金型メーカーマシニング加工工程の業務診断事例(その2)

 

 前回のその1に続いて解説します。

◆ マシニング加工工程の診断内容

1、過度なCAM&マシニング依存にならず、適宜ハンドワークも活用されているか

 金型で使用される部品の中には、複雑でNCによる制御を用いなければ加工できない形状もあれば、シンプルな汎用機械によるケガキなどで対応できる形状のものもあります。無料診断においては現場加工者の熟練度に合わせ、汎用機械とNC機の使い分けをすることで、過度にCAM作業や機械加工における段取り工数を増やさず、最適な工数で加工が行われているかを確認しています。

2、ドリルの加工条件は適切か。切りくずが長くつながっていないか

 加工現場を診断すると「CAMに登録されている加工条件を長い期間変更していない」、または「初期登録のまま変更したことがない」といった状況をよく見掛けます。また「マシニングセンターにセットしているドリルを変更していませんか?」と質問すると、従来からの黒ドリルだけではなく、コーティングハイスドリルや超硬ドリルなど、新しい工具が使われていたりします。

 そうなると当然、CAMに登録している加工条件を使い分けなければいけませんが、同じ工具径であれば加工条件を使い分けるのは面倒な面もあります。こうした背景から、際立って加工条件が遅いわけでなければCAMの初期登録のまま変更せずそのまま使っているという現場も多いようです。また、ドリルの加工条件からして適切でないことに気付いていない現場も多いのです。

 社内のOJTで、ベテランの先輩からドリルの手研ぎから教えてもらった際「2本の切りくずが同じ長さで出てきて、きれいにつながり均等になっている状態が正しい」と教えてもらった方も多いのではないでしょうか。「これがうまく研げた証拠だ」といった具合です。

 しかし、これは送り条件が遅いために切りくずの厚さが薄くなったためです。長くつながった切りくずは、特にマシニング加工においてドリルに絡まりトラブルが起こりやすくなります。逆に、適切に上げた送り速度で加工された切りくずは、切りくずが厚くなり、カールした時に折れやすくなっています。そのため長くつながらずプチプチとすぐに切れますが、この状態の方が排出性は良くなるわけです。

 「良い切りくずは長くつながるものだ」として本来とは違う使い方をしていては、むしろドリル寿命を縮めることもあります。そうした点で、固定されたままのCAMの加工条件は効率性の点や加工品質の面においてそれぞれ問題を抱えていることになります。無料診断ではマシニングセンターにおける加工条件なども具体的に聞き取り、加工方法に問題がないかを確認しています。

3、作業チェックシートは整備されているか、不具合対策は適切か

 マシニングセンターの段取り作業においては、次のように多くの手順があります。

 このように一つの段取り作業のように見えても、その要素作業にはこれだけ多くの手順があり、このうちどれか一つが抜けても、ワークにぶつける・工具が破損する・機械をぶつけるなど重大なトラブル要因になります。これを毎日の忙しい仕事の中で、漏れ・抜けなく完璧に作業するのはベテランでも難しいと思っているでしょう。
 マシニング加工の人的ミスを挙げてみると次のようなものがあります。

 これら問題の対策としてはチェックシートが必要です。これにより体調が悪かろうが、声を掛けられて手が一旦止まろうが、やるべき手順の目安ができます。

 自分以外の別の人と共に確認するクロスチェックも有効です。携帯ショップや銀行窓口などでも見掛ける確認方法で、絶対にミスができない作業現場では徹底したチェックをルール化しているメーカーもあります。無料診断ではこれらのチェックシートや必要に応じたクロスチェックを行っているかを確認します。

 また、マシニング加工やワイヤーカット放電加工などにおける加工直前の最終確認として、適切な「関所」を設けているかといことについても確認しています。ミスによる加工不良が出た際の対策としては「例えば加工指示書に注意を促す追記をする」とか「工具長補正の忘れに気をつけるよう工具一覧表にチェック欄を設けた」など、様々な処置が行われます。それらを聞いた後、筆者は「それで加工スタート直前の関所としてはどんな確認をしていますか」と質問します。

 マシニングやワイヤーカット加工など、加工プログラムを用いる機械加工で最重要だと考えていることが、下図のアウトプットの直前(加工開始直前)に示す「関所」ともいえる最終確認です。

 上図は、マシニング加工における「人」に関する作業の流れを表しています。インプットは材料や加工プログラム、プロセスは段取り作業、アウトプットは機械加工とその加工品を表しています。前述した不具合対策として行う、段取り中のチェック行動や2重確認...

などは、図でいうところの「プロセス」の中で行う処置になります。

 これはこれで重要な処置ですが、手厚くすればするほど作業工数は増えていきます。筆者が考えている「仕事の上手い人」とは、確実にミスを発見できる関所を1重、もしくは2重に仕掛けておき「プロセス」の中でかける手間は最小限にし、効率的に行うことで仕事を確実かつ迅速に行える人だと考えています。

 言い換えると初心者や未熟なオペレーターは、多重な確認作業を手厚く設けた「プロセス」が必要で、1年から2年、3年から5年と経験を重ねるごとに「プロセス」を徐々に省き、段取り工数も減らしていくのが望ましいと考えています。ただしここが重要で、初心者もベテランも「関所」となる最終確認方法は同じとし、標準化することです。

 残念ながら「御社では関所はどのように行っていますか?」と質問すると、ほとんどの金型メーカーで「そもそも関所は無いです」という返事が帰ってくるのです。「ササッと段取りをしても、加工スタート前の最終確認でほとんどのミスは発見できます」という手順は確立されているでしょうか。無料診断では、こういった関所を適切に設けることができているかを確認しています。

 この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。

◆関連解説『生産マネジメントとは』

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