自ら行う金型設計と製作 伸びる金型メーカーの秘訣 (その24)

 今回、紹介するプレスメーカーは、株式会社 Vです。同社は、主に自動車部品のプレス量産加工を行っており、60tプレスから300tまでの単発・順送型いずれも対応しており、サーボプレスも有効に活用しています。プレス板材についても、普通材からハイテンまで幅広く対応しています。
 

1. コアコンピタンス

 
 同社のプレス加工は、前述したように自動車部品分野において幅広い対応ができるなかで、特に安定した順送プレス加工に強みがあります。この安定感により高い操業度・稼働率を生み出しています。筆者も同社工場内に滞在しているときは、その途切れないプレス機械の稼働音に、生産の高い安定度を感じます。こうした生産を行ううえで、金型品質はもちろん重要になってくるわけですが、同社にとって全く問題がなかったかといえば、そういうわけではないようです。
 
 これは同社だけに限ったことではないのですが、総じてプレス単価が下落していることにより、その製品に用いる金型の製作費も下げざるを得なくなっています。言い方を変えれば、プレスメーカーとして、充分な金型費をかけられないということになります。そのため例えば、本来強度的に必要な金型鋼材が使えなかったり、プレス成形精度に必要な工程と型数で製作できなかったりといった問題が起こるのです。
 
 そうした影響を最も受けるのは、その金型を使う立場にあるプレスメーカーです。もちろん同社とて例外ではないのです。
 
 
 

2. 金型設計と製作

 
 そこで同社は、これまで自社で経験のなかった金型設計と製作を自ら行うことを決意しました。これには金型設計システムの進化や、補助金の活用などもその背景にあるのです。同社はこうしたプレスメーカーにとってのチャンスを見逃さず、新たな事業に打って出たのです。
 
 同社の取り組みの特徴は、単に金型メーカーが従来行ってきた方法を後追いするのではなく、最新のソフトウェア・機械設備も活用したうえで、競争力のある金型製造技術を追求している点です。具体的には、次の3点です。
 
◆ 徹底したシュミレーション技術の活用による自社独自のプレス工法の確立
◆ 3次元システムによるフィーチャー設計の活用
◆ システムのカスタマイズによる自動化の追及
 
 では、これらの取り組みについて、具体的にみていきます。
 

◆ シュミレーション技術による独自プレス工法の確立

 
 同社は、自社で金型設計を行うにあたり、3次元で設計することにこだわったのです。その理由として、成形シュミレーションとフィーチャー設計により、同業他社よりも金型製造リードタイムを縮めたいという狙いがあるためです。成形シュミレーションを活用する効果として、同社が狙っているのは、①プレス工程数を減らすこと、②トライ回数を1回で済ますこと、です。
 
 プレス工程数を極限まで減らす試みについては、同社が保有するダイクッション圧・最大20トンのプレス機を、シュミレーション技術と合わせて活用することで、従来のプレス工程とは異なる新たな成形方法を考案しています。この技術については、別の機会で改めて紹介致します。同社のシュミレーション業務については、代表取締役であるY氏が自ら行い、これまで調達してきた金型にはない新たな工法を日々模索しています。
 

◆ 3次元システムによるフィーチャー設計の活用

 
 3次元設計を行うにあたり、同社はCAD/CAMとしてVISIを使っています。このVISIの持つフィーチャー機能を活用し、設計工程以降のリードタイム短縮を狙っています。ここでいうフィーチャー設計とは、金型を3次元で設計する際に、加工情報まで合わせて定義していくことです。例えば、金型に締結のためのキャップボルトを配置すると、金型を構成するプレートごとに、ザグリやタップなどの加工が定義されます。
 
 これは従来の金型メーカーの工程である、金型の組図を設計担当が製図し、バラシ担当がプレート図面や部品図を作図し、それを現場に提供し、現場の機械担当者がプレート図面や部品図を見ながら加工データを作成するといった工程と比較すると、加工用の図面作成や加工データの作成工数を省くことが可能になります。
 
 また、複雑な金型の2次元組図については、それを「読める」熟練者も昨今は減ってきています。その点、3次元設計された金型構造は、若手技術者も構造を把握しやすく、熟練者も忙しい時間の中、すぐに構造を把握できるメリットがあります。ただし、このメリットは、同じシステムで構成される社内プロセスでのみ活かされます。したがって、外注製作する場合には、VISIの設計データに定義された加工データは展開できません。そこで同社は、3次元設計した金型データから、外注用の加工図面の出力を自動化することで、対応を図っています。こうした「自動化」こそが、同社が考える独自の金型製造システムの本当のキーワードになります。
 

◆ システムのカスタマイズによる自動化の追及

 
 同社は、スケジューラーソフトも導入しており、徹底してムダのない効率化した製造プロセスを模索しています。スケジューラーソフトについても、ここ最近多くのシステムが販売されていますが、同社の選定指針は「オリジナルカスタマイズができること」でした。この指針は、設計システムや現場設備であっても同様です。それは、同社が考える「他社よりも短いリードタイムの金型製造プロセスの構築」の次ステップが、「徹底した自動化」にあるためです。
 
 多くの中小製造業では、少子化のあおりを受け、優秀な人材の確保が年々厳しくなっています。同社も人材確保の厳しさは例外ではないのです。そこで、今後益々厳しくなる状況に対し、Y社長が考えた道筋が、金型製造の徹底した「自動化」です。同社が現在進めている3次元システムを最大限利用した金型製造プロセスは、将来の「自動化」のための前準備です。
 

3. 筆者のコンサルティング

 
 このように同社は、昨今の設計システムの進化や補助金の活用といった、プレスメーカーにとってのチャンスを最大限利用し、自社に大きな変革を起こそうとしています。ただし、他の金型メーカーと比較して、やはりあくまでも新規参入企業であり、当然、金型製作については、積み上げてきた歴史というものがないのです。そこで筆者は、同社が考える中長期の新た...
な事業構想に対し、23年のプレス金型や機械加工の経験をもとに、金型メーカーや機械加工メーカーが積み重ねてきた成功や失敗を踏まえ、きちんと「地に足の着いた」イノベーションを実現させるべくサポートを行っています。
 
 まずは同社における川上工程の、シュミレーション→フィーチャー設計→社内・外注への最適展開、といった流れにおいては、他社に負けないリードタイムの体制を確立させることができました。次は、設計システムのさらなる自動化や、川下工程である機械加工の技術力UPと自動化といった技術テーマに取り組んでいく計画です。
 

4. 今後の同社の取り組み

 
 今後同社は、本格的な金型製造における自動化に向け、ロボット導入のための補助金なども活用しながら、着々と進めていく構想です。従来のプレスメーカーが抱える事業課題の解決を図り、自社独自のプレス技術を見据えながら、中小製造業全体が抱える問題にも「自動化」という答えで解決させようとしている同社に、筆者は大きな期待をしています。
 
この文書は、『日刊工業新聞社発行 月刊「型技術」掲載』の記事を筆者により改変したものです。
   
◆関連解説『生産マネジメントとは』

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