防塵衣と髪の毛のはなし

 私は、クリーン化セミナーや国内、海外でのクリーン化教育の時、髪の毛の話をしています。受講、聴講していただいた方は記憶にありますでしょうか。髪の毛は、一般的には男性で直径100μm(マイクロメーター)程度と言われています。1mmの10分の一くらいということですね。色々な資料を見ますと、しなやかな女性の髪の毛は80μmくらいと言う数字もあります。この髪の毛は、顕微鏡で観察すると写真のように表面に魚の鱗のようなものが見えます。
 
                     
 
 これは、シャンプーのCMなどでもおなじみのキューティクルと言われるものです。キューティクルは髪の毛の一番表面を差します。キューティクルの大きさは、髪の毛の直径から推測しますと、20~50μm程度あります。この鱗状のものは、整った形ではなく、写真のように髪の毛の直径を横断するような方向になっていて、大きさはまちまちです。そして、このキューティクルが剥がれ落ちるのです。
 
 クリーンルームの中では、髪の毛も大きなゴミですが、キューティクルも大きなゴミです。特に電子、精密製品製造の現場では、数十μmの大きさは製品への品質影響があります。防塵衣のフードから髪の毛を出さない。発生した髪の毛やゴミは防塵衣の内側を伝わって下に落とそうと言う考え方で設計されています。皆さんの会社の製品は、どのくらいの粒径のゴミが品質に影響があるのでしょうか。一度確認してみると良いでしょう。
 
 具体的なことがわかると、ゴミを意識することになります。つまり、現場が綺麗でなくてはまともな製品が作れないということを考えるようになるでしょう。そしたらクリーン化活動をきちんと取り込んでいけばいいと思います。理解できていないのにいきなり押し付けてもすぐに止まってしまいます。段階的に取り組む方が長続きすることでしょう。
 
 防塵衣をきちんと着なさい。ちゃんと着なさいということには、それなりの理由があるのです。防塵衣の着用方法を説明する時は、きちんととか、或いはルール通りに着たり脱いだりしなさいと言うだけでなく、このような「なぜ?」をきちんと教えることです。可視化して説明するとわかりやすいでしょう。このなぜを伝える場面は人財育成の場でもあります。
 
 私は山形県に赴任時代、良く海岸近くの松林の中をランニングしていました。ここは、黒松の林の中を駆け抜けると言った感じです。この時、黒松の幹を見ると、ブロック状の塊が沢山ついているのが確認できます。縦長になっていて、キューティクルとは方向が90度違いますが、形はとても良く似ています。ところで、この松のブロック状のものは、強制的に剥がすこともできますが、自然に剥がれ落ちると言うことで、難しい表現をすると“贅変(ぜいへん)”と言うんだそうです。要らないものを脱ぎ捨てると言う意味で、昆虫が脱皮するのも同じような意味だそうです。繰り返しますと、この贅変とは贅沢なもの、余計なものを捨てる、という意味で虫が脱皮するという意味の他、リストラの裏言葉で使うこともあるようです。いやな言葉ですね。
  
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 クリーンルームに入る時、防塵衣(クリーンスーツ)を着用するのは、先ほども述べましたが、人が発塵源であり、その人から出たごみをクリーンルーム内にバラ撒かずに、防塵衣の中で処理しようという考え方です。人から出るゴミという表現では抽象的ですが、このように具体的に髪の毛を一例として説明するとわかりやすいと思います。
  
 「防塵衣はきちんと着なさい」だけでは言われた時だけやって、定着しません。髪の毛からのゴミと防塵衣の関係のように、なぜを理解すると、着用の仕方を常にきちんとするようになります。
 
  【 関連する筆者の技法解説記事 】
  ◆ クリーン化活動を通じた人財育成(その1)
  ◆ クリーン化活動を通じた人財育成(その2)

 

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