TRIZをタイタニックで学ぶ

1. TRIZを取り巻く状況

 日経BP社の篠原司氏から日本にTRIZが紹介されて、約17年になろうとしています。筆者もその頃から、社内および三菱総研のTRIZ研究会に参画しながら研鑽してきました。しかし、クライエントや学生たちから、いまだにTRIZは難しいという声を多く聞きます。

 そこで初心に帰り、筆者の学んだ分かり易い事例を紹介します。さまざまな専門分野の人々に対してTRIZを教えることは容易ではありません。例えば、電気工学の例をとり上げた事例では、化学あるいはソフトウェアの専門家に対しては、意義あるものでないと言われることもあり、多くの人々が理解できる共通テーマを求めてきました。

 映画「タイタニック」は、多くの人々が観たり、本で読んだりしています。この名作を題材に、TRIZジャーナル編集長のエレン・ドーン博士が、講演やセミナーでTRIZを紹介しています。筆者も、博士が来日したときに講演を聴きました。多くの聴講者や読者が、共感したのを今でも覚えています。そのときの講演メモや論文を基に整理してみました。

 

2. タイタニックでの課題認識

 タイタニックが衝突直後の状況を箇条書きにしてみると次のようになります。ここで生き延びるための方法が課題となります。

 

3. TRIZの中で説明しやすい技法

 上のような現状認識で次の技法を考えてみましょう。

 (1) 利用可能なリソースの活用

 (2) 技術的矛盾と40の発明原理

 リソースを選んだのは、経験的に多くの人々が理解できるからです。また、40の発明原理と技術的矛盾を選んだのは、短時間で教えることができる簡単な概念であるためです。矛盾マトリクスは、TRIZを熱心に学びたいというトリガー(きっかけ)になるかもしれません。

 

図1 タイタニックの現状認識

 (1) リソースの活用

 リソースの考え方は、どのような専門分野の人々にも理解できるのではないでしょうか。例えば、次のようなリソースが思い浮かび、列挙できると思います。

⇒ 船室(1等、2等、3等)

⇒ 台所と食料貯蔵室

⇒ 機関室、工作室、貨物倉

⇒ 外部の環境

⇒  エネルギー、運動量

⇒ 浮力

⇒ 絶縁

⇒ 表面、容量・体積

⇒ 同時に行うこと

  それぞれの領域について、あらゆるカテゴリのリソースを見つけだして、与えられた時間内にリソースを活用したアイデアを、チームで出し合ってみました。いくつかのグループが独創的で、楽しく、もっともらしい解決策を見つけてくれました。例えば、次のようなものです。

 A 少々ばかげた解決策

 台所からラードを持ってきて、冷気や水から遮断し浮揚するため、身体にそれを塗り付け、より大きな浮力を得るために空のラード容器を使用する。

B 実践可能なブレークスルー

 できるだけ氷山の近くに戻るために船の運動エネルギーを使用し、救命ボートを往復使用して人々をタイタニック号から氷山まで移動させる。彼らは救助が来るまでの2時間、そこに座ってさえいればよい。そうすれば彼らは水の外にいることができる。

 

(2) 技術的矛盾と40の発明原理を活用

 通常、リソースを抽出する間に、参加者はいくつかの技術的な矛盾に気づくでしょう。それらの矛盾を使って、矛盾マトリクスと40の発明原理の使い方を分かり易く説明します。

<矛盾の定義>

 ボートが沈...

む状況を別のことばで表します(これを抽象化と呼びます)。つまり、「より多くの人(重量)を救命ボートに乗せようとすると、ボートの甲板から水面までの距離が小さくなる。」と置き換えます。矛盾マトリクス表で、「重量を多くしたい」は、改善パラメータの「移動物体の重さ」、「距離が小さくなる」は、悪化パラメータの「移動物体の長さ」を選びます。マトリクスの交点から、発明原理15、8、29、および34が導かれます。これらの発明原理から、たくさんの解決策が得られます。

 

参考文献:

Ellen Domb, "Titanic TRIZ: A Universal Case Study", triz-journal, p1~3(2003)

 

 

 

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