技術戦略 研究テーマの多様な情報源(その35)
2016-02-23
前回は、個人、組織単位で共通的にスパークの頻度を上げる方法について、解説しました。今回は、革新的テーマ創出・実現のためのスパーク(「新結合」)における、オープン・イノベーションの役割について解説します。
P&Gは8,600人の科学者を雇用しイノベーションに努めている。しかし、社外には150万人の科学者がいる。社内ですべてのイノベーションを行うのは合理的だろうか。こればオープン・イノベーションを提唱しているヘンリー・チェスブローの本(「OPEN INNOVATION ハーバード流 イノベーション戦略のすべて」)からの引用です。
革新的テーマ創出・実現のためのスパークに、この150万人を使わない手はありません。この内部の人材の数と外部の人材の数の比較から、これら外部の技術、アイデア、能力をうまく使うことができれば、スパークの頻度は格段に高まることがわかります。
それではオープン・イノベーションはスパークにどのような意義があるのでしょうか、そこには2つの意味があると思います。
150万人の人達は、対象分野におけるスパークに寄与する技術、アイデア、能力がその周辺に集積している集団です。そこには、自社の知らない様々な技術情報・市場情報というスパークの原料が沢山存在している筈です。それらの技術情報・市場情報を収集・蓄積することで、スパークの原料が大きく増えますので、スパークの頻度は格段に向上する筈です。
上の点に加えて、スパークに向けてこれら膨大な人達の知識だけでなく、直接的にスパークに向けて彼らの頭脳を使わない手はありません。これらの人達と議論の機会を持つことで、彼らの頭脳を活用してスパークを直接的に生み出すこともできます。
どのようにしたらこれら外部のソースを使って、スパークに結び付けたら良いのでしょうか、もちろん既にこのメールマガジンの中で議論してきた様に様々なオープン・イノベーションを実現するための具体的方策があります。しかし、それ以前に重要なことが、上の2点のスパークモデルにおけるオープン・イノベーションの重要性を理解し、下の点からオープン・イノベーションという活動に戦略的にコミットメントすることが重要です。
オープン・イノベーションを小規模でやっても、その効果は知れているでしょう。市場の知識や技術の知識が多少増え、外部の頭脳を多少利用しても、スパークの頻度はさほど変わらないように思えます。
しかし、外部を使って、市場知識・技術知識を何倍にも拡大し、かつ多くの外部の頭脳を利用できる仕組みや活動があれば、スパークの頻度は格段に増えるでしょう。そこから大きな収益を生み出す可能性のあるイノベーティブなアイデアが、数多く...
生まれる可能性があるのですから、そのための投資を惜しんではなりません。
同様の理由で、オープン・イノベーションを始めたらすぐ、革新的テーマがスパークで生まれるとは限りません。なにしろスパークの頻度を格段に増やすためには、多くの市場情報や技術情報の収集・蓄積が必要であるからです。長い目で、かつ継続的にこれら活動に地道な投資を行い、組織や個人の中に市場知識・技術知識を蓄積していかなければなりません。