ロボットといえば大昔はSF小説や漫画・アニメ・特撮の世界のものでしたが、現代では社会のさまざまな分野に浸透し、その姿や機能も多種多様なものとなっています。ものづくりに携わる方々には産業用ロボットが身近な存在だと思います。日常生活ではビルの清掃ロボットやファミリーレストランの配膳ロボットをよく見かけるようになっています。また空港での手荷物積み下ろし作業を補助するウェアラブルロボットも話題になりました。今回はそれらのロボットに関わる技術分野であるロボット工学と、ロボット活用の広がりについて紹介します。
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ロボット工学とは?
ロボット工学とは、ロボットを人の役に立てることを目的とした領域横断的な技術分野であり、英語ではRobotics(ロボティクス)と呼ばれます。ロボットの企画・構想段階から、実際の設計、生産、運用方法まで、ロボットに関わる一連のプロセスを対象とします。ロボット工学によって生み出される代表的なロボットとしては、工場や物流拠点などで使われる産業用ロボットや、清掃・案内・介護など日常生活に近い場所で使われるサービスロボット、宇宙空間や災害現場、建設現場などで人に代わって危険な作業を行うロボットなどが挙げられますが、現在ではこれら典型的なロボットに留まらず、人と社会を取り巻くさまざまな分野で、人の負担を軽減したり人の能力を超えた作業を行ったりするためにロボット工学が応用されています。今後ますますの発展が期待されている技術分野です。
そもそもロボットとは?
ここで、ロボット工学の対象となるロボットとはいったい何なのかを見てみたいと思います。
ロボットという言葉を初めて用いたのはチェコスロバキアの小説家カレル・チャペックで、1920年に発表した戯曲「ロッサム万能ロボット会社」においてでした。チェコ語で労働を意味する「robota」から創られた造語で、人の代わりに作業をさせることを目的に、人を模して作られたものを指していました。1950年にはアメリカのSF作家・科学者アイザック・アシモフが小説集「わたしはロボット」の中で以下のような「ロボットの三原則」を提示しました。
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。またその危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が第一条に反する場合はこの限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反する恐れのないかぎり、自己を守らなければならない。
この「ロボットの三原則」は物語の世界だけに留まらず、その後の実際のロボット工学にも大きな影響を与えました。一方、日本では1960年代以降、マンガ・アニメや特撮の世界でロボットの活躍を描いた作品が多数生みだされ、子どもたちの人気を博しました。人間の形をしたロボットに親しみを感じる日本人が多いのは、これらの作品の影響とも言われています。
さて、物語ではなく現実のロボットの話に移ります。産業用ロボットの開発は1950年代にアメリカで始まりました。1960年代からは実用化、1970~80年代には広く普及が進み、いよいよ実際のロボットが活躍する時代となりました。現代におけるロボットの定義の一例として、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「NEDOロボット白書2014」では「センサー、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」としています。またロボットの役割としては、産業用ロボットのような「生産環境における人の作業の代替」、無人システムのような「危機環境下での作業代行」、日常生活の中での家事支援や介護支援等の「日常生活支援」を挙げています。この定義によれば、産業用ロボットやサービスロボットなど一般的にロボットと呼ばれるものに留まらず、例えば自動運転車や自律飛行するドローン、また人間の操縦とセンサからの情報をもとにコンピュータの判断で最適な制御を行う新世代の航空機など、多くの機械装置が広い意味でのロボットであると言うことができます。そして最初にも述べたように、ロボット工学はそれら多種多様な対象をさらに進化させる原動力なのです。
ロボット工学を構成する技術
既に述べたようにロボット工学は領域横断的な技術分野であり、幅広い分野の知識が必要です。機械工学、電気電子工学、計測・制御工学、情報工学などを総合し、ロボットを実際に作って運用していきます。
機械工学
機械工学は機械の仕組みに関する技術分野で、機械力学・熱力学・流体力学・材料力学の4つの力学を基礎としています。ロボットを設計する際にどのような動作機構とするか、どのようにして使用に耐える強度を持たせるか、またどのような方法で製造するかなどを検討していきます。ロボットの骨格や筋肉に当たる部分を担当する技術です。
電気電子工学
電気電子工学は電気工学と電子工学を包括した技術分野で、電気工学ではロボットを稼動させるための電気エネルギーの仕組みと管理、電子工学ではロボットを制御するための電子回路とそれに関わる制御・通信が対象となります。各部品・デバイスの構成・機能や役割、それら相互の連携などを検討していきます。ロボットの血管や神経に当たる部分を担当する技術です。
計測・制御工学
計測・制御工学は電気電子工学に含まれる技術分野ですが、ロボットを正しく動作させるための物理的・電気的理論として特に重要です。計測工学はロボットが対象物や周辺状況などを物理量として把握するセンサ機能のために、制御工学はセンサで得た物理量を基に計算してロボットの挙動を電気的にコントロールし、また計算と実際の挙動の間に生じた誤差を修正するために必要不可欠です。ロボットの五感に当たる部分を担当する技術です。
情報工学
情報工学はコンピュータのハードウェア・ソフトウェアおよびシステム・ネットワークに関わる技術分野で、ロボット工学では制御の中枢となるロボット内部または外部の電子回路の動作や、それらとロボット各部分のやりとりをつかさどるために用いられ、プログラム・データベースの開発や通信処理などの技術が含まれます。ロボットの頭脳に当たる部分を担当する技術です。
機械学習
情報工学の一分野でAI(人工知能)の中核となる技術が機械学習ですが、自律型ロボットの制御中枢として重要性が高まっています。コンピュータがアルゴリズムによって自動的・反復的に学習する機械学習を用いることで自律型ロボットが経験を積み、予測や判断の精度を向上させ、より正確な動作を実現させます。
ロボット工学の学習方法とは?
ロボット工学を習得するには、上記の構成技術を学び、またそれらを総合してロボット全体を俯瞰できる知識を身につける必要があります。ロボット工学を志す人は、以下のようなプロセスで学ぶとよいでしょう。
大学などで学ぶ
大学や高専、専門学校などのロボット工学関連課程は、ロボット工学への王道と言えます。特に大学では、各構成技術の基礎から専門知識、応用まで深く学ぶことができ、機材も揃っているので実践的な経験も積むことができます。実践的な経験という意味では、高専も実験・実習に力を入れていることが多くお勧めです。またさらに高度な知識を身につけるためには、大学院に進むことが有効です。高度なロボット開発に携わるためには大学院修了が必須条件とすら言えます。
学科や専攻の選択ですが、ロボット工学を標榜している学科・専攻の他に機械工学系や電気電子系、情報系などの学科・専攻にも、ロボット工学に関するカリキュラムや研究室が多くあります。それらを幅広く調べて比較してみることをお勧めします。
オンラインコースや教材で学ぶ
既に上記の構成技術のいずれかの学習や実務の経験がある方がロボット工学に携わろうとする場合には、オンラインコースや教材を用いて独学することも可能です。技術教育サービスの企業・団体が受講者それぞれのレベルに合わせたコースを提供しており、また世界的に著名な大学の講義を聴講できるサービスもあります。独学を継続するには強い意志が必要であり、決して楽な道筋ではありませんが、自分の都合のいい時間と場所で学習でき、また学習内容と日常業務を関連付けて考えることにより、実践的で即戦力となる技術力を獲得できるのがメリットです。
ロボット工学によって作られたロボットの種類と実用例
これまで述べてきたようにロボット工学の対象はますます大きな広がりを見せており、「どこまでがロボット」と区切ることは困難ですが、それらの中核となるロボットを挙げることはできます。社会で広く活用されているロボット、今後発展が期待されるロボットを見ていきます。
産業用ロボット
製造業の工場や物流業の拠点などで使われる産業用ロボットは、実社会で活用されているロボットの代表格です。作業者の肉体的負担が大きく、また技能の習熟も要求される製造業の現場では、安全、品質維持、さらには人手不足対策などの面からロボットによるオートメーション化が進められてきました。産業用ロボットは単一の作業に特化したものが多く、大がかりなロボット化には多額の設備投資が必要となりますが、特に自動車・鉄鋼・半導体などの大規模産業では投資を上回るメリットがあり、それら産業が産業用ロボットの需要を牽引してきています。
例えば自動車産業では、溶接・塗装など危険を伴う作業や組立など反復を要する作業、また部品の搬送・供給などに産業用ロボットが広く使われ、安全性、品質、生産性の向上を実現しています。
介護用ロボット
サービス分野のロボットも大きな成長が見込まれています。中でも少子高齢化社会の到来に伴い、大きな期待が寄せられているのが介護用ロボットです。介護業界では介護スタッフの深刻な人手不足が続いており、業務に支障が出ています。そこで介護用ロボットを導入して介護スタッフと協働することで、介護サービスのレベルを維持・向上させ、また介護スタッフの負担を軽減する取組みが進められています。
例えば移動・入浴・排泄など、本来は複数人で行う介護業務にロボットを用いることでスタッフの力仕事を減らし、要介護者とのコミュニケーションなど人にしかできない業務に注力できるようになります。
医療用ロボット
医療の品質向上を目指す医療用ロボットも注目されています。医療現場では医師やスタッフの目視・手作業による処置に限界があり、精密さが求められる治療や検査などの業務には、従来も専用の医療機器が使用されていました。医療用ロボットを導入することによってこれらの業務をさらに高度化し、患者の治療成績向上をはじめ、心身の負担軽減と安全性確保、また医師やスタッフの負荷低減を実現することが期待されています。
例えば医師の操作を再現し、微細な手術を行うことができる手術ロボットがあります。腹腔鏡手術と同様の小さな切開部から執刀医の操作に従ってメスや内視鏡などを動かすことで、より安全で負担の少ない手術を実現しています。また患者の意志に連動して動作訓練を支援するリハビリテーション用ロボットスーツも開発されています。
ロボット工学と AIとの相乗効果
ロボット工学に関わる先端技術の中でも、特に親和性が高いのがAIです。AI技術は幅広い分野で導入・活用が進められていますが、中でもロボットにAIを搭載したりAIとロボットを連動させたりするシステムやサービスが注目されているのです。例えば商業分野では店舗でAI 搭載ロボットが接客し、顧客の需要に応じた案内や商品提供を行っています。農業分野では作物の生育度をAIで管理し、ロボットで収穫できるようになります。従来からの産業用ロボットの分野でも、人間の言葉や動作を学習できるAI搭載ロボットの導入により、人とロボットがスペースを安全に共有できるようになります。AI搭載ロボットが発展し広く活用されることにより、AI技術とロボット工学の相乗効果が発揮され、それぞれの技術がさらなる進化を遂げていくと予想されています。
まとめ
ロボット工学とは、ロボットを人の役に立てることを目的として機械工学、電気電子工学、計測・制御工学、情報工学などを総合した技術分野であり、英語ではRobotics(ロボティクス)と呼ばれます。産業用ロボット、サービスロボットをはじめ、人と社会を取り巻くさまざまな分野でロボット工学が応用されており、AI技術とも組み合わせることで、今後ますますの発展が期待されます。
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