1、中国工場の良し悪しはトップの方針・考え方で決まる(その2)
今回は、トップの方針や考え方が工場運営に大きく影響した事例を2つ紹介します。良くなかった事例と良かった事例です。
(1) 良くなかった事例
ある日系会社でのことです。元々シンセンに工場を持っていましたが、業容が拡大したのでシンセンの別の地区に新しい工場を立ち上げました。新工場の工場長には、香港でその製品の顧客対応をしていた日本人駐在員を充てました。その製品の技術的なことも顧客が求めていることも分かっているので適任と考えたわけです。
新工場が立ち上がって1年弱の時にその工場を訪問する機会がありました。工場を一通り見ていくと「あれっ」と思うことに気が付きました。何に気が付いたかというと、作業者が時間中にも関わらずトイレに行くのが目についたのです。それも1人や2人ではないのです。
「あれっ」と思って工場長に聞きました。
わたし 「作業者が時間中に何人もトイレに行っていますがいいのですか?」
工場長 「いいんです。うちは時間中に作業者がトイレに行くことを認めています」
わたし 「えっ、それってどうしてですか?」
工場長「・・・」
工場長は口ごもって認めている理由を教えてくれませんでした。その後周りからいろいろと聞き込んでいくうちに理由が分かってきました。
実はこの工場は、ある特殊な作業をするので、採用した作業者をすぐに現場に出すことができないのです。ある期間、教育をして一定のレベルになった作業者だけが現場で作業することができるのです。
工場長はどうもこのように考えていたようでした。「時間をかけて教育をしてやっと現場に出せるようになった作業者を、規律を厳しくしたことで辞められると困る」と。
でもこれはいらぬ心配です。作業時間中にトイレに行って良い工場などありません。基本的に休憩時間中にトイレに行くことになっているはずです。他の工場で働いた経験のある作業者であれば、それは当たり前だと思っているはずです。また、新卒で採用した作業者であれば、最初に教育してそれが当たり前のこととして刷り込むことで問題はありません。
ところが、この新工場では午前1回、午後1回時間中にトイレに行って良いことにしていたのです。機転の利く作業者は、この決まりを利用して午前と午後にトイレ休憩を取るようになっていたのです。
それを時間に換算すると、1回のトイレ休憩を5分として、2回で10分、これを100人の作業者が使ったとすると1000分、なんと1日で約16時間もの作業時間が減っていることになります。月間、年間にしたらとんでもない時間になります。
また、この時間中のトイレを認めたことで、この新工場全体が時間にルーズな工場になっていました。前述の例で出したように、始業ベルが鳴っても作業者が更衣室にいることなどは当たり前で、昼の休憩の時などは、休憩開始のベルが鳴る前に作業者が席を立って食堂に向かっているような有様でした。
工場長の要らぬ心配が招いた結果です。
(2) 良かった事例
こちらも日系企業ですが、既に中国内にいくつかの工場を持っています。生産量が増えてきたのでもう1つ中国内に工場を作ることになりました。
この会社では中国内にいくつかの工場があることから、日本本社の方針で工場同士を競争させていました。生産性はどこの工場が一番良いとか、品質はどこが一番高いとか、コストはどこが一番安いかなどを工場間で比べ、発表していました。
そのような中、新工場の総経理(日本人)が「グループ工場の中で一番の品質になる」という方針を打ち出しました。アドバルーンを上げたのですね。「品質で一番を目指す」。大変素晴らしいことです。ところが、他の工場からは、この方針は非常に評判が悪かったそうです。「立ち上げたばかりの...
新工場の総経理は、そんな評判はまったく気にしなかったようです。その総経理から話を伺ったところ、次のように述べていました。
「グループ工場の中で一番の品質になることが本当の目的ではなかった。新しく工場を立ち上げた時に、そこで働いているみんなが同じ方向に向かって仕事をするようにしたかった。そのために品質で一番という方針はちょうど良かった」と。
「実際に、この工場で働いている幹部、管理職、事務員、作業者のみんなが品質という目標に向かって、同じベクトルで仕事ができたことがなによりだった」とも言っていました。
新工場を立ち上げてから3年で、この工場はグループ工場で一番の品質を成し遂げています。
工場トップの考え方を方針をうまく使うことで工場に浸透させ、立ち上げという難しい時期を従業員一丸とすることができた好例といえるでしょう。
次回に続きます。