・前回の クリーン化について(その152)クリーン化の基礎(その14)の続きです。
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ここのところ半導体製造の分野が盛り上がってきました。しかも、ナノメートルの世界を目指しています。しかしながら、その土台、基盤がしっかりしているのか、クリーン化の基礎をきちんと持ち合わせているかと言うことを心配しています。何事も基本、基礎がしっかりしていて、その上で高いレベルへの挑戦が可能だと考えています。行き詰まった時、基本に帰れと言いますが、その基本はどこなのかと言うことです。
高いレベルを目指すとき、開発、設計、技術がしっかりしていても、それを具現化する現場の力は追いついているでしょうか。良く、理論的には可能だが・・・と言う言葉も聞きます。ものが作れなければ、現場との乖離は大きく、理論、理屈の話で終わってしまいます。いずれの企業の成功をも願いながら、桁違いの投資額ですから、損益分岐点はどの当たりになるのだろうか。企業間の差は顕著に出るのかなど気になります。その危機感を感じているので、クリーン化の基礎の部分に立ち戻り説明していきます。
7. クリーン化のなぜを考える
◆ クリーンルームの重要性を考える
(1) なぜ、更衣室があるのか
① ゴミ(異物)はどこからやって来る!?
図2.更衣室の役割
この図は、私が山形県の半導体工場に赴任当初に描いたものです。赴任の目的は、半導体前工程のクリーン化、品質改善でした。そこには半導体の後工程もありましたが、会社組織としては別会社であり、建物も違っていた。ただクリーン化については私の共通のテーマであり、分け隔てなく対応しようと考えていた。
製品は前行程から後工程へ流動されます。その過程で付加価値が付いて行きます。ところが、付加価値をつけながら、不良、廃棄される製品が出てくるわけです。お客様に引き渡す直前で廃棄されるものが発生したとしたら、それまでの費用だけでなく、製品の数量も不足し、補填投入も必要になります。でももう納期は守れないでしょう。これはQCD(品質、コスト、納期)いずれにも影響します。これをクリーン化で対応できる部分があるとすれば、最大限の努力をしたいものです。
これらのロスは利益、採算にも大きく影響するでしょう。他社との競争力にも影響しますね。製品によっては取引先に迷惑を掛けるだけでなく、その先のお客様にも迷惑が掛かります。そして信頼を損ねることに繋がる...
こんな背景もあり、赴任直後から現状把握も含め、後工程の工場にも頻繁に足を運びました。その過程で、現場に足を運ぶことの大切さ、事実をきちんと見る、捉える事の大切さを学びました。机の上での理論、理屈では得られないものです。
さて、この絵の説明に戻ります。
ある時、廊下からクリーンルームの様子を見ていたところ「今日は何しに来たんですか」 と聞かれたことがありました。その時「更衣室ってなんであるのかねえ」 とちょっとはぐらかした返事をしてしまいました。すると、「決まっているじゃないですか。着替えるところですよ」 とか「そんなことも知らないんですか」 といった答えが返って来ました。せっかく親しく話し掛けてくれたのに、嫌な気分にさせてしまったと後悔したものです。しかし、この返答を聞いて、表面的な理解に過ぎないことに気づきました。そして具体的に説明する必要を感じ、描いたものです。
では具体的に説明します。
私たち従業員は、私服で出勤します。この私服には埃や微生物、雨や雪などの水分が付着します。春には花粉、冬は道路の凍結防止のために撒いた融雪剤(塩分が含まれています)の粉などの付着。さらに私の赴任した工場は日本海側にあったため、冬には強烈な西風(海風)が吹き、塩分がたくさん飛んできてそれらも付着します。赴任直後に工場の設計図面を確認したところ、工場の位置は海から直線で1㎞でした。
私の自宅は山梨県にあり、長野県の会社に通う、つまり海なし県(圏)で生活していたため、潮の香りにはとりわけ敏感です。冬季は一日の仕事を終え、帰る時にはフロントガラスは真っ白。指先でこすって舐めるとかなり塩辛いです。また、海沿いには防風林として黒松が延々と植えられ、時期には風が吹くたび花粉が黄色いカーテンのように舞うのです。この黒松の防風林は、庄内の豪商、本間家による事業です。高校野球の試合観戦でも、市内の球場では外野の選手が霞んでしまうほどです。このような多くのゴミを私服に付け、出社するのです。
そのまま現場に持ち込むと当然様々な品質問題が起きます。ゴミによる品質低下だけでなく、ナトリウム汚染という問題が起きるため塩分は半導体にとっては大敵です。
② ゴミは歩留まりに影響する
そこで、半導体工場では、出社したら最初の更衣室で社服に着替えます。最初の更衣室を一次更衣室などと呼びます。ロッカーに私服を置き、社服を取り出す時に、私服と社服が接触し、私服のゴミが若干社服に転写することもあるでしょう。でも大体は私服についたままロッカーに置いてくる訳です。着替えの時落下したゴミは更衣室の清掃で除去します。次に二次更衣室に入り、社服を脱ぎ、防塵衣に着替えます。社服には私服からの転写ゴミだけでなく、構内のゴミも付着しています。これを防塵衣には付着させたくないので、二次更衣室の中でも、社服を脱ぐ場所と、防塵衣を着用する場所は距離を離しているのが普通です。その場所が確保できない場合、パーテーションで仕切るなど工夫しているところが多いでしょう。そして防塵衣を着用し、エアシャワーを浴びてクリーンルームに入ります。
この過程を細かくみていくと、一次更衣室で外のゴミをできるだけ処理し、さらに二次更衣室で社服に付着したゴミを処理し、クリーンルームに入るということです。ゴミに目を転じると、更衣室を通過するたびに置いて行かれ、少なくなっていきます。人に着目すると、更衣室を通過するたびに奇麗になっていきます。つまり更衣室を通過するたびにゴミを減らしていく、希釈の考え方です。一次更衣室、二次更衣室はそのための関門、関所なのです。
図の一番下に、休日の農作業の農薬等と記した。これは何十年も前の大手半導体メーカーでの話です。春になると歩留まりが極端に低下する。他の季節はほぼ安定するが、春にはまた歩留まりが低下する。これが繰り返し起きるというのです。当時はまだ分析技術があまり進んでいなかったので、原因がなかなか分からなかった。徐々に分析技術が発達し判明したことは、工場には無いはずのものが検出される。それが農薬だというのです。なぜ農薬が工場内にあるのかを調べたところ、当時そのメーカーでは交代勤務が始まった頃。午前中仕事をして、午後からの勤務の人と入れ替わるシフトだった。午後勤務の人は、午前中は自宅に待機しているはずだが、実は自宅にいなかった。どこにいたかを調べたところ、午前中は自身の田や畑で肥料を撒いて、そのままの服装で出勤するということが分かったのです。春のことです。
そこで農作業後、出勤時の服装、構内での着替え(一時更衣室、二次更衣室)についてきちんと対策(教育および具体的な対策)をしたところ、四季を通じて歩留まりがほぼ安定したというのです。たかが更衣室、たかが着替えるところではないのです。重要な目的があるのです。
次回に続きます。
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【参考文献】
清水英範 著、 「知っておくべきクリーン化の基礎」諷詠社 2023年
同 電子版 「知っておくべきクリーン化の基礎」、諷詠社 2023年
同 「日本の製造業、厳しい時代をクリーン化で生き残れ!」諷詠社 2012年
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