今回は、身の周りで良く見かける蝶番(ちょうつがいとも言います)について説明します。クリーン化担当の皆さんは、工場、現場に入ったらその力を発揮しようではなく、クリーンルーム以外でも、日頃から色々な物に興味を持ったり、着眼するように心がけましょう。私も現場で着眼したり、指導している時のことを思い出しながらこれを書いています。
蝶番はドア等についていますが、本当にちょっとしたことであり、また、あまりにも身近にありすぎるので見落しがちです。クリーン化の診断で訪問した時も、各部屋の入り口ドアの蝶番やドアクローザー等も手始めにチェックします。
ところが、対応してくれた方も、早くクリーンルームの中に連れて行きたいと言う素振りで、何だ蝶番かと言う表情が見える時も有ります。でも、クリーン化では、一見たいしたことではなさそうな小さなことでも重要なポイントがたくさんあります。
ドアについている蝶番を見ると、一般的なタイプでも2個から5個くらいついているものがあります。 あまり多くはありませんが、上下でドアを挟むタイプも有ります。蝶番は大体壊れるまで使い切ることが多いでしょう。
ところが良く観察すると、グリスや金属粉が吹き出していたり、錆びていたり、劣化して変形したりしているものがあります。こういうものは、放置せず早めに交換、修理しなくてはなりません。
この蝶番は、壁に取り付けられている部分と、ドアについている部分があり、その交点の軸を中心に回転しています。その相互に擦れる部分にはプラスチックや金属の座金のようなものが入っています。それで相互の接触を和らげていますが、擦れるところは回避できませんので、プラスチックの場合は潰れや白い粉が吹き出します。また、プラスチックが擦り切れると、金属同士の擦れが始まり、金属粉が発生します。金属の座金の場合は、滑らかに滑ってはいますが、やはり金属粉が発生します。
クリーン化担当でなくても、多くの皆さんの目についていると思います。ただ、疑問に思ったり、問題との認識は薄いと思います。
蝶番の壁側の固定は動かないのですが、ドア側は、ドアの重みで段々下がります。特に最下段の蝶番は重量が一番集中するところですから劣化が進みます。良く観察すると、右に蝶番が付いている場合は、ドアの上側は左に傾いていることが多いです。(図1)
この場合は、ドアの左上部と枠、右下部と枠が擦れます。 図1.傾いたドア
この例が圧倒的に多いです。通行量の多いところほど顕著です。こうなると、ドアの傾きだけでは済まなくて、ドアの上部、下部が周囲の枠と擦れ、塗装剥がれ、金属粉発生、それがドアの開閉の度に、その風で飛散し、更に靴や台車の車輪に付着し広範囲に拡散してしまいます。
ある工場の例を紹介します。交代勤務、24時間稼働の工場のエアシャワーのドアでした。非常に人の出入りが激しく、ドアの蝶番が劣化し、先ほど説明したような現象が顕著に現れ、蝶番同士をつなぐピンも軋んで来ました。それを放置していたところ、あるオペレータがドアを開けた時に、一気に破損し、ドアが落ちて来たということです。
幸い足の上に落ちなくて、怪我はありませんでした。このようなことは、早めに発見、迅速な対応が必要です。事故が起きてからでは遅い。つまり危険を予知した対応が大切です。安全上の問題にも繋がり、劣化が進むことで、塗装粉や金属粉が落下し、エアシャワードアの劣化の場合、そのゴミをクリーンルームに持ち込むと言うことになります。クリーンルーム4原則の最初にある、“持ち込まない”の部分です。
エアシャワーはクリーンルームの玄関です。そう言う意味でも、クリーンルームに入ったらではなく、その前から注意深く色々観察し、不具合を発見したら放置せず、早めに修理など対応しましょう。
大勢の方が気がついたことを拾い上げる仕組みがあ...
最近は、クリーンルーム用の蝶番も入手しやすくなりました。しかし、それらを“取り付けて安心”ではなく、着眼点に含めきちんと見守りたいものです。
ものづくり企業から、現場診断、指導で呼ばれる時は、難しい理論、理屈ではなく、このような分かりやすい不具合事例を見て、感性を高めてもらいたいと言う思いで指摘させていただいています。次回も、この続きを解説します。
クリーン化教育、セミナーでもこのような現場の事例を多くお話しています。