技術継承の事例 伸びる金型メーカーの秘訣 (その1)

 今回、事例として紹介する加工メーカーは、NC旋盤加工を主力事業にしているT社です。同社は、鍛造や板成形加工されたプレス品の2次加工を主に行っており、それ以外にも様々な素材種類や用途の加工品を扱っています。
 

1. T社のコアコンピタンス

 
 T社の強みは、プレス加工された素材など、NC旋盤加工を行うにあたり、チャッキングや加工精度を出すことが難しく、多くの同業他社が受注を避けるような製品を多く扱っている点にあります。
 
 チャッキングや加工精度を出すことの扱いが難しい理由として、次のような点があります。
 
(1) 素材形状が歪(いびつ)であったり、薄肉であるため、チャッキングが難しい。
(2) 要求品質として、加工歪みが極めて少ない状態で加工しなければいけない製品がある。
(3) 上記(1)(2)の難易度でありながら、ロット生産であるため、不良を流出させない品質管理が必要であること。
 
 T社はこのような、取り扱っている製品の特性による諸問題を、豊富な旋盤加工全般の知識と、社長の独自の発想によって解決し、それを自社の強み(競争力)としてきました。
   
 
 

2. 技術開発拡大への課題~ハイテン材を使用した部品の2次加工

 
 今回、取り組もうとしているテーマは、自動車部品におけるハイテン材を使ったプレス部品の2次加工について、現在同社には、従来を超える強度のハイテン材を使用した部品の2次加工の引き合いが来ており、それに対応できる技術のための開発事業です。
 
 対象となっている部品は、エンドユーザーから高い平面度が要求されているため、同社での旋盤加工の後、他メーカーで研削加工を行っています。
 
 しかしながら、今後の生産工程では、従来を超える強度のハイテン材を使用しながら、旋盤加工後の研削工程を無くし、リードタイム短縮とコスト削減を図りたいというエンドユーザーの思惑があります。そこで、高い旋盤加工の量産技術を持つ同社に、生産工程改善の相談が来ているのですが、現状の保有設備、加工技術では対応が不可能でした。
 
 そこで同社が行っている、いくつかの独自の加工方法について、そのメカニズムを理論的な視点で掘り下げ、従来を超える高ハイテン材に活用できる、新たな加工技術に高度化させることを考えました。
 
 例えば、筆者が加工現場を視察したり、社長からヒアリングを行ったところ、市販工具を特殊な方法に応用して切削加工を行っていたり、リーマ加工におけるバニシング効果を高める前加工に類似した、仕上げ切削プロセスなどを行っていました。
 
 こうした技術は、これまで社長の創意工夫により構築されてきたものでしたが、今回、専門書などに記載されている理論的な視点により、技術的な裏づけを明確にしたうえで、さらにそれを新型NC旋盤の機能を使って新たな技術として高度化させる開発の取り組みを行いました。
 

3. 技術継承と組織体制

 
 社長の今後の取り組みとして、これまで培ってきた旋盤技術を、若手人材に継承していきたいと考えています。同社に限らず、これまでの職人技術のように属人的な技術・技能は模倣が困難であり、それが参入障壁となり、競争力となる反面、事業拡大や技術承継の際には足かせになってしまいました。
 
 そこを打破し、効果的な若手人材の育成を行っていくためには、単なる作業手順書だけではなく、社長の頭の中にある思考プ...
ロセスを、知識と技能に分け、紐解きながら従業員に伝えていける仕組みが必要となります。
 
 その仕組みを構築できれば、多品種小ロット生産や一品生産を行う加工現場に最も必要となる「応用力」を養っていくことができるのです。今後、社長は採用計画と共に、技術者育成の仕組みを整え、エンドユーザーを支えるサプライヤー企業として何十年と続けていける「組織体制」を作り上げていくとのことでした。
 
 この内容は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。

  

◆関連解説『生産マネジメントとは』

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