◆身近な無線機器の電波干渉と電波強度(無線通信の仕組み)
身近な無線通信には、携帯電話(スマホ)や無線LAN( Wi-Fi )があります。業務用にはトランシーバーなどもあります。10年前くらいは、今まで通じていた携帯電話が突然途切れたり通じなくなることがありました。昨今では、携帯電話で繋がらないという状態は少なくなっています。しかし、今でも稀に、途切れたりする場合があります。
普段あまり気にしないとは思いますが、これらがどうして繋がらない状態になるのかを知れば、携帯電話や無線LAN( Wi-Fi )をどう使えば良いかなど意識することができます。この記事では、普段気にしていない無線通信を解説して、無線通信では何が起きているのか、なぜそうなのかがイメージできる内容をお伝えします。
【目次】
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1. 電波特性と電波状態
携帯電話で途切れたりする理由は、皆さんご存じの通り、電波の状態が良くないからです。ではなぜ電波の状態が悪いと思うのでしょうか。一番思いつくのは「アンテナマーク」ですね。これは「携帯電話の基地局から離れている」「建物の中に入って電波が通じなくなった」などで、アンテナマークのインジケータが少なくなっていることからわかります。
しかし、さっきまでアンテナマークが有ったのに、そんなに場所が変わっていないにもかかわらず、アンテナマークが少なくなっているとかないでしょうか。これが、無線の不思議なところです。アンテナマークは電波の強弱の他に基地局との通信ができるかどうかも関係しています。
どういうことか簡単に言うと、無線電波が「理解しにくくなっている」ということです。例えば、会話の途中で相手が「咳をしながら話したり」「しゃっくりしながら話はじめた」とかで一部聞き取れなくなるとかのようなものです。
ところで、無線電波は、光の性質と波の性質を持っています。光は直進性が強く、波は干渉します。そのため、先ほどの「そんなに場所が変わっていないにもかかわらず、アンテナマークが少なくなっている」というのは、ちょっとした場所の変化で「電波の反射」「電波の干渉」が発生して生じるものです。電波の波の性質から電波の干渉で受信状態がおかしくなる場合があります。
2. 無線電波、無線通信の通達性のポイント
電波の波の性質から電波の干渉で受信状態がおかしくなる場合の対処方法はどうすればよいのかですが、手軽な方法は「小移動」することです。そうすると、通じにくくなっている状態が解消される場合があります。そこで、考えられる電波(受信)状態がおかしくなる状況の例を示します。
- 壁の近くにいる。(金属製のカベやコンクリートのカベ)
- 壁(塀)、鉄骨に囲まれている
- エレベータの中にいる
- シールドルームにいる
- 電子機器が近くにある(囲まれている)
- 変電所とかの強電設備の近くにいる
考えなければならないのは、電波を反射させると思われるものが近くにあるかどうかです。そういった場所では、おかしくなるかも知れないと思って、小移動してみてください。なお、携帯電話自体はどうしようもないので、場所を変えるしかないです。
実は上記のことは、携帯電話だけでなく、Wi-FiやWiMAXとかにも当てはまります。携帯電話と違い「音は聞こえない」のですが、インターネットやオンライン会議(Zoom、Teamsなど)でも「繋がりが悪い」「途切れる」という時にも当てはまります。だいたいWi-Fiなどの場合は、喫茶店とかで座って使っている場合が多いと思うので、その際は、ポケットWi-Fiなどを小移動させてみると繋がりが良くなる場合があります。例えば窓の近くに置くなどです。
携帯電話やWi-Fiは、電波は見えないしデータ伝送の受信音とかも聞こえないので、問題解決のための障害探求は難しいです。例えば、FAXなどは「ピーヒャラララ~」と音がなるので、何か安心しますね。ちなみに、筆者はデータ伝送でも「受信音がなる」無線機を開発してきたので、音が鳴らないと不安になります。
3. 電波反射
電波がおかしくなる理由の一つに電波の反射があります。電波の反射の様子は、例えば、お風呂で水面を手のひらで「ぱちゃぱちゃ」すると水紋が広がり、湯舟の端に当たって跳ね返ります。または「やまびこ」で「ヤッホー」が跳ね返ることと同じ現象です。これが、電波が波の性質を持っていることの現われです。
携帯電話やWi-Fi電波は、割と高い周波数(700MHz~5GHz程度)なので、反射しても、実はそんなには反射しません。しかし、金属製の物体や水分等が近くにあると、反射しやすくなります。ちょうど、光が鏡に反射する感じです。光は壁にあたると少しは反射しますが、鏡だともっと反射します。これと同じことが起きていると考えてください。
4. 電波干渉
電波の干渉というのは、複数の電波が相互に影響することです。図3に示すように、電波が干渉した際の信号レベルの変動がわかります。この図は、Wi-Fi信号を受信している状態です。目的とする信号が上下変動しているのと、その他の電波があることがわかります。解説1で説明した電波の反射のために、目的の信号が強くなったり弱くなったりします。これを専門的な言い方をすると「マルチパス」と言います。つまり波の重なり方のタイミングによって大小に振れます。
実はこれだけなら大きな問題では無いのですが、信号が重なることでエコーが発生します。例えば、トンネルやお風呂で「おーい」とか大きな声を出すと、自分の声が反響します。その時に聞き取りにくくなったりしないでしょうか。これが、一番の厄介な点です。携帯電話や無線LANはデータ伝送なので、この信号が重なると、電波のデジタルデータ再生時にデジタルデータの重なりが生じる場合があります。そのことを専門用語で言うと「符号間干渉」と言います。これが生じると、デジタルデータは再生してもデータを判別することができなくなります。図4はその状態を示した図になります。
5. なぜ安定的な通信が可能か
実は、ここまでで説明したことについて、携帯電話や無線LANでは既に対策されています。30年前くらいまでは、その影響を回避することが難しかったのですが、昨今の技術では回避できるようになっています。技術的には色々な方法がありますが、これもわかりやすく言うと「一言一言ハッキリ話す」「ゆっくり話す」ということです。トンネルで声が反響しても、ゆっくり話せば聞き取りやすくなると思います。
無線信号では「ゆっくり話す」ことを電気的な処理として、時間や伝送帯域の間隔を空けて伝送しています。これをガードタイムやガードインターバルと呼んでいます。そうすることで、トンネルで「ゆっくり話す」のと同じ効果を作っています。
しかし、この対策された技術を使っても、まれに対策しきれない状態になるときがあります。携帯電話や無線LANでは、電波反射の影響が発生することを想定して設計されています。しかし、この設計を超えた想定以上の状態が発生することが起きると、このような「判別できない」=「無線機が聞き取れない」ということになり「音が途切れる」という状態になります。
こういう状態を回避するようにしても限界があります。もし「音が途切れる」という場合は、近くに電波を「強烈に反射する」ものがあることが多いと考えても良いと思います。その場合は、その場所から離れることが一番の対策になります。
6. まとめ
携帯電話や無線LANを使っての無線会話やオンライン会話で繋がりが悪い、音が途切れるというのがイメージできたでしょうか。そのイメージからトラブル対策などにつなげられると思います。この原因が、距離や反射などの物理的な状態なので、こうした場合の対策は、やはり物理的な対策での処理しかありません。
なお、上記の限界を超えた状態での電気的な処理も理論的に可能なのですが、それを一生懸命やることで、高額になることや処理時間や電気を沢山使う事になるので、あまり得策ではないのです。システム的な面や費用対効果を考えると、今の携帯電話や無線LANの作りが効果的と言えます。まれに発生すると言っても、昨今は技術の進歩で30年前と比較してかなり無線通信状態は良い状態と言えます。
【出典】コスモICT HPより、筆者のご承諾により編集して掲載。
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