今回は、次のような事例を想定して、縮小市場における経営戦略について解説します。
1. 事例
事例にする企業は社員数50名で、ある種の材料に関する加工を地方都市で40年続けている企業です。同業者は国内に30社程度いますが、この企業は大型の設備を持っているために、この業界では上位5社に入る規模です。この分野は少しずつ新材料に置き換えられているために、市場が毎年10%近くずつ縮小しており、この後も回復する見込みはありません。
ただし、同業者はこの企業よりも規模が小さく、体力がないことから、毎年のように廃業者が現れ、その受注がこの企業に回ってくるため、受注はここ10年ほぼ一定量を保っており、利益は少ないながら黒字基調です。
工場長は59歳で、68歳の社長はまだ元気で営業に各地を飛び回っていますが、子供がいないために後継者がはっきりしていません。もしものことがあれば工場長が指揮を執ることになるのかもしれません。
この状況下で取るべき戦略について、次のような観点から、解説します。
- 新規投資、技術開発をどうするべきか
- 社員採用をどうするべきか
- 宣伝広告や営業活動への考え方
- 新規事業開発への考え方
- 事業継承をどう準備するか
2. 前提条件
経営の盛衰は経営者の経営戦略と意欲でかなりの部分が決まってしまいます。従いまして5つの個々の観点を考える前に前提条件を述べます。それは、工場長が経営を承継する決意を固め、まずは自分なりの中期経営戦略・成長戦略案を作成した上で、社長と相談すべきです。会社の将来を担えるのは自分しかいないという自覚で考えていけば、事業をどう承継していくかはあとからついてくるものです。
3. 中期経営戦略・成長戦略の立て方
自社の強みと経営資源を徹底的に整理・分析します。その上で市場機会を分析して、強化・補完・逆転戦略を明確化します。この時の検討ツールとして、「クロスSWOT分析」が極めて有効です。少なくとも中長期で考えた時に、新規事業・新規商品にチャレンジしない限り企業規模を維持できません。どの分野・どの商品にチャレンジするのか?を考えて決めることが最も大切で、社運を賭けた選択となります。この新事業チャレンジを、新業種進出する場合に「第二創業」と呼び、同一業種内で新事業にチャレンジすることを「経営革新」と呼びます。どちらも年単位の時間を要しますので、会社の体力がある内に取り組み始めておくことがポイントです。
4. 新規投資・技術開発
上記で立てた中期経営戦略に基づく新規投資・技術開発は、現業経費を徹底削減してでも取り組むべきです。進歩や挑戦のない会社はいづれ衰退していくでしょう。
5. 社員採用
会社が変わらなければならない時には、まずは既存の従業員に変わることを求めます。新事業にチャレンジしてくれる同志を社内から募ります。新事業に必要な人材スペックを社内従業員からだけでは賄いきれない場合に、新規採用するか・アウトソースするかという選択肢がでてきます。社員の年齢バランスや継続的固定費の重さ等から総合的な判断となります。
6. 宣伝活動・営業活動
常に投下費用対予測効果で考えます。ただし新規事業の宣伝活動・営業活動は投資ですので、単年度効果計算ではなく、事業のライフサイクル計算の中で何年間・いくらまで...
投資するのかという見込と決意で判断します。
7. 新規事業開発
新規事業の開発・立上げなくしては、企業の永続的発展はありえません。新規事業開発で大切なことは、自社の強みと経営資源を活かせる領域にすること・事業の安定的立上げには数年(3~5年)以上必要だという覚悟を固めることです。
8. 事業承継準備
新規事業立上げを工場長が先頭に立って行い、成果が表れてくれば自然と事業承継の話も出てくるでしょう。その背中を押す作業として、事業承継を専門としている中小企業診断士や弁護士に相談して、第三者から現社長にアドバイスしていただくという道が最適でしょう。
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経営は人任せにできず、自分だけが頼りの仕事です。自分がこの会社をどうしたいのか、そのビジョンを描くことが第一歩です。