正を促します。
2.おいしいごはんの炊き方
「米はブレンド。大きな窯で炊くので、いろんな加減に気を遣っています。」
MTシステムの究極の目的は、こうした職人技に並ぶことです。常においしいシャリを作る、という職人の五感と判断力および予測能力にコンピュータが並ぶのは、恐らく永遠に不可能でしょう。計測項目も計測方法もわからないからです。
工業製品の場合は、ものづくりが(ある程度)パターン化されていること、センサーの精度が人間の感覚より優れることもあります。ということは、総合的に人を超える場合もあるでしょう。熟練者の経験を、そのままMTシステムで置き換えたといういくつかの実績もあります。
一方寿司のシャリの作り方は定量的ではありません。「水の分量はお米の分量と同量が基本ですが、新米か古米かでも違ってきます」などと説明されます。“同量の水”は米の新しさ以外にも、米の量にも依存するでしょう。
If~then ルールで定型化する方法に限界があることは、多くの人が知っています。情報量が多すぎて、ルール自体に矛盾が生じてしまいます。さて、どうしたらよいでしょうか。おいしいシャリを作るには、以下が大切のようです。
– 米のブレンド(数品種)
– とぎかた、水の量、炊くまでの時間
– 火加減(はじめチョロチョロなかパッパ・・・)
– むらし時間
– 酢の配合とまぜ方、あおぎ方
しかし数値情報がありません。こればかりは、こちらで「初期値」を決めて、いろいろと試ないのです。
職人技に近づくためには、実に気の遠くなる数の実験が必要になります。ブレンド比や水の量など、決めるべき条件項目を組み合わせたとすると、すぐに何万通りになります。その中からおいしいシャリを安定して作る条...
しかし、何万通りは不要です。田口先生によって36通りに簡潔にまとめる方法が用意されています。数理から求められる規則性を利用します。数学は多くの人は苦手ですが、なんとも頼りにもなります。
登山は「どのルートを選ぶか」によって費やすエネルギーが違います。道具立ても大切です。やみくもはダメです。田口先生は、最短で確実に目的を達成する考え方や道具立てを用意してくれました。
何万通りの実験を、数十通りで済ませる方法も提案されています。国内だけではなく世界中の企業が、どれだけの恩恵を受けたか計り知れないのです。