前回の、技術者のキャリア整理法(その2)ライフキャリアの視点に続いて、今回は、キャリア選択シートで過去・現在・未来を見通すです。元サッカー選手の中田英寿氏が、選手引退の日に興味深いメッセージを発信していました。「人生とは旅であり、旅とは人生である。」そう言えば、美空ひばりの歌にも「生きることは、旅すること・・・」とあります。また、ニューヨーク・ヤンキースのイチロー選手は、子供の時から、将来のキャリアデザインを考えていたようです。「一流のプロ野球選手になる。そのためには、中学、高校ともに全国大会に出場する。そのためには、練習、練習、練習である。」
他人の人生は、ほっといてくれと言われるかもしれません。しかし、何のために生きるのか、何のために働くのかを意識することは、後々の人生を豊かにする源泉となり得るのです。なぜなら、人生の目的を意識する人と意識しない人の差は後悔の多寡にほぼ比例すると考えられるからです。
筆者は、50代初めから主に企業の技術者を対象に、ダブルワークの一つとしてキャリアカウンセリングを実施してきました。また、社外の一般の研究者、技術者も含めて、高キャリア技術者を目指す人たちの相談にのり、彼らの成長を支援するメンターの役割も経験してきました。それらの中で、研究開発部門のリストラも珍しくありませんでした。いままで担当してきた研究開発テーマを止めて、新しいテーマを探さなければならないとか、チームで各々の専門を分担して仕事をしてきたため、自分の強みがみつからず、何を選択したらよいかわからないというような多くの相談を受けました。
例えば、対応策の方向づけ理論として、次のようなものがあげられます。ロチェスター大学の心理学教授であるエドワード・デシ教授は、内発的動機付けにつながる、人が生まれながらに持っている心理的欲求として、「自律性への欲求」「有能感への欲求」「関係性への欲求」の3つを上げています。有能感とは、コンピテンシー(思考・行動特性)のことであり、関係性とは、コミュニケーションのことになります。また、C.I.バーナードによれば、組織成立の要件を次のように3つ挙げています。
①目的達成に向かう貢献意欲(≒コミットメント)
②共通の目的
③コミュニケーション
つまり、自律的に思考すること、専門性が高められること、真の目的を掘り下げてチームで共有すること、などを意識して熟考することが、よい結果に結びつくと考えるのです。
具体的には、図1の...
図1 キャリア選択シートの記述例