ラガード(英語ではlaggard:遅れる人という意味)とは、新製品が上市された後で一番最後に購入する層の呼称です。今回はラガードから情報・知識を集める活動ついて議論します。
1.ラガードの特徴
ラガードは、市場で多くの顧客がその有用性を認め新製品を購入するようになっても、その流れに抗し、かたくなにその購入を拒否する層ですから、何等かの拒否理由を持っているはずです。そして拒否理由を持つ顧客ですので、中にはある種の信念や考えを持ち、それを強く主張する顧客が存在するということになります。拒否理由について、それが他のラガードと共通なものがあれば、ラガード向けの製品を企画・開発することも有望ですし、その拒否理由がマジョリティの顧客も持つようなものであれば、マジョリティの顧客にもアピールし、大きな市場を対象とすることができます。
また信念を持つという点では、購入時期において正反対の位置を占めるイノベーターと共通しています。両者の違いは、イノベーターが新しもの好きであるのに対し、ラガードは新しもの嫌いであるという点です。したがって、ラガードの顧客にインタビューすれば、際立った意見や、その中に興味深い発見の可能性を秘めています。
市場の大半を占めるマジョリティは、自分達のニーズについて明確な答えを持っていない可能性が高く、むしろこのラガードの方が潜在的にマジョリティを代表する意見や情報を集める目的に有用です。
2.ラガードの活用例
東急グループのケーブルテレビ・インターネットプロバイダーに、イッツコムという会社があります。イッツコムは東京・神奈川地区の東急線沿線を中心にケーブルテレビネットワークを保有している企業ですが、そのインフラを利用して様々なインターネットに関連するサービスを提供しています。そのサービスの中に、「インターネットとことんサポート」があります。このサービスは月500円で、パソコン、メール、無線LAN、プリンターなどの設定に関し、顧客画面を共有しながらの遠隔サポートや、実際の顧客を訪問してのサポート(無料)も行っています。お年寄りや、会社や事務所でパソコンの利用経験のない主婦などにとっては、パソコン回りの設定は大変面倒なもので、これらのラガードの顧客にとっては、この面倒がPCやインターネットの妨げになっていました。
しかし、これらのパソコン回りの設定は、ある程度のITリテラシーのあるマジョリティの顧客にとって、時間を掛ければなんとか苦労しながらもできてしまうものでしたが、実は彼ら彼女らにとってもフラストレーションの溜まる作業で...
つまり、イッツコムのパソコン等のサポートサービスは、ラガードにとっては顕在化したニーズであったわけですが、マジョリティにとっても潜在化していたニーズでした。まさにイッツコムは、このラガードの顧客で顕在化していたニーズを捉えました。筆者の想像ですが、イッツコムがこのラガードの顕在ニーズを見つけたのは、従来お客様窓口での相談に、お年寄りや主婦からの同じようなニーズを示す問合せが多かったということではないかと思います。イッツコムは、そのラガードでとらえたニーズに基づき、ラガードだけでなくマジョリティに対象を広げたサービスを展開した訳です。