私は長年にわたり、国内、海外のものづくり現場でクリーン化を指導して来ました。そしてその多くの企業から、繰り返し呼んでいただきました。そういうところでは、その現場をさらに良くしてあげたいと思い、一生懸命対応して来ました。
ただ、歩けば歩くほど気になるのが、現場改善や人の意識改革を懸命にやっているところが少なくなってきたと感じることです。その心配事を幾つか拾い、感じていることを記します。
1.国内空洞化に伴い、ものづくり現場が浮き足立っている
国内のものづくり現場は、加速的に東南アジアに出て行っているのが現状です。一方で、国内に残っているものづくり企業から呼ばれるのは、現場の体質を改善し、競争力を高めたい、国内で生き残りたいと言う理由です。
ところが指導している最中も、やがては自分たちの仕事も出て行ってしまうのではないかと言う懸念から、それらの取り組みに気持ちが集中出来ない、現場が浮き足立っていると言う雰囲気を感じます。同時に、ものづくりの心、精神も一緒に海外に行ってしまった、つまり心の空洞化も起きているのではないかと感じます。
2.国内ものづくり現場の経営層、管理者層で現場を知らない人が増えている
経営層や管理者の皆さんと話をすると、日本国内に残っているものづくり現場が少ない為に現場経験が出来ない。従って現場のことを良く理解していない方が増えているように感じます。現場を見る機会が少ない中で理論や空論が多く、加えて社外のことや、売上げ、利益など数字ばかりを気にしている方も多いように感じます。
現場によっては本当に頑張っているところもありましたが、残念ながら上層部にはその頑張りを理解・評価してもらえないところも幾つか見て来ました。つまり現場と遊離していると言うことです。自分の足元を良く見てもらいたいものだと思います。
3.現場経験が無い人が海外拠点に赴任している
企業によっては、国内よりも海外の現場の方が多いところも珍しくはないと思います。すると赴任者は、海外の多くの現場に派遣され、また入れ替わりの人数も多くなります。国内で現場経験ができなかった人でも、海外の工場に赴任するのが珍しくありません。
現場経験が無い人が赴任した場合、現場に入っても何が良いのか悪いのか分からないので、誉めることや叱ることが出来ず、結果的に現場に入れない、入らないと言うことが実際に起きているようです。現場に入る価値が分からないのです。赴任前に多少の教育はあるでしょうが、長く現場を見て来た人達とは、現場への思いは比較になりません。
一回くらいは、今日一日位は現場に入らなくてもまあ良いかが積み重なり、徐々に現場には足が向かなくなってしまいます。これでは折角海外のものづくり拠点に赴任しても、本当のものづくり現場に入れないのです。そして一日パソコンを叩いて終わると言う話も耳にしました。現場に入らなくても、生産、品質、納期などあらゆる情報が入手できるので、仕事をした気になってしまうわけです。
でもこれなら、日本にいても出来ることです。管理監督者が現場に入らないと、品質、安全がガタガタになってしまいます。昨今の食の問題にもあるように、現地任せでは、問題の発生を防ぐことが出来ないだけでなく、拡大してしまうということにもなりかねません。企業としては、命取りです。こうなってからでは手のうちどころが分からず、中々立て直しが出来ません。国内外を並行して指導して来たので、両方の現場が心配になります。
海外赴任者が多いところは、当然交代者も多いです。そう言う企業に海外赴任者教育を頼まれたことがありました。その教育の冒頭で、「なぜ東南アジアに工場が出て行ってしまうのでしょうね」と聞くと、多くの場合、「決まっているじゃないですか。日本に比べ、東南アジアの方がコストメリットが全然違うんですよ」...
そこで、「その考えは間違ってはいないです。でも、皆さんが行く東南アジアの工業団地には、日本や海外資本のライバル工場がひしめいています。皆さんは、日本とではなく、現地のライバルと熾烈な競争をしなくてはいけないんです。今、赴任先の工場の業績が良いと言っても、それは、代々の赴任者の努力の積み重ねから得られたものです。それに胡坐をかいていると、直ぐに傾いてしまうかも知れません。状況によっては、その工業団地から撤退しなければいけません。皆さんの責任は重大ですよ」と、気持ちを引き締めてもらうために少し厳しい話をして来ました。
皆さんのところはいかがでしょうか? 指導をしながら、“もう一度日本のものづくりの強さを発揮して欲しい、そのお手伝いをしたい”と常々思っていますたが、その思いは益々強くなります。