『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その11)

 
 『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場で勝利をおさめる為のヒントが豊富に隠されています。『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、今回から、『論理的思考を強化せよ』です。
 
 仕事は行き当たりばったりではうまくいきません。他人の考えや世の中の「常識」を鵜呑みにするのも危ないでしょう。今回から、自分の頭で考えて、それを筋道立てて説明できるようにするためのポイントを述べます。
 

1. 第5巻「海濤」から

 
 「いや、その件については、目のいい飯田大尉が参りますので」と、ごく事務的にいったのです。東郷は、真之のそういう態度が、ときに小癪にさわるらしい。東郷にしてはやや露骨にまゆをしかめてみせたのです。わかりきったことは言うな、という意味であったのでしょう。「私が、ゆくのだ。飯田大尉が同行するならばかまわない」と、いう。その語気は、飯田大尉と同じほどに目のいい人間がたとえ百人行こうとも、自分はその報告を信じがたい気持ちで、この件にかぎって自分が自分の目でたしかめたい、という言葉が、一時間の演説の量ほどに詰まっているようでした。東郷のこの執心は、もっともであったろう。
 

2. 全体像を描く

 
 経営は論理の積み重ねと言われます。何かを成就したり課題を達成したりするためにはその裏付けが必要です。裏付けのためには論理的思考が欠かせません。日露戦争の早期開戦を主張する学者たちが参謀総長の大山巌を訪れた。大山は「今日は馬鹿が7人来た」と言っているのです。また元老の伊藤博文は「私はあなたたちの名論卓説をいっぱい聞くよりも、戦争に勝つための大砲の数を相談したい」と言っているのです。
 
 何かを成し遂げるためには、達成すべき課題とその実施の順序があります。その課題や順序を考えるとき何らかの裏付けが必要です。最初にこれこれがあって、次にこれをすると最後はこうなる、という要素ごとに順序があるのです。この関係をプロジェクトマネジメントの用語で依存関係と言っています。戦争を始めるには大砲がどのくらい必要か計算しなければ話にならないでしょう。
 
 前のことが出来上がっているから、それを受けて次のことができるのです。順序を違えば、また元の木阿弥で、全部やり直すことになります。裏付けがないとダメなのです。行き当たりばったりでく、筋道立てて説明できるような計画性が必要です。筋道立てて説明するためには、どうしても全体像を描くことが重要です。それにはまず「背景」を描いてみることです。何をやりたいのか物語ってみることです。
 
 ところが、これらを無視して「まずやってみよう、為せば成る」と言う人がいます。何かをやるための方法論を試したり、模索したりするためにはそのやり方でもよいでしょう。しかし、そればかりではうまくいかないのです。最終形がなければ始まりません。最終形...
とは、その仕事が終わったときにはこういう状態になっていたい姿、あるべき姿のことです。
 
 初めてやることは、最終形があいまいで、そこに行きつくまでをどうつなげばいいのかシナリオがわからないことが多いでしょう。最終形がはっきりしないうちに「まずやってみよう」では、どうしても徒労に終わることが多いのです。
 
【出典】
 津曲公二 著「坂の上の雲」に学ぶ、勝てるマネジメント 総合法令出版株式会社発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載。
 
  
◆関連解説『人的資源マネジメントとは』

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