私のクライアント先の金型メーカーさんでは、2次元で設計しているメーカーさんもあれば、3次元で設計しているメーカーもあり、本当に様々です。そこで今回は、一体どちらがQCD(製造品質・コスト・納期)の視点で有利なのか、また、金型を扱うメーカーさんにも、様々な業態があり、どちらの設計方式が、どの業態に適しているのか、解説します。
まずそもそも、3次元設計のシステムが普及する前は、もちろん2次元設計で行われていたわけで、古くは手書きのドラフターの設計からになります。ただし、25年以上前に、私が金型業界に入ったときには、すでに2次元のCAD設計は行われており、ドラフターの手書きとCAD設計の優劣の議論はあまり意味がないと思われますので、ここでは割愛したいと思います。
1. 2次元設計
2次元設計は、今でも多くの金型メーカーで行われており、自動車部品をはじめとして、3次元曲面の意匠面を有する金型においても、3次元加工のためのモデリングは行いますが、構造部は2次元設計という手法は、まだまだ非常に多く使われております。
この方式のメリットは、やはり、作図自体の早さにあると思います。コンサルタントとなった私自身、今現在も金型メーカーさんのお手伝いということで、設計実務を行うこともあり、2次元設計も3次元設計いずれもやっておりますが、組図を作るところまでは、圧倒的に2次元設計の方が早いです。
あくまで組図の作成までだけなら感覚的に、3倍以上、早いイメージがあります。
また、上死点の状態や、可動部品の動き方や、言語によるコメント注記が入ることで、非常に設計意図を相手に伝えやすいといった利点もあります。
企業の事業として、例えば、プレスメーカーや成形メーカーに製造した金型を納める金型メーカーさんの場合、図面承認をとらなければならない場合が多く、その際はやはり3DデータよりもDXFデータや紙図面などの2次元図が使われる場合が多いです。
そのため、もし3次元で設計すると、承認のために、その3Dデータを投影した2次元図面を作成し、寸法や注記などを記入する作業が余分に発生するため、プレスメーカーや成形メーカーの内製金型の製造ではなく、金型を作って顧客に納める純然たる金型メーカーでは、まだまだ2次元設計が採用されているという理由の一つがここにあると思います。
2. 2次元設計のウィークポイント
2次元設計のウィークポイントは、構造設計後の後工程にあります。そもそも、2次元図は、平面図や側面図、正面図から成っており、これを見て、立体的な形状として、イメージできなければいけません。これは、昨今の技術者レベルとしては、初級~中級くらいに相当する技能だと私は思っており、金型製造に携わるスタッフ全員が理解するには厳しいと言えます。
そうなると、2次元図面を読み解ける人しか作業できなくなるうえ、図面レビューや後工程の機械加工や組立て工程にも支障をきたすかもしれません。その点、3次元で設計された金型モデルは、立体的に回したり拡大して見ることで、ほぼ全ての人が構造や部品形状を理解することができます。
また、コンカレントエンジニアリング(全ての工程を同時進行させる手法)の一貫として、金型構造設計が完了した時点で、個々の部品もモデリングが完了しているので、そのまま加工データの作成及び、機械加工に入ることができます。2次元設計の欠点がここにありまして、組図からそのまま加工データ作成及び、機械加工に入ることが難しいです。
多くの金型メーカーでは、プレート分解という、一点一点個々のプレート部品や、構成部品を作図する作業を行ったのち、CAM作業に入っています。ですからまず、2次元設計と3次元設計の優劣を語るうえで、承認のための組図作成までのリードタイムについては、2次元設計の方が圧倒的に早いことが挙げられるでしょう。
また、2次元設計後のプレート分解作業を助けるツールとして、個々のプレート図を作らなくても、組図からそのまま、個々のプレートのCAMデータを作成できるCAMソフトが市販されていますので、2次元設計を行っている金型メーカーでしたら積極的に使っていくべきかと思います。これにより、2次元設計と3次元設計の優劣を語るうえで、最も早いリードタイムで加工データ作成工程までの設計作業を行うことができると思われます。
それと、もう一つ重要な視点があります。設計ミスへの防止策です。
3. 3次元設計
3次元設計は、部品同士のつながりや重なりを立体的に確認できますので、複雑な構造の金型ほど、ミスの事前発見の確率は高くなります。特に、ヒストリー型と呼ばれるパラメトリック方式の3次元CADでは、干渉チェックという部品同士の重なりや穴のあけ忘れなどを発見する機能があるため、ミスの発見効果は高いです。こうしたミスの発見は、後工程の手戻り・手離れに影響します。
また、金型設計において、今となっては無くてはならないくらい使用頻度が上がっているCAEソフトについても、そもそも3次元の型モデルがなくてはできません。これも3次元設計の大きなメリットの一つと言えます。
4. 2次元設計と3次元設計の優劣
先ほども言いましたように、2次元設計と3次元設計の優劣においては、QCDの視点で、CDの要素の一つであるリードタイムについては、2次元設計に分があると思いますが、前述したように、立体で表現できることやミスの発見機能、CAEの活用などによって、Qの視点では逆に圧倒的に3次元設計に分があると言えます。これによって、Cの視点の優劣はつけ難いとも言えます。
したがいまして、プレスメーカーや成形メーカーの内製金型において、特に顧客承認のための2次元図面が不要な場合では、3次元設計の方がメリットを出せるかもしれません。また、設計そのものの作業では、どうしても2次元設計の方が早いと思われますが、3次元設計の真髄としては、後工程でいかにメリットを出すかという点にあります。
CAEの活用もその一つです。従来は手離れの悪い作業であった、トライ作業による金型修正を、設計段階のCAD内でやってしまおうという試みです。
更に、3次元設計のメリットとしてフィーチャー設計があります。これは、個々の部品モデリングの際、機械加工の部位に、加工属性を付与しておくことで、CAMデータ作成負担を軽減させる機能のことです。
例えば、プレートの穴に、タップやリーマなどの加工種類を付与することで、後工程であるCAM作業では、わざわざオペレーターが定義しなくても、自動で加工プロセス、工具種類まで定義してくれます。
このように3次元設計は、次の3つの取り組みを行うことで、後工程を中心にリードタイムを削減することができます。
- コンカレントエンジニアリング
- フィーチャー設計
- CAE活用
これに取り組むことができるのであれば、積極的に3次元設計を採用すべきかと思います。そうでない場合、いくらミスの防止などにより金型製作上の品質が高くても、リードタイムや金型の価格面で、2次元設計を行うメーカーに負けてしまうかもしれません。
5. 競争力が高い金型メーカとは
最後に、プレスメーカーや成形メーカーとして内製金型も製作するが、別のメーカーの金型も受注して納める外部販売用の金型も製作するといった、両方の事業を行うメーカーの場合では、2次元設計と3次元設計、どちらがよいのかということですが、外部販売用の金型は特に、同業他社や海外メーカーとの価格勝負になることが多いため、社内工程でのQの視点よりも、CDの視点を重視すべきかと思います。
したがって、社内の金型スタッフが職人揃いであって、3角法による2次元の組図を理解できるのであれば、2次元設計及び、プレート分解機能を持ったCAMの活用のパターンが最も有利かもしれません。ただし、内製金型の製作においては、進化を続ける3次元CADの恩恵を活かした3次元設計の方が将来的にもメリットを発揮していける...
と思われます。
私の見解としては、外部販売用の金型と、内製用の金型、それぞれによって、2次元設計と3次元設計を使い分けられるメーカーが最も競争力が高いと思われますが、今現在、私の知る限りでは、そういったメーカーは限りなく少ないと思います。2次元設計と3次元設計、いずれにおいても、それぞれのメリットを最大限まで発揮できるまで、お持ちのCAD/CAMシステムを使いこなすことが、最善かと思われます。
また、それぞれの設計方法の欠点についても、真摯に向き合い、つぶしていく改善への取り組みが必要です。
例えば、2次元設計ではあれば、3次元設計に比べてどうしてもミスの発生確率が高くなります。ミスの多くなるところとして例えば、平面図・正面図・側面図で共通して表現する部品や形状の干渉や矛盾などがあります。こういったところを重点的に、図面レビューでは確認すべきでしょう。
3次元設計の欠点としては、2次元設計では省略・簡略できる部位も、全て表現してモデリングしなくてはいけないなど、どうしても2次元設計よりも工数は多く掛かります。そこで、市販部品の自動配置といった自動モデリング機能を積極的に活用するなど、後工程でのリードタイム削減のみならず、設計作業の中で工数削減を図る改善は、継続的に行うべきでしょう。
こうした日々の取り組みが、昨今ますます厳しくなる金型業界で、勝ち抜いていく競争力の源泉になります。