1.思うように進まない技術・技能伝承
2007年問題として話題となってから約10年が経過しましたが、その間日本を取り巻く環境は大きく変化しています。例えば、グローバル化の進展による新興国の台頭や国際間競争の激化など産業構造や就業構造そのものが変化し、モノづくりの自己変革が求められつつあります。
しかし、雇用延長や再雇用などで技術・技能伝承を先送りしてきた企業は、現在でも技術・技能伝承はあまり進展していないようです。2007年当時に調査した実態を図1に示していますが、現在でも多くの企業に当てはまります。経営資源が脆弱な中小企業、古い技術やシステムなどレガシー資産を抱える基幹産業や製造業、また構造的な問題を抱える建設業や農林水産業などは、特に深刻な問題となっています。
2.技術・技能伝承の五つの誤解
2007年以来、技術・技能伝承が思うように進まないのは、雇用延長や再雇用などの先送りだけでなく、伝承の取り組み方自体に問題を抱えているケースが目立っています。その背景には、高度成長時代で成長を支えてきたモノづくりの遺産というべき「5つの誤解」(図2)が存在していると考えています。特に、中堅・中小企業はこの状態が顕著です。
これらの5つの誤解は、企業によりその状況と対応策が異なりますが、確実な技術・技能伝承の実施には、これらの対応策を組み合わせた複合的な取り組みが必須となります。この5つの誤解を通常業務の中で解決しつつ、技術・技能伝承を遂行できるような工夫が必要なのです。
3.技術・技能伝承の成功要因
本来、技術と技能の特性に合わせて、また事業成長に焦点を合わせて伝承目的を具体化する必要がありますが、実状は単なる知的資産の継承として捉えているケースが多いようです。そのため実施目的が曖昧なままで取り組む結果となり、使われない動画や陳腐化したマニュアルが氾濫したり、OJTがうまくいかず想うように技術・技能伝承が進んでいない結果となっています。また人材育成として継承をとらえた場合、本当に継承できたかの判断も難しく、投資対効果も明確には判定できません。
これでは少子高齢化時代でのモノづくりの課題に対しては、対応できません。モノづくり課題に対応するためには、付加価値向上のための人材育成として、また企業体力強化のための生産性向上の一環として取り組むことが重要となります。また少子高齢化時代に向け、就業構造の変化に対応し限られた経営資源を有効に活用するために...
知的資産を効率的に活用するというように考えることが必要なのです。企業競争力を高めるため、また会社の知的資産の価値向上を目的として、経営トップの陣頭指揮のもと、組織的に活動することが重要となってくるのです。
参考文献
・野中帝二:技術・技能伝承への取り組み、FRIコンサルティング最前線. Vol.1, p.138-143 (2008)
・野中帝二:モノづくりと技術・技能伝承、Vol.58 No.14 工場管理