研究開発部門にスパークを起こすとは

◆市場を継続的に長く、広く、深く知る

 企業の研究開発部門は、「金ばかり使って、良い技術が全然出てこない」と非難されることが多いようです。企業にとっての良い技術とは、大きな顧客価値を実現するものと定義できます。なぜなら、大きな顧客価値を提供できれば、それだけ顧客は沢山の対価を払ってくれるからです。必然的に、どこに顧客は価値を認識するかという知識なしには、良い技術のアイデアは生まれません。良い技術は、「市場の知識」と「技術の知識」のスパークで生まれるのですが、研究開発部部門には決定的に「市場の知識」が欠けています。
 
 そこで研究開発部門自らが、主体的に市場を知る活動を行わなければなりません。しかし、残念ながら市場は理解し難いものであり、何か一つの活動を行えばそれで良しとはなりません。私はこの問題に対し、下図のようにTAD(Time、Area、Depth)という3軸から構成される多面的視点で、市場を多角的に理解する活動を粘り強く行い、そこから得られた市場の知識を組織内で共有・蓄積することが重要と考えます。

         

 まずTimeは時間軸で、10年後といった長期に市場はどう変わっていくのかを想定しようとするもので、市場を将来まで見通す能力を持つ「灯台顧客」を活用します。長期にわたり不変な顧客ニーズの本質を見極める、顧客の研究開発部門と接点を持つ、それらの活動に基づき将来の顧客の姿を描く、などがあります。
 
 2つ目がAreaで、市場をより広く俯瞰して見る分野軸で、非顧客/顧客の顧客/補完製品企業を知る、顧客の製品ライフサイクル全体に目を向ける、他業界のアナロジーや途上国から学ぶ、などがあります。
 
 最後のDepthは顧客を細部まで深く理解しようという深度軸ですが、研究者...
自らが顧客を観察する/体験する、顧客と一緒に潜在的な課題を抽出する、サービス部門の戦略的活用などがあります。この一見非効率と思えるような幅広い活動から得られる市場知識の共有・蓄積により、研究開発部門における市場に対する洞察力が格段に強化され、その結果スパークの頻度が大いに高まるのです。
 
 この文書は、 2016年6月23日の日刊工業新聞掲載記事を筆者により改変したものです。 

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