‐企業内に発生している問題点を徹底的に追求 ‐ 製品・技術開発力強化策の事例(その3)

 前回の事例その2に続いて解説します。企業内では解決が容易でない様々な問題が生じています。しかし、これらの問題解決に取り組まない限り、競争に勝つことが出来ないだけでなく、 企業としての生き残りは難しい。そのような危機感の下で、問題点を整理して対象を絞り込み、徹底的に問題解決を図っている企業があります。その結果、非常に競争力の強い技術が生み出されています。この場合には問題解決に取り組む過程で経営方針が固められていく傾向が見られます。
 
 例えば、段取り替え時間が長い、微細な穴加工の不良率が高い、他社よりも短時間で加工可能な技術を開発しないとコスト競争に負ける。そのような問題意識を持ち、解決に取り組んだ結果、性能の優れた工具、独自性のある周辺設備及び加工のノウハウ等が開発され、付加価値の高い受注を可能にしました。
 
 高い目標(スピ-ド、品質、コスト等の側面)を立てて、徹底的に取り組むことが技術開発や製品開発を促していき、その取組みの中から経営の方向付けが固められていく事は多くの事例が示しています。最初からそれは難しいから出来ない。そのような消極的な発想をする技術者の意識を替えることが能力開発に不可欠の事であって、何よりも大切な課題です。
 

1.加工スピ-ドの早い工具の開発

 K社は金属部品の下請け企業です。同じ下請け企業の中で競争に勝ち残るには、他社よりも数段短い加工時間で作業が完了するような、加工法を開発する必要があります。そのような発想で材料別、加工形状別に最短の加工条件を追求することにしました。加工時間を半減する目標を立て、一つの加工に対して工具を多数用意し、送りと切り込み量について、最短時間で加工が可能な条件を満たす工具を選定し、一度決めた条件は必ず守るよう社内を徹底させました。このような加工条件を決めて行く過程で工具のびびりがひどく、切削精度が悪くなる現象が現れました。
 
 工具のびびりはどこから出ているのか、工具、工作機械、そして、ホルダ-と調べて行くと、工具や工作機械に問題は無く、ホルダ-に問題があることが判りました。そこであらゆる工具ホルダ-を調達し調べたが、目的にかなう工具ホルダ-が見つからなかりませんでした。どこにも無いのであれば、自分たちが開発する必要があります。そのような経緯を経て開発された工具ホルダ-は業界の注目するところとなり、工具ホルダ-のメ-カ-になっていく端緒になりました。
 

2.金型の段取り替え時間が長い不満の解消

 Y社は順送型プレスによる電子部品の受注生産を行っています。一部の金型は、受注生産により外販している金型のメ-カ-でもあります。金型交換の段取り替え時間が長いため、受注量以上に部品を生産し在庫しておき、次の受注に備えていました。そのために、不良在庫が増加し、経営を圧迫する事態が生じてきました。それだけでなく、多頻度少量受注の時代の流れに遅れることへの危機感も手伝い、段取り替え時間の短縮が可能な金型の開発に取り組むことになりました。金型の組み立てを始め、ワンタッチセッティングを可能にするには、生産過程から検討を加えて行く必要がある。と、経営者は考えました。
 
 金型の仕様が決定し、設計に着手する段階で、各工程の責任者を集め、受注品の概要を説明して、生産面から改善点を指摘させ、それを設計に反映させるようにしました。各工程の担当からはそれぞれに勝手な意見が飛び出してきます。これに反発していては意見が出なくなるから、辛抱して聞くように、経営者は設計者を諭し、彼らの意見を参考にしながら設計に着手するように指導しました。組立図が完成して、部品の詳細図に着手する前にもこの打ち合わせを行い、部品の設計に反映させるようにしました。時には、設計者が反発して冷たい雰囲気になることもあったが、これを経営者が調整して、図面会議を継続させました。辛抱強く約2年間続けた結果、組み立て性が非常に良く、取り付け調整不要で、段取り替え時間の短い金型が生産出来る...
ようになりました。その結果、顧客に喜ばれる金型が生産出来るようになり、受注増加と生産性の向上に貢献することになりました。担当者毎に都合の良い意見を出す中で、調整する機能を経営者が発揮し、使用者にとって最適の製品を作ることに力を注いだことが大きく影響しています。
 

3.事例の要点

 自企業内で抱えている問題点を高い目標を設定して解決すると、同じ状態に置かれている企業にもそれが適用出来るようになり、その技術成果が商品として販売出来るようになります。つまり、自社の生産ラインを市場に見立てた開発が行われているに等しい結果になります。経営者は明確な目的意識を持ち、毅然たる態度で問題解決に当たるように社内を導いて行く必要があります。いろいろな意見が出てきて、問題解決に抵抗する技術者が時には現れます。一つずつ問題点を明確にして、解決する実績を示すことが唯一の説得力になります。最初の段階では信念を持って説得する根気が何よりも大切です。
 

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