技術人材が目指す第3のキャリアとは
2016-10-25
現在、多くのR&Dの現場では、技術者、研究者のキャリアとして、管理職と専門職の2つのラダーが存在します。管理職は、プレイングマネージャーの場合もありますが、基本的には組織マネジャーです。これに対して、専門職は、特定技術分野のスペシャリストであり、深い知識と経験を有して、技術開発に自ら取り組む人です。専門職の中には、学会など社外において著名な人々もいます。会社によっては、名目上専門職という制度があってもほとんど機能せず、実質的には管理職しかないといった例もありますが、ほとんどの場合、技術者、研究者は、この2つの中から自らのキャリアを選択していくことになります。
私は、R&Dが価値創造力を高めるためには、管理職と専門職とは異なる3つ目のキャリアが必要になると考えています。この第3のキャリアを、私は「技術リーダー」と呼んでいます。技術リーダーは、組織マネジャーではありません。また、特定の科学技術分野におけるスペシャリストでもありません。自社の事業と技術に対する経験と知見を活用し、新たな価値を生み出すために仕事をする人々です。言い換えれば、顧客価値と技術を結びつけ、事業として具現化するために、社内必要に応じて社外を動かす人々です。
技術リーダーが担う具体的な役割は、会社によって様々です。例えば、自動車会社では、新車のマーケティング・企画・デザインから開発・設計・製造・販売まで一貫して携わる車種開発の責任者として、既存の開発組織に属さないチーフエンジニア(主査)という人々がいます。また、ある電子部品メーカーでは、顧客と直接交渉しながら新たな製品・事業の可能性を探索・企画し、その実現へ向けて社内外の関係者を巻き込む技術マーケッターと言われる人々が活躍しています。これらのいずれも、開発組織の管理職、特定技術分野の専門職という、従来の2つのキャリアの中では位置づけられない技術人材です。
技術リーダーには、自社の技術と事業に対する深い知見と、社会や顧客など社外の流れを取り込む広い視覚が必要です。また、様々な角度から得られる情報を全体として解釈する構造的な思考力や、表面的な現象から「なぜ」を見出す探求的な思考力、さらには、散らばった事柄をシンプルなコンセプトに集約する概念的な思考力など、高度な能力が求められます。また、関係者を動かすコミュニケーション力、そして、何より既存の仕組みやインフラがない中で、「やってみよう」と前に踏み出せるマインドが必要です。
当然ながら、そのような技術リーダーは、一朝一夕では...
育ちません。時間をかけて、技術リーダーとしての経験を積み、学習する中で育成されていきます。そのためには、R&D現場の中に技術リーダーとしてのキャリアと仕事を定義し、ポテンシャルのある人材に任せていかなければならないと思います。自社のR&Dの価値創造力を高めるために管理職と専門職という従来のキャリアで十分か、技術リーダーが求められるとすれば、どのような人材か、そして、そのような人材を育てるためにR&D現場にどのような仕事を定義し、作り出すのか、あるいは、どのように仕事を変えるのか、これは、重要な課題です。