この解説は、筆者が実際に経験した事柄を基に記事化しています。今回は、無線機器の使用現場で頭を悩ませる「ノイズ」問題とその対策を紹介します。タイトルは「無線機の電源に発動発電機を使ったら、無線機使用不可能?」です。
◆無線機の電源に発動発電機を使ったら、無線機使用不可能?
無線機に限らず、ノイズの問題は様々な電子機器で問題になります。使用している側から見れば、電子機器が使えるのは当たり前のことです。しかし、設計する側から見れば、電子機器が使えるようにするためには、一つ一つの問題、課題を解決していきながら実現していかなければなりません。
電子機器は、1つの「システム」と言えます。個々の技術の集合体が電子機器を構成します。その点を考えながら、個々の設計を進める必要があります。そうしなければ、電子機器として、総合的な機能・性能を満たすことはできません。
【目次】
1.背景
車両搭載型無線機の発電機運用についてのトラブルです。今回のトラブル対象は、HF帯(3MHz~30MHz)無線機で、この無線機の新型を開発した2000年くらいのときのエピソードを紹介します。この無線機の運用条件は、通常では車両バッテリーから電源を取り、停車中には発電機から単相交流100Vを取り出して無線機用の電源に使用します。(図1は今回の運用イメージです)
図1.運用イメージ
使用する発電機は、当時発売された新型でした。ちょうどこの頃の発電機は電子制御で出力波形がきれいな正弦波(ひずみ率5%以下)であり力率(取り出す電気エネルギーの効率みたいなもの)も90%以上という優れものでした。従来の発電機の構造は非常に単純であり、エンジンをかけ発電し、直接電源を出力するものでした。電源の波形はかなり歪んでいる(ひずみ率30%程度)で、力率も60%程度というものであまり良質とは言えないものです。(図2は電源波形の歪みのイメージです)
図2.電源波形の歪みのイメージ
2.トラブルの概要
車両バッテリーから電源を取り出して無線機運用することに関しては、何も問題が無く非常に快適でした。ところが、停車して、いざ発機を動かし、無線機運用を開始すると、なんと、これまで受信していた無線信号が受信できなくなりました。当然、発電機の影響が原因です。発電機のカタログでは電磁妨害の規格(用途に応じて様々な規格がある)を満たす基準以下と記載あります。それなのに、無線信号が受信できません。(図3は電磁妨害試験の結果例)
図3.電磁妨害規格検査の例
(引用:https://www.texio.co.jp/c/wp-content/uploads/2020/09/EMC_semi_200907.pdf)
3.調査
それからトラブル対策が始まります。計測器(スペクトラムアナライザ)でノイズ状況を見てみると確かに電磁妨害として発生しているノイズは基準を超えていました。具体的には-80dBmです。カタログ表記では-100dBmの信号強度でした。しかし、無線機で測定するノイズは-80dBmであり、20dBの差があります。
状況を整理してみましょう。
①車両バッテリーでは無線信号は問題無く受信できる
②発動発電機を使用すると無線信号が受信できない
③計測器を測定すると無線信号はノイズに埋もれている
④実際に測定するとノイズは発電機のカタログでの期待どおりにならない
⑤発電機は電子制御され、ひずみ率は5%以下の低いもの
⑥無線機の感度は非常に高いという特性がある*1
*1:別途紹介します
わかることは、カタログは実運用を考慮していません。また、通常カタログでは様々な用途に使うことを想定して電磁妨害の試験を行っております。当然、規格値は満足しています。そこで、無線機の運用状態が問題を引き起こしていると考えられます。(図4は実運用と想定される発電機の測定)これから、違いが発電機に負荷があるかどうかです。発電機は電源を供給する目的ですが、それが無線機を使うかどうかは想定されていないと推測できます。(なお、この測定方法はわかりやすく表現しているので、実際はもう少し複雑になります)
図4.計測器での試験イメージ
4.トラブルの原因
結論として、ノイズを放射する箇所がポイントになります。当然原因は、発電機でありノイズの発生源です。無線信号に影響を及ぼすノイズ放射の箇所は、発電機そのもので無く、発電機から出力される電源を供給する電源ケーブルにありました。電源ケーブルの「伝導性妨害」及び電源ケーブルからの「放射妨害」になります。発電機からの電源にノイズがのって、電源を供給する電源ケーブルで「ノイズを放出」していました。
調べてみると、出力電源に非常に低いノイズが発見されました。-80dBmのノイズです。家電製品やパソコンを使うには全く問題の無いノイズレベルです。
しかし、無線機は、-113dBmの無線信号を受信できます。身の回りにあるもので表現すると、「無線機は、乾電池の出力する約1Vの電圧の100万分の1の電圧を受信できる」ものなのです。電圧で1μVです。電力換算では-113dBmという物理量になります。-80dBmはその33dBmも高いものになり、エネルギーとして2000倍も高いモノです。(図5は波形にノイズがのっているイメージです)
図5.電源にノイズがのっている状態のイメージ
5.解決策
解決策は、発電機の電源出力に電源フィルタを挿入するということになります。当たり前の様な解決策ですが、以外に難しいことです。
なぜ難しいかというと、電源のノイズフィルタを効果的にするためには、フィルタを単純に挿入すれば良いので無く、その効果を出す必要があります。まず、フィルタは、不要波の帯域を十分除去できることが必要です。市販されているノイズフィルタの選定を誤れば効果がありません。また、不要波帯域を除去できるものが販売されているかもわかりません。その場合は特注品か自分で設計しなければなりません。
また、フィルタをつければそれでよいかと言うわけでもありません。なぜなら、ノイズは消えて無くなるので無く、ノイズを逃がす経路をつくると言うことが重要です。ノイズもエネルギーです。それは消えて無くなることはありません。ではノイズを逃がすと言う経路はどこにあるのでしょうか。
それは、いわゆる接地といわれる経路に逃がすことにあります。アクティブな方法として、ノイズと逆相にエネルギーを打ち消し合う方法もありますが、一番簡単には、電位が低い接地側に不要な信号を流すことです。つまり「ノイズフィルタを挿入しノイズをアース側に流す」ことが重要です。(図6は対策のイメージです)
図6.対策イメージ
(引用:https://www.furutaka-netsel.co.jp/utility/elec_7)
6.トラブル対策のポイント
ここのポイントは「フィルタを挿入」、「ノイズを逃がす電位の低い場所を設定」することです。フィルタだけやアースだけではないのです。両方が重要な要素になります。フィルタの挿入では、発電機の近傍として、電源ケーブルでの不要放射部分を少なくすることが重要です。また、ノイズフィルタの性能を有効とするため、ノイズフィルタのアースは太く短くが基本です。(図7はノイズフィルタのアースのイメージです)
図7.ノイズフィルタのアースのイメージ
7.まとめ
今回の内容をまとめてみましょう。
- 問題の発生の箇所:発電機の電源出力ケーブルにノイズが載っていた
- 対策:ノイズフィルタを発電機の近くに配置するノイズフィルタのアースを取る
これらの対策により無線機を発電機で動作させてもノイズの影響は無く、無線信号を受信できる様になりました。ノイズ対策は、フィルタだけでは不十分であり、アースを取ることで、フィルタの性能を発揮させることができるということを忘れてはいけません。
8.今回の教訓(設計へのフィードバ...
なお、今回のトラブルについてですが、高性能発電機の適用時に関して事前確認が必要であったことです。今回の発電機の電源性能は「高性能」ですが、ノイズ発生量が大きいことが分かりました。これがなぜノイズが大きかったかというと「インバータ」という装置を搭載しており、これを電子制御することで、高効率の性能としておりました。往々にして、インバータはノイズ発生が大きいものです。もちろん、使用前には(購入前には)カタログなどで書類の確認はしていました。しかし、実際に確認するということを怠ったために生じたトラブルになります。
発電機のメーカでは、どの様な用途で使用されるかは想定していても、確認まではできないことがあります。そのため、無線機を運用することを企画する人は、事前の確認は行う必要があります。今回は、無線機の非常に汎用的で一般的な計測方法になると想定されます。まさに、今回の事例が当てはまります。これは、発電機のカタログでの表現が運用の全てを網羅しているわけではないことです。そのため、使用される状況を想定して事前の確認は重要になります。何事も机上だけでは実用上で期待値を満足するかはわからないものであることの教訓になります。
本記事は、実際の出来事を元にしたお話しになるため以下の点をご了承下さい。
- 当時の顧客秘密保持のため数値及び画像などは実際のものと異なります。
- 読者の理解のため、表現を簡略化しております。
【出典】コスモICT HPより、筆者のご承諾により編集して掲載。