マシニング加工の改善 伸びる金型メーカーの秘訣 (その16)
2018-01-05
今回は、M工場の金型課におけるコンサルティング事例として、マシニング加工の改善について取り上げます。
近年、CAD/CAMシステムの進化によって、機械オペレーターに習熟度のバラツキがあっても、その影響をなくして加工を行うことができるようです。筆者も現役の加工者だった頃は、CAMオペレーター専任として複数の機械オペレーター向けにNCプログラムを作成・提供していたことがありますが、ベテラン・若手、気にすることなくプログラム作成できることは非常に便利だと感じました。
しかし、このソフトウェアの進化によって、多くの金型メーカーで将来性に関わる問題が発生しています。例えば、機械オペレーターにおいては、加工技術を知らないまま、段取りだけを行う「段取りマン」にとどまってしまう、また設計者においては、過去に自社で取り扱った図面を元に、修正・編集ベースでしか設計できないといった応用力の乏しい技術者が増えているのです。また、そうした技術者が年齢的に中間管理職になっていることもあり、次の若手技術者に根本的な技術の視点でOJTを行うことができていません。例えば、「なぜそうなるのか?」「なぜこの方法で行うのか?」といった質問に対し、「昔からウチはこうやっているから」といった曖昧な回答をしていることも多いのです。
こうなるともはや、ものづくりの手段としては、場当たり的に暗記的に覚えた対応しかできなくなり、応用力が問われたり、トラブルシューティングを行う場合、対応ができなくなります。実際こうした製造現場が増えています。今回は、こうした点への対応についても触れていますので、ぜひ参考にして下さい。
射出成形金型を扱う同課の金型製造の特徴として、①完全な3次元設計を実現、②機械加工はCAM担当者と機械オペレーターの完全分業化を実現している点があります。これについては、人的ミスや忘れなど、手戻りロスなどが削減でき、効率的な金型製造が可能になる反面、製造工数を冗長化させるリスクもありました。そこで同社は、さらなる製造コスト削減に着手するため、最も工数のウェイトが高い機械加工、特にマシニング加工に注力した改善に着手しました。
CAM担当者と機械オペレーターが分業することにより、複数の機械オペレーターに習熟度の違いがあっても、加工品質がバラつかないメリットがあります。しかし、部品の種類によっては、手動操作で加工できるシンプルな形状の場合、CAMによるデータ作成に加え、CAM担当者と機械オペレーターとの意思疎通を行うための加工指示書の作成まで行うことで過剰な工数が発生します。
また、機械オペレーターは「段取りマン」になりやすく、長期的に見た場合、スキル向上の機会を得ることが難しいのです。同課は、新規型の製作・量産型の修理のため、高い負荷が慢性的に続いており、個々のスキル向上になかなか対応できない状況でした。
そこで、マシニング加工を行う部品について、加工部位に要求される面粗さごとに、次の改善を図ることとしました。
荒取り工具だけで完了させる。もし加工面粗さが原因のクラック発生が懸念されるならば、リューダで手仕上げする。Gコードプログラムを使わない直線的な部位は、手動操作(ジョグ送り)の加工で終わらせる。また、CAMデータ加工で使う工具は、必ずしも手動加工でも使いやすいとは言えないため、ラフィングエンドミルなど、別の工具に使い分ける。
荒取りの加工条件よりも、むしろ仕上げ加工の送り条件をUPさせる。工具カタログに記載してある推奨条件は、過酷な条件となる荒取り加工の条件をセールスポイントとして記載してあることが多い。逆に、荒取りほど負荷のかからない仕上げの加工条件は、加工者固有のスキルによるところが大きい。部位にもよるが、金型構造部の▽▽の面ならばRz値12.5~25zレベルでもよいため、理論面粗さ値の計算式から、許容される送り速度を計算し、できるだけ送り条件をUPさせました。
設計面からも見直し、本当に▽▽▽レベルが必要なのかを検証する。例えば、放電加工は▽▽か▽▽▽レベルの面粗さが得られるため、オペレーターのスキルには影響されないが、部品用途によっては過剰品質になる。また、社内で部品図面を作図する金型メーカーに多いのが、図面によっては、寸法公差・面粗さを省略している場合、加工現場では過剰な品質で加工されていることもある。
デジタル加工からアナログにすることで、まだ工数の削減はできるのです。同課の設計図面は、製図スキルの観点からも高度に書けており、一見すでに改善の余地はないように見えます。しかしもう一歩、設計者が加工ノウハウに踏み込むことで、手動操作の加工に都合の良い部品構造にすることもできます。この点については、設計・CAM・マシニング、各担当が分業化されており、その間に隔たりがあることが弊害でした。
例えば、金型をクランプするための溝を肩削りで行うような手動加工であれば、その部品図面に記載する寸法は、基準位置からの累進寸法よりも、端面からの幅寸法の方が、電卓を打つ手間が省けミスの可能性を減らせます。こうした体制を作るためには、設計者が加工を知らないとできないため、これは設計者としての「伸びしろ」になります。また、多能工やオールラウンドプレーヤーが多い金型メーカーと、そうでない分業制のメーカーでは、こうした点で製造コストに差が出やすいのです。
今後の同課の取り組みとして、短期的にはさらなる製造コストの削減、中長期的にはベテランから若手への技術継承があります...
。ただし前述したように、技術継承においては、多くの金型メーカーでは、「作業手順の引継ぎ」にとどまってしまうことが多く、製造現場の技術力低下を招いています。
技術スキルの習得については、まさに「ローマは一日にして成らず」の言葉どおり、コツコツ続けていき、気づけば高度に習得できていたというものも多いでしょう。ところが多くの金型メーカーでは、短納期対応に追われ、着実な技術習得に取り組む時間が取れないのが実情です。
同課の、課としての金型技術としては高度に確立しています。また、最新の切削工具の採用なども積極的に行っており、効果の高い改善を高頻度で行っています。今後は、技術者としての「個」の技術を高めていくことで、「社」としての金型技術を高度化させることができるでしょう。そのためには、技術者の直属の上司のマネジメント能力を高めることで、高度な技術者を計画的に育成し、将来にわたってコスト競争力を高めていく同課に、期待をしています。
この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。