インドネシアの工場での人財育成の事例
2015-10-13
シンガポールの工場のクリーン化指導の時に、インドネシアのバタム島の工場にも寄ることにしていました。ここにも日系企業が集まる工業団地があります。今回はこのバタムの工場の2つの事例を紹介します。日常生活を通じての人財育成の事例です。
通い出した頃は廊下の壁が汚れていました。立ち話をする時、一方の人は壁に寄りかかり、片方の足は靴底を壁に押し付けていたので、靴の汚れが壁に付着していました。ただ、その本人は汚していると言う意識は無いのです。 当時、赴任したTOPがそのことに気付き、色々考えた末、壁を艶のある白色に塗り直しました。遠くから見ると光って見えます。そして全社員に、壁に足を付けないことを説明しました。綺麗な工場とそうでない工場では印象が違う。お客様にも良い印象を持ってもらいたい。又そのような環境で働く自分たちも気持ちが良い。自然に汚れるのと故意に汚すのでは、汚れ方のスピードが違う。それを復元するにはお金がかかること。それは経営に影響するのです。こんなことを繰り返し指導していました。全社員に話をするということは、お互いに見張ると言う意味もあります。
つまり、壁を塗り替えた時から教育が始まったのです。現場で製品を作ることだけが仕事ではありません。綺麗な工場から良い製品が作り出されるのです。その努力の継続で仕事が続くのです。汚れっ放しの工場では製品の扱いも粗雑になる。良いものは出来ません。取り巻く環境がこのような状態なら、さぞかし製造現場の環境も悪いだろうと推測されてしまいます。そして印象が悪いと仕事が来なくなってしまいます。こういうことを時間をかけて説明してきたのです。汚したら塗り替えるでは、費用も時間もかかります。それよりも、汚さない努力をするという考え方です。この地道な指導の継続により壁を汚さなくなったばかりか、クリーンルームに入っても、同様の行動が無くなったとのことです。そして、細かな事にも気を配ると言う気持ちが徐々に根付いて行ったようです。
クリーンルームの中と言っても、床は汚れていますので、同じ行為をしてしまうと、クリーンルームの壁も汚れてしまいます。こう言った日常的な、従業員の身の回りのことから教育を始めることが取りつきやすいです。ただし成果出しは焦らない。じっくり浸透させることです。
同じ工場にある食堂のことです。従業員は午前中1回休憩があり、その時は食堂でおやつなどを食べても良いことになっていました。ただ、行儀が悪くテーブルの上に食べたあとのゴミが散らかり、また床にもゴミを散らかしたまま作業に戻ってしまうと言う状況でした。清掃業者が昼食に間に合うように、短時間に広い場所を清掃しなくてはいけないので、大変だったようです。先ほどのTOPが何とかしようと考えたのが、椅子の色によるエリアの区分けです。元々は赤い椅子だけだったのですが、従業員が増えることにより、買い増したものが黄色だった。その赤と黄色の椅子が入り混じっていたのを見て、赤色は通路側に、黄色は奥側に集めると言った区分けをし、休憩時間は赤い椅子のみで飲食するようにルール化したとのことです。すると休憩時間は赤い椅子の部分、つまり食堂の床面積の半分、しかも通路手前側しか汚れないと言うことです。従って、業者も昼食時間に間に合わせるための清掃は、奥に入らず手前だけ清掃する。面積は従来の半分ですから、余裕を持って出来る。昼食前の清掃にかかる費用も半分に出来たとのことです。また清掃にも費用がかかる事を従業員が認識し、そしてテーブルの隅に台拭きを用意したところ、徐々に汚さない努力をするようになったとのことです。
壁の汚れや食堂の食べ散らかしの対応時、単に指示、命令だけでは中々上手く行きません。それよりもこういう機会を教育のチャンスと捉え、改善して行くと言う例です。こう言った繰り返し、継続で段々考え方を理解してもらうと言うことです。“なぜか”を説明しないで、厳しいルールや命令だけの押しつけでは長続きしないのです。
人財育成と仕組みのセットの考え方です。食堂の例では、食べた後のゴミを片付けるとか、テーブルをひと拭きするなど、次に使う人の事を考える事の大切さを学んでもらう意味があります。これらを呼びかけるメンバーを指名すると、なんだか責任を持たされたようで嬉しくなる。そして進んで行動したり、細かな事に気が付くようになってきます。時間をかけ...
た育成です。もちろん日々の作業者との接触でも、単に作業者とか工数の認識ではなく、彼らと対等に付き合うことが前提です。このようなタイミングを捉え普段から時間をかけ育成して行くことで、言われたことだけやると言う意識から脱皮し、品質の向上など会社の戦力になってくれます。こういう努力の積み重ねから、経営側と従業員のベクトルが合い、利益体質の工場づくりへの総合力の発揮に繋がります。
昨今、東南アジアの工場では、日本式の改善や5Sなどが定着・浸透してきています。またQCサークル活動なども盛んになって来ました。レベルも高くなり、国内、海外の代表サークルを集めたQCサークル発表会でも、トップクラスのサークルも目立ちます。このような状況からも、日本人よりも日本らしさを感じる。あるいは追い越されているのではないかと感じることがあります。ある意味脅威です。こういう事例に遭遇するにつけ、これまで日本企業の高いノウハウを供給して来たが、単に追い越されてしまうのでは、国内に残るものが無くなります。私達も常にその先を走るための努力を怠ってはいけません。