1. 開発納期が間に合わない!
半導体梱包材開発係長が、憔悴しきった様子で筆者の前に現れました。「粕谷さん、もう自信ありません」彼は18ヶ月以内に、図1に示すようなLSIベーキング用金属トレーの樹脂化を事業部に約束していましたが、既に14ヶ月が過ぎていました。
ベーキングとは、材料の結晶化の安定性向上や酸化膜の接着性向上のために、100℃以上の電気炉で数十時間放置するプロセスのことです。今まで、PP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)およびPBT(ポリブタジエンテレフタレート)を使い、CAEによって開発試作していましたが、変形や反りを抑えられなかったのです。この分野では、周囲からも一目置かれていた人物です。試行錯誤で何回も失敗し、藁にもすがる想いだったようです。
図1 ベーキングトレーの開発
2. 課題認識
他社が実用化したPPS(ポリフェニレンサルファイド)製品のコストは、PPの10倍以上でした。それでよければ、1.5ヶ月で納入可能であったわけです。しかしまだ4ヶ月の猶予があるため、筆者は、「TRIZで課題解決してみましょう」と提案してみたのです。
まず、梱包形態とベーキング方法を、従来方法と理想解に整理しました。従来は、電気炉の中にオカモチ(蕎麦屋が使う出前用の棚)型の冶具を作って、アルミトレーを差し込んでいたのでした。それを樹脂トレーの直積みにすれば、電気炉の数量、スペースと電気代が数分の一になることが予想できました。
3. 対応策
専門領域外のメンバーも加えた約5名のプロジェクトを発足させました。トレーの変形や反り対策には、主に40の発明原理を使い、アイデア出しを実施してみたところ、多くのアイデアで白板が埋め尽くされていきました。最終的に、「40複合材料の原理」から、ステンレスファイバーを混ぜて耐熱性を補強すること。「22災い転じて福となす原理」から電気炉の底面に倣わせれば、一番耐熱性の悪い安価なエンプラで良いことをつきとめました。
4. 結果と効果金額
「悩みが嘘のように消えました。」報告会での係長の安堵の感想でした...
小さなプロジェクトでのチームワークとTRIZの40の発明原理の効果は絶大でした。
参考文献:「SEのスピード発想術(技術評論社)」