中国進出の品質リスク、自社には関係ない 中国企業の壁(その7)
2018-05-17
ある日系企業の方と話をしていたところ、中国工場進出についての話になりました。これから中国に進出することが決定した。現在は香港に事務所があるだけとのことでした。これから進出する場所を決定する。場所は広東省の東莞市または深セン市までは決っているが、その中のどこにするかで悩んでいるようです。東莞/深センと言っても広いので、場所によってずいぶん条件が違ってくるので、慎重に選ぶことが必要です。
進出する理由は、競合(同じ日系)が既に進出して広く展開していること。そして、顧客の多くが中国に進出しているので、それら顧客へのサービス/対応強化と言っていました。中国に進出した日系企業のほとんどで、工場設立時期においては品質トラブルが多発して、自社はもちろん顧客にも迷惑を掛けることが起きているので十分注意が必要であることを話した。日本と同じ設備、機械を持ってきているから大丈夫だと言っているにも関わらず、多くの企業で品質トラブルを多発させている事例を先方に紹介しました。
設備や機械は持ってきても、そのオペレーションに関わるノウハウや細かい勘所を持ってこないのです。また、それらを持っている人を連れてこない。中国の人に仕事をしてもらう時のこつやポイントを誰も知らないのです。これを1から学んでいたらいくら時間があっても足らないでしょう。これらについて、事前に調べ、既に進出している企業に教えてもらうこと、専門家の力を借りることも必要です。
この企業は現在中国で全く生産していない訳ではなく、別の日系企業の工場に委託して1部加工を行なっているようです。この会社では、他の日系企業に委託している1部加工について、その管理と指導を自社でやることを考えていました。事前に指導や管理のノウハウを習得するのが目的とのことです。自社で管理をやってみるのはよいことです。ただ話していた中では、工場立上げ時の品質トラブルについて、あまり真剣に受け取っていないように感じられたのが残念でした。
ある中国系電線メーカーを工場監査で訪問しました。 工程は大きく分けて、「母線の入庫‐伸線‐塗装焼付‐検査・梱包」となりますが、 実際に加工しているのは伸線と焼付工程だけです。装置産業の代表と言えるもので、1度流れ出したら止めることなく連続して生産することになります。それだけに初期の設定や設備・使用する冶工具類の点検がとても重要です。最初の伸線工程は、ポイントとなるのが線径を決めるダイスの管理です。
ダイスをメンテしている部屋に行ったところ、メンテ担当者が何人も一生懸命作業を行っていました。ただし、その作業は経験と勘によっているようで、標準作業というものはありませんでした。メンテ後にその出来栄え確認のために検査しなければなりませんが、その検査記録が出てこない。先方はやっていると言っているが、同行した中国人スタッフは、「記録がないんだから、検査しないで工程に投入しているんだ」と決め付けていました。問題なのは間違いないですね。
それに比べ焼付工程は、非常によく管理されており、いい印象を持ちました。この工程では5Sもよく出来ており、管理上の記録も問題なかったようです。伸線工程ではダイス管理を代表として、全体に管理が不十分。それに比べて、焼付工程は管理が行き届いており、その管理状況は同じ...
会社の同じ工場なのに、雲泥の差がありました。
なぜこのようなことが起きているのか?考えてみました。この会社では、「焼付工程が品質を決める最重要工程である」と認識しています。これはこれで正しい認識です。また、「下流工程(焼付)で上流工程(伸線)の不出来をカバー出来ている」と考えている。ある程度カバーは出来ると見てよいが、カバーしきれていないことに気が付いていません。これは発生している不良内容から見れば判ることなのです。
この会社は、一番押さえなくてはいけないところは押えていました。しかし、他の工程についても、同様の管理が出来るように改善努力をしなければなりません。なぜなら、今の状態では万全の品質を保証できる体制にはないからです。大事なのは、より高い品質を保証するために一歩ずつ階段を上っていく姿勢とその実践です。